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◉ツクシ

季節は白からピンクに移り変わろうとしている今日この頃。
はたけ家の中も変わろうとしていた。

「ハルカ。明日の三者面談はママが行くからね」
「・・・大丈夫なの?最近忙しいって言ってたけど」

ハルカは心配そうにサクラを見上げてくる。
新年度が始まる今は健康診断やらなんやで医療局は忙しい。
それはもちろん医務局長のサクラも同じ、いや長の分他の人より忙しさは比ではない。

「大丈夫よ!ママは元気だけが取り柄なんだから」
「・・・うん」

ぐっと握り拳をして笑うサクラ。
それでも浮かばれない顔をするハルカに、サクラは屈んで顔を覗き込む。

「どうしたの?」
「・・・パパは来ないの?」
「パパ?うーん・・・パパは明日とっても大事な会議が入ってるから難しいわね。何か聞きたいことあるなら夜聞いたら?」
「・・・ううん、大丈夫」

何かあるの?、と聞いてくるサクラに首を振ってハルカは朝食の食パンを齧った。



****


夕方。
アカデミーが終わり、一緒にアカデミーに通うツクシといつものように帰ろうとしたら先生に頼まれごとをされたというので近くの河川敷で妹を待つことにした。

「・・・はぁ」

先日、担任のシノから貰った手紙を読むたびに、ハルカは何回もため息を吐いている。
手紙の内容は、来週に控えるアカデミー卒業試験について。
卒業した後、下忍になるのかそのまま進学するのか別の分野にいくか。
全員が同じ道を進んでいくわけではないため、アカデミーでは卒業前に三者面談が行われる。
クラスメイト達は皆ちゃんとこれからのことを考えている中、ハルカは自分の将来のことに悩んでいた。
両親も祖父も周りも忍だから、自分も忍になるのが当たり前と思ってアカデミーに入ったけど、これが本当に自分が進みたかった未来だったのかと最近不安でしょうがない。
敷かれたレールの上をただ歩いているだけで、本当に自分は忍になりたいのだろうか。

「はぁ・・・」
「どうしたの?」

何回めかのため息を吐いたとき、気配のしなかった背後から急に声をかけられたから驚いて後ろを振り向く。
そこには目の下に紫のテープを貼った見知らぬ男が立っていた。
しかも手にはカメラを持っていて、不審者かと思い後ろに下がっていると気付いた男が慌てだす。

「あ、ごめん!怪しいものじゃないんだ。ボクはスケアといって、火影様に今度のアカデミーの卒業試験の写真撮影を依頼されてるんだ」
「そう・・・なんですか」

はいこれ、と依頼書が書かれた紙を見せられ、そこには承諾印で火影のハンコが押されていた。
偽物ではないみたいだけどまだ少し警戒心が残るのは見た目のせいだろう。

「君は六代目様の娘さんだよね?」
「はい。はたけハルカと言います」
「ハルカちゃん、よろしく。それでハルカちゃんはこんなところで何してたの?」

初対面の人に人生の相談事をすることに一瞬躊躇したが、どこか安心できる雰囲気に自然と口が開いた。

「・・・その、今度の卒業試験のことで」
「先生たちから君は優秀で卒業は間違いなしって聞いたけど?さすが火影様の子だって」
「・・・・・・・・・」
「もしかしてそれが悩み事?ボクで良かったら相談に乗るよ」
「・・・誰にも言わない?」
「うん」

スケアはニコリと微笑んで隣に座り、手元のカメラを地面に置いた。
それを見て、一呼吸置いて心の奥に秘めた気持ちを打ち明ける。

「私のパパとママね、忍なの。それに私が産まれるずっと前に死んじゃったおじいちゃんも名だたる忍だったって」
「・・・あぁ、木ノ葉の白い牙だね」
「知ってるの?」
「うん。実際に会ったことはないけどすごく強い忍だったって聞いてるよ」
「そうなんだ・・・」

祖父のことは写真とカカシから聞かされる話の中でしか知らなかったし、他の人はあまり祖父のことを口にすることがなかった。
だから他の人から祖父のことを少しでも聞けたことが嬉しかった。

「・・・パパとママも強いの。それにね、お兄ちゃんみたいな2人がいてその2人も強いのよ。そんな人たちに囲まれて育ったから私も小さい頃からみんなみたいに強い忍になりたいって思ってた、んだけど・・・」
「そうじゃなくなった?」

ハルカはこくん、と頷いて手に力が入る。

「・・・私がアカデミーに入ってから大人の人たちにいつも言われるの。『お父さんみたいな立派な忍になるんだよ』って。どんなに頑張っても『さすが火影の子だ』って言われて、誰も私のこと見てないんだって。そしたら私は何で忍になりたいのか分からなくなったの」
「・・・そうか」

小さい体にのしかかる大人からのプレッシャーはどれだけ重かったのだろう。
子供は親を選べないというのに。

「ハルカちゃんは何で忍になりたいと思ったんだい?」
「それは、パパとママが・・・」
「確かに親御さんのこともあるだろうけど、あの2人は無理強いしたりしないよね?」
「うん・・・」
「ならどうして?」

スケアの質問にハルカはじっと自分の手を見る。
それはまだ自分が小さかった時の記憶。

「・・・私が4歳のときに妹が産まれたの。ツクシっていうんだけど」
「可愛い?ツクシちゃん」
「うん、すごく。でね、産まれたときのあの子の手に触れた時、小さくてなんて儚いんだろうって。私が守ってあげなくちゃって思ったの」
「そっか。ならそれが忍になる目標でいいんじゃないかな」
「え?でも、忍は里のために・・・」
「まぁそれもあるけど、家族や仲間のために戦うのだっていいんじゃないかな?六代目もそう言うと思うけど」

その言葉に、母とその友たちが話していたことを思い出した。
ハルカがアカデミーに入るとき、忍としての大事な心得として。

「・・・前にね、ママたちが話してたの。下忍の時にパパに最初に教わったのは何よりも仲間を大切にすること。だから今も3人でいるんだって」
「すごく素敵な言葉だね」
「うん。私もその言葉を大事にしたい」
「できるよ。カカシさんとサクラちゃんの子供なんだから」

スケアが頭を撫でると、ようやくハルカの顔に笑みが生まれる。
火影の子供ではなく、はたけカカシとはたけサクラの子供と言われたことが嬉しい。
そこでツクシが後ろからやってくる。

「お姉ちゃん」
「ツクシ。先生のお手伝いは終わったの?」
「うん・・・」

2人は立ち上がって土手を上がり、ツクシの元に歩く。
ツクシはジーとハルカの隣に立つスケアを見ている。

「スケアさん、この子は」
「・・・何やってるのパパ」
「──え?」

スケアにツクシを紹介しようとしてそれを遮られる。
ハルカはツクシの言葉に目を丸くする。
今、妹は何と言った?

「ツクシ?この人はスケアさんでパパじゃ」
「気配も声も上手く変えてるけどパパだよ。私の目は誤魔化されない」

真っ直ぐ見つめてくる翡翠の瞳に、スケアは冷や汗をかく。
昔からこの瞳に見つめられたら勝てないことを知っている。
それは勿論、最愛の妻によって。
それにしても、ツクシはカカシに似て才能があるとは思っていたが、現火影の変化を見破るほどとは。
男は諦めて声を出し調整しだす。

「あー、あー・・・さすがツクシだな。参った参った」
「ぱ、パパ!?」

ハルカはまた目を丸くする。
見た目はスケアなのにカカシの声がするからだ。
カカシはウィッグとカラコン、目のテープを剥がして、髪をグシグシ掻く。
そうすればいつものカカシの出来上がり。

「ど、どういうこと!?なんでパパが、こんな・・・」
「あー・・・いやね?サクラからハルカが何か悩んでるって話聞いてさ。でもオレのまま素直に話さないかなーって思って・・・ごめーんね?」

てへっと悪びれもなく笑うカカシに、ハルカの眉がピクピク動く。
あ、これはヤバいとすぐに気づいたツクシは一歩下がる。

「パパ・・・」
「ん?」
「・・・の馬鹿!!」
「うぐっ!?」

ハルカはカカシの鳩尾にチャクラ込めた拳を思い切り打ち込んだ。
母親譲りの拳をカカシはモロに受けてその場に蹲り、ハルカはツクシの手を取って歩きだす。

「行くよツクシ!!」
「・・・うん」

怒ったときのハルカはサクラと同じく怖いことを知っているので、未だ蹲るカカシを置いてハルカの後を続いた。



「おかえりー・・・、どうしたの?」

呼び鈴が鳴り2人一緒に帰ってきたのをサクラが出迎えると、そこには憤慨した顔をしているハルカが立っていて驚く。
ハルカは決意を込めた目でサクラを見る。

「ママ」
「なに?」
「私、忍になるわ。大切な人たちを守るために」
「そう・・・」

何か思い悩んでいたようだったが解決できたらしい。
これもカカシの──

「あと、パパを倒すために」
「・・・は?」

おかげ、と思った矢先のとんでもない発言にサクラは虚をつかれた。
ふんふん、と鼻息荒く家の中に入るハルカと困った顔でこちらを振り返るツクシの背中を見送り、サクラは頬に手を当てて首を傾げる。

「・・・どういうこと?」

 
その30分後、腹を抱えて自力で帰ってきたカカシを見てサクラはまた驚かされるのだった。


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