◉ススキ
「サスケくんが好きです。私と、付き合ってください!」
桜が咲き誇る季節。
同じ髪色の少女の震える灰青の瞳がサスケを見つめる。
ハルカが迷子になってサスケに助けられて一目惚れしたのが3歳の頃だった。
それからハルカは自分の誕生日に合わせてサスケに告白するのが毎年の恒例となっていた。
そして今年で17年目。
「断る」
サスケが断るのと毎年の恒例だ。
しかし今年のハルカは違ったのだ。
ギュッとスカートを握りしめてサスケを睨む。
「どうして?」
「子供のお前をそういう目で見たことはない」
「子供じゃないわ。私もう20歳になったのよ」
「それでもオレからしたらお前はずっと子供だ。いい加減諦めろ」
じゃあな、とサスケはハルカに背を向けて去っていく。
後ろから「私諦めないからーー!」と叫ぶ声に、はるか昔の人物の面影を感じてサスケはため息を吐いた。
暫く歩いてハルカからは見えない道に入ると、目の前で人が立ち塞がっていた。
自分より低い人物はツクシで、先ほどのハルカのように睨んできていた。
普段は冷静沈着で自分に睨んでくるなど、怖いもの知らずのハルカとは違ってツクシがこうやって怒りを顕にしているということは、先ほどの出来事を知っているのだろうとサスケはまたため息を吐いた。
「今度はお前か」
「サスケさん、お姉ちゃんをまた振ったんですね」
「・・・あぁ」
サスケの言葉にキッと更に強く睨み、横をすれ違おうとしたとき、
「・・・お姉ちゃん泣かしたこと、許しませんから」
いつもより低い声でそう言うと、ツクシはハルカがいる場所へと走っていった。
ツクシはハルカと違って大人しく頭が良い。
しかし姉が関わると面倒で、所謂シスコンというやつなのだと誰かから聞いたことがある。
あの執着はあいつからの遺伝だろう。
サスケは重々しいため息を吐いて目的地へと向かった。
ある一軒家の前で止まり、呼び鈴を鳴らすと中から元気な声が聞こえる。
ドタドタと騒がしい音と共に勢いよく玄関が開いた。
「サスケにいちゃん!」
「元気そうだなススキ」
「うん!あのさ、あのさ!」
ススキの言葉遣いにかつての友を思い出させる。
なぜかこの末っ子は現火影であるナルトを慕っているのだ。
こいつは火影になったナルトしか知らないが姉達はだらしなかった頃を知っているので、かっこいいナルトの話をススキから聞かされている時に何ともいえない顔をしている。
「なんだ」
「にいちゃん、またハルねえフッたんでしょ!」
「・・・・・・なぜ知ってる」
「パパがいってた!すげーな、にいちゃんは!かっこいい!」
あの父にしてあの娘か。
親バカのあの男に今日何度目かのため息を吐いた。
わーわー、騒ぐススキの後ろからサクラが現れる。
「サスケくん。いらっしゃい」
「あぁ」
懐かしく、少し大人っぽく笑うようになったように思う。
サクラに手に持っていた少し大きめの箱を渡す。
箱に書かれたロゴを見て「あら」と嬉しそうに笑う。
「ハルカが好きなケーキ買ってくれたの?あの子喜ぶわ。と言っても、暫く帰ってこないだろうけどね」
ふふ、とイタズラに笑うサクラに苦笑する。
彼女も先ほどの出来事は知っているのだろう。
上がってと言われてススキに手を引かれて家に上がる。
ハルカが産まれる前から通っているから勝手知ったる他人の家だ。
自分の家より何がどこにあるのか知っているのではないだろうか。
「ごめんね、毎年毎年あの子が迷惑かけて」
「慣れてる」
「ふふ。17年だものね。いい加減あの子に向き合ってあげてもいいんじゃない?」
「・・・・・・本気で言ってるのか」
サスケは眉間に皺を寄せる。
かつて、しつこいほどに自分のことを好きだと言っていたのに。
ケーキを冷蔵庫にしまったサクラは振り向いて微笑む。
その顔はかつての自分に向けられた少女の笑みではなく、母親そのものだった。
「だって好きな人に振り向いてもらえない痛みは一番知ってるもの。それに私はあの子に幸せになってもらいたいし」
「・・・・・・・・・」
フラれて気絶もさせられたものね?、とじっとこちらを見てくる視線に居心地が悪くて顔を背ける。
あの時の彼女を受け入れていたら未来は変わっていたのだろう。
あの時の自分に彼女の好意を受け入れることなどありはしなかったが。
今は自分でも丸くなったとは思うが、この里を潰そうとしていた男の側で娘が幸せになれるなど、本当に思っているのだろうか。
これ以上この話をしては無意味と、話題を無理やり変える。
「・・・そういえばカカシはどうした」
「上よ」
「上?2階か」
サスケの言葉にサクラは首を横に振る。
「違うわ。屋根よ」
「・・・屋根?」
「ハルカがサスケくんに振られて、嬉しい気持ちと可哀想な気持ちと戦ってるらしいわ。あとサスケくんに会いたくないとか言ってるのよ」
なんだそれは。
子供っぽい行動に、あれがかつては自分の師であり里の長であったなど信じたくない。
当時はどこか掴みどころのない雰囲気だった男がこんなふうになったのはサクラと付き合うようになってから、子供たちが産まれてからは最初の面影など全くない。
呆れている自分とは違ってサクラは慣れているのか夫の行動を全く気にしていない。
気にしてもキリがないということだ。
それにこれから会わなくてはいけないというのに。
「ナルトは来れるのか」
「うん。さっき今から行くって連絡来たから、ついでにハルカとツクシ迎えに行ってもらったわ。忙しい中来てくれるし、なんだかんだでナルトのこと好きだからね、あの子達」
ふふ、とサクラは楽しそうに笑って大きなお皿をキッチンから運ぼうとしているのでそれを代わりに運んでやる。
テーブルにはいつもより豪華なご飯が並んでいる。
今日ははたけ家の長女、ハルカの20歳の誕生日だ。
この日だけは里の外にいるサスケも必ず帰ってくるし、火影であるナルトもどんなに忙しくても時間を作って祝いにくる。
友と師の子供の誕生日なのだ。
血は繋がっていなくても家族、妹のような娘のような存在。
ツクシとススキの誕生日には同じように駆けつけるが、ハルカは一番特別のように感じる。
一番最初の子、というのもあるだろうが、大きくなるにつれサクラに似てくるから昔を思い出して無碍に扱いにくい。
パーティの準備をしていると、家の外が騒がしいことに気づいた。
声の数は4つ。
大方、カカシが帰ってきたハルカに絡んでいるのだろう。
年頃のハルカは溺愛してくるカカシを鬱陶しく思っているので言い争っているのが聞こえてきて、サクラとサスケは顔を見合わせて苦笑する。
インターホンが鳴り、またススキが元気に玄関に向うので2人も続いて出迎えに行く。
ドアが開き、カカシに文句を言っていたハルカはサスケの顔を見て嬉しそうに笑う。
「ただいまー!」
「おかえりなさい」
「誕生日おめでとう」
「!ありがとう、サスケくん!!」
さっきフラれた相手からの祝福だというのに、この満面の笑み。
本当、この顔には弱いらしい。
桜が咲き誇る季節。
同じ髪色の少女の震える灰青の瞳がサスケを見つめる。
ハルカが迷子になってサスケに助けられて一目惚れしたのが3歳の頃だった。
それからハルカは自分の誕生日に合わせてサスケに告白するのが毎年の恒例となっていた。
そして今年で17年目。
「断る」
サスケが断るのと毎年の恒例だ。
しかし今年のハルカは違ったのだ。
ギュッとスカートを握りしめてサスケを睨む。
「どうして?」
「子供のお前をそういう目で見たことはない」
「子供じゃないわ。私もう20歳になったのよ」
「それでもオレからしたらお前はずっと子供だ。いい加減諦めろ」
じゃあな、とサスケはハルカに背を向けて去っていく。
後ろから「私諦めないからーー!」と叫ぶ声に、はるか昔の人物の面影を感じてサスケはため息を吐いた。
暫く歩いてハルカからは見えない道に入ると、目の前で人が立ち塞がっていた。
自分より低い人物はツクシで、先ほどのハルカのように睨んできていた。
普段は冷静沈着で自分に睨んでくるなど、怖いもの知らずのハルカとは違ってツクシがこうやって怒りを顕にしているということは、先ほどの出来事を知っているのだろうとサスケはまたため息を吐いた。
「今度はお前か」
「サスケさん、お姉ちゃんをまた振ったんですね」
「・・・あぁ」
サスケの言葉にキッと更に強く睨み、横をすれ違おうとしたとき、
「・・・お姉ちゃん泣かしたこと、許しませんから」
いつもより低い声でそう言うと、ツクシはハルカがいる場所へと走っていった。
ツクシはハルカと違って大人しく頭が良い。
しかし姉が関わると面倒で、所謂シスコンというやつなのだと誰かから聞いたことがある。
あの執着はあいつからの遺伝だろう。
サスケは重々しいため息を吐いて目的地へと向かった。
ある一軒家の前で止まり、呼び鈴を鳴らすと中から元気な声が聞こえる。
ドタドタと騒がしい音と共に勢いよく玄関が開いた。
「サスケにいちゃん!」
「元気そうだなススキ」
「うん!あのさ、あのさ!」
ススキの言葉遣いにかつての友を思い出させる。
なぜかこの末っ子は現火影であるナルトを慕っているのだ。
こいつは火影になったナルトしか知らないが姉達はだらしなかった頃を知っているので、かっこいいナルトの話をススキから聞かされている時に何ともいえない顔をしている。
「なんだ」
「にいちゃん、またハルねえフッたんでしょ!」
「・・・・・・なぜ知ってる」
「パパがいってた!すげーな、にいちゃんは!かっこいい!」
あの父にしてあの娘か。
親バカのあの男に今日何度目かのため息を吐いた。
わーわー、騒ぐススキの後ろからサクラが現れる。
「サスケくん。いらっしゃい」
「あぁ」
懐かしく、少し大人っぽく笑うようになったように思う。
サクラに手に持っていた少し大きめの箱を渡す。
箱に書かれたロゴを見て「あら」と嬉しそうに笑う。
「ハルカが好きなケーキ買ってくれたの?あの子喜ぶわ。と言っても、暫く帰ってこないだろうけどね」
ふふ、とイタズラに笑うサクラに苦笑する。
彼女も先ほどの出来事は知っているのだろう。
上がってと言われてススキに手を引かれて家に上がる。
ハルカが産まれる前から通っているから勝手知ったる他人の家だ。
自分の家より何がどこにあるのか知っているのではないだろうか。
「ごめんね、毎年毎年あの子が迷惑かけて」
「慣れてる」
「ふふ。17年だものね。いい加減あの子に向き合ってあげてもいいんじゃない?」
「・・・・・・本気で言ってるのか」
サスケは眉間に皺を寄せる。
かつて、しつこいほどに自分のことを好きだと言っていたのに。
ケーキを冷蔵庫にしまったサクラは振り向いて微笑む。
その顔はかつての自分に向けられた少女の笑みではなく、母親そのものだった。
「だって好きな人に振り向いてもらえない痛みは一番知ってるもの。それに私はあの子に幸せになってもらいたいし」
「・・・・・・・・・」
フラれて気絶もさせられたものね?、とじっとこちらを見てくる視線に居心地が悪くて顔を背ける。
あの時の彼女を受け入れていたら未来は変わっていたのだろう。
あの時の自分に彼女の好意を受け入れることなどありはしなかったが。
今は自分でも丸くなったとは思うが、この里を潰そうとしていた男の側で娘が幸せになれるなど、本当に思っているのだろうか。
これ以上この話をしては無意味と、話題を無理やり変える。
「・・・そういえばカカシはどうした」
「上よ」
「上?2階か」
サスケの言葉にサクラは首を横に振る。
「違うわ。屋根よ」
「・・・屋根?」
「ハルカがサスケくんに振られて、嬉しい気持ちと可哀想な気持ちと戦ってるらしいわ。あとサスケくんに会いたくないとか言ってるのよ」
なんだそれは。
子供っぽい行動に、あれがかつては自分の師であり里の長であったなど信じたくない。
当時はどこか掴みどころのない雰囲気だった男がこんなふうになったのはサクラと付き合うようになってから、子供たちが産まれてからは最初の面影など全くない。
呆れている自分とは違ってサクラは慣れているのか夫の行動を全く気にしていない。
気にしてもキリがないということだ。
それにこれから会わなくてはいけないというのに。
「ナルトは来れるのか」
「うん。さっき今から行くって連絡来たから、ついでにハルカとツクシ迎えに行ってもらったわ。忙しい中来てくれるし、なんだかんだでナルトのこと好きだからね、あの子達」
ふふ、とサクラは楽しそうに笑って大きなお皿をキッチンから運ぼうとしているのでそれを代わりに運んでやる。
テーブルにはいつもより豪華なご飯が並んでいる。
今日ははたけ家の長女、ハルカの20歳の誕生日だ。
この日だけは里の外にいるサスケも必ず帰ってくるし、火影であるナルトもどんなに忙しくても時間を作って祝いにくる。
友と師の子供の誕生日なのだ。
血は繋がっていなくても家族、妹のような娘のような存在。
ツクシとススキの誕生日には同じように駆けつけるが、ハルカは一番特別のように感じる。
一番最初の子、というのもあるだろうが、大きくなるにつれサクラに似てくるから昔を思い出して無碍に扱いにくい。
パーティの準備をしていると、家の外が騒がしいことに気づいた。
声の数は4つ。
大方、カカシが帰ってきたハルカに絡んでいるのだろう。
年頃のハルカは溺愛してくるカカシを鬱陶しく思っているので言い争っているのが聞こえてきて、サクラとサスケは顔を見合わせて苦笑する。
インターホンが鳴り、またススキが元気に玄関に向うので2人も続いて出迎えに行く。
ドアが開き、カカシに文句を言っていたハルカはサスケの顔を見て嬉しそうに笑う。
「ただいまー!」
「おかえりなさい」
「誕生日おめでとう」
「!ありがとう、サスケくん!!」
さっきフラれた相手からの祝福だというのに、この満面の笑み。
本当、この顔には弱いらしい。