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◉ツクシ

「ママ、抱っこ!」
「今ツクシ抱っこしてるから我慢して?」

朝の一番忙しい時間、皆の朝食や準備やらで忙しくしている中、産まれたばかりのツクシが泣き出してあやしていると、それを見たハルカがサクラに手を伸ばして我儘を言い出す。
抱っこしてやりたいのは山々だが、サクラの腕は2本しかなく今はそれが塞がっている。
申し訳なく断るも、サクラ譲りの頑固のハルカはそれでもサクラに強請る。

「やだやだ!だっこぉ!」
「もうハルカ。お姉ちゃんでしょ?」

汚いが少しキツめに叱ると、ハルカは頬を思い切り膨らませ、抱っこしてほしい欲求は収まらないので仕方なく朝食を食べているカカシに手を伸ばす。

「パパぁ」
「ん?良いよ、おいで──」
「パパは早く行きなさい。会議遅刻するわよ」
「・・・はい。ごめんな、ハルカ」

カカシは申し訳なさそうにハルカの頭を撫で、ベストを着て玄関に向かう。
靴を履いたカカシが振り向くとツクシを抱っこしたサクラが四角い包みを差し出す。

「はい。お弁当」
「ありがとう。大変なのにいつも悪いね」
「好きでやってるから良いの。それにただでさえ帰ってこない日があるんだから、こういう時にちゃんと栄養管理してあげないと、面倒くさがって兵糧丸しか食べないんだもの」
「はは。さすがサクラ。それじゃ、行ってきます」

痛いところを疲れて眉を下げて笑うカカシは、いつものようにサクラにキスをして、腕の中にいるツクシの額に。
そして、

「あれ、ハルカー。行ってくるよー」

いつもサクラの隣でお見送りをしてくれるハルカがいない。
部屋の中に向かって呼びかけると、リビングのドア付近にハルカは立っていたのだが、目が合うと鼻を流して部屋の中に走っていった。
誰に似たのか機嫌が悪くなるとなかなか治らない。
2人は苦笑する。

「・・・もう」
「・・・まぁしょうがないね。行ってきます」
「行ってらっしゃい」

サクラとツクシに見送られてカカシは仕事へと向かった。
サクラがリビングに戻ると、ハルカは頬を膨らませて床で積み木で遊んでいた。
そろそろ幼稚園に行く時間だ。

「ハルカ。早く幼稚園の準備して」
「・・・・・・・・・」
「ハルカ!」

無視してまだ遊ぶハルカを強く怒ると、ハルカは渋々立ち上がって自分の部屋に向かった。
その時、大きな瞳に透明な膜が張っているのが見えて、サクラは自分を責めるようにため息を吐く。
周りから第二子が産まれたら第一子が赤ちゃん返りをしたり我儘が増すとは聞いていた。
今まで自分が中心だったのに、いきなりその座を奪われて精神的に不安定になるだろうハルカを支えようと思っていたのに。
ここまで自分に余裕がないとは思わなかった。
ツクシは産まれたばかりで一番手のかかる時期だし、カカシは火影が忙しくて帰れない日や帰れても皆が寝静まった時間になったりする。
だから基本サクラ1人で2人を見ないといけず、家事もしながらだと上の子にまで目が行き届かない。
カカシには任せてと意気込んでいながら、自分の不甲斐なさにサクラはハルカに気づかれないように鼻を啜った。



家を出てからも、いつもは手を繋ぐのに距離を開けて俯きながら1人隣を歩くハルカ。
お互い気持ちの整理が出来ておらず、黙って幼稚園へと歩いていると、偶然にもナルトにも出会した。

「あらナルト」
「おはよう3人とも!これから幼稚園?」
「そうよ」
「・・・ハルカちゃん調子悪い?」

ナルトが声をかけてもハルカは俯いたままで、いつもの元気がない。

「私が怒ったから朝からご機嫌斜めなのよ」
「サクラちゃん怒ると怖いもんねー」
「何か言った?ナルト」
「何でもないってばよ!」

サクラが握り拳を作るとナルトは慌てて距離を取る。
綱手譲りの怪力は今は命を脅かすほどの脅威となっている。

「もう・・・それより今日は休み?」
「いーや。内勤っていうか、これからイルカせんせーとおベンキョー」
「ああ、いつもの」
「そー・・・ずーとベンキョーベンキョーでさー。外出て走り回りたくなるんだ」
「火影になるためでしょ。頑張りなさいよ」
「分かってっけどさー、って、お?」

2人で話していると、静かに待っていたはずのハルカがナルトのお腹に飛びつく。

「ハルカ何してるのよ」
「・・・る」
「え?」
「きょう、ようちえんいかない!ナルトといる!」
「はぁ!?」

娘の突拍子もない言葉にサクラは頭を悩ませる。

「何言ってるの!早く離れなさい!」
「いーやー!!」

無理やりハルカを剥がそうとするも、反抗するように更にナルトにしがみついて離れようとしない。
ナルトはどうしたらいいのか分からずにいると、抱っこ紐の中で眠っていたツクシが騒ぎ声で目を覚まし泣き出した。

「あ・・・ごめんねツクシ」

サクラはハルカから手を離しツクシをあやす。
その姿にハルカは頬を膨らませて羨ましそうに見ていることにナルトは気づいた。

「・・・サクラちゃん。今日ハルカちゃんと一緒にいてもいい?」
「え?でもハルカ邪魔になるでしょ?」
「全然!ハルカちゃんがいたらイルカ先生も優しくしてくれるから!」

ニカっと笑うナルト、こちらを見ようとしないハルカにサクラは諦める。

「・・・じゃあお願いしてもいい?時々様子見に行くから」
「りょーかいだってばよ!」

じゃーね、とナルトはハルカを抱えたままアカデミーの方へと向かう。
その間もハルカはナルトの胸に顔を埋めたままこちらを見ることはなく、サクラは大きくため息を吐いた。



****



「サクラから聞いてはいたけど、本当だったとはね」
「カカシ先生」

昼過ぎ、所用でイルカが席を外し1人勉強しているとカカシが部屋に入ってきた。
ハルカはお昼を食べて、満腹と疲れが出たのかナルトにコアラ状態で眠っていた。
カカシはイルカが座っていた椅子に座って向き合う。

「悪いね、迷惑かけて」
「ぜーんぜん。最近忙しくてハルカちゃんと話す時間無かったから良かったってばよ。ハルカちゃんも色々話せてスッキリしたみたいだし」
「・・・ハルカ、何か言ってたか?」
「カカシ先生とかサクラちゃんの文句いっぱい言ってた」
「やっぱりか・・・」

カカシはため息を吐いて腕を伸ばし、眠るハルカの頭を撫でる。

「ツクシが産まれてからオレもサクラも前ほど構ってやれなくなったからね・・・」
「まぁ、それはしゃーねんじゃねーの?それにハルカちゃん、2人の文句は言ってたけどツクシちゃんの文句は一言も言ってなかったぜ?」
「・・・そうなのか?」
「そーなの。ツクシちゃんは可愛い可愛いってずーっと耳がタコになるぐらい話してたってばよ」
「そっか・・・それなら良かった」

ほっ、とするカカシにナルトは眠るハルカの頭を撫でる。

「たぶんハルカちゃん、寂しかったんじゃねーかな。パパとママが自分のこと見てくれなくなって」
「・・・・・・・・・」
「ってオレ親も兄弟もいないから想像だけどさ!」

あはは!と笑うナルトの頭を撫でると、ナルトは驚いた顔をする。
こうやってカカシに頭を撫でられるのは下忍の頃以来だった。

「確かにお前には家族はいなかったけど、オレはお前のことも家族だと思ってるよ」
「・・・え」
「顔合わせたのはナルトが12の頃だけど、お前が母親のお腹にいる時に守ってたんだぞ?オレは」
「そうなの!?」

初耳だと言わんばかりにナルトは身を乗り出しそうになる。
しかし胸にはハルカがいてそれは叶わない。
ナルトの出生のことは里の機密とされていたからこのように昔話をすることはなかった。
話したいと思ったのはかつての師と同じ父親の立場になったからなのか。

「そ。四代目・・・ナルトの父親からお願いされてね」
「父ちゃんが・・・」
「まぁ・・・その頃のオレも色々あってその任に就かせてもらったんだけど。2人が亡くなった後もちょこちょこ遠くからお前のこと見守ってたんだよ。父親代わり・・・いや兄貴の気分な、あれは」
「カカシ先生が、兄ちゃん・・・」

兄、という言葉にナルトは嬉しそうに破顔する。
大戦で両親と再会したが、もうこの世にはおらず、兄弟もいない天涯孤独の身のナルト。
それはカカシも結婚するまでは同じ。
血は繋がっていないが、本当に弟のように感じていたのだ。

「それに今はお前も兄貴だぞ」
「え?」
「ハルカにとってさ。こんなに懐いてるのはお前のことお兄ちゃんって思ってるんじゃないのか?」
「オレが、兄ちゃん・・・」

ナルトはハルカに視線を落とす。
未だ眠り続けるハルカは幸せそうにナルトにピッタリくっ付いている。
こんなふうに人に懐かれたことはなかったが嫌な気分ではない。
逆に幸せに気持ちが溢れる。

「あんな悪ガキだった弟がこんな立派になって嬉しいよ、オレは」
「っ!へへ・・・」

にこり、と微笑むカカシの顔は昔と変わっておらず。
そしてその言葉は両親の代弁のようで、懐かしさと嬉しさにナルトの目尻に涙が浮かんでいた。
それを隠すように目をぬぐい、話題を変える。

「なぁなぁ、カカシ先生」
「ん?」
「サスケとオレって、どっちが兄ちゃん?」
「えー?んー、サスケじゃないか?お前は下ぽいし」
「オレ!?」
「あと多分サスケはお前の下は嫌がりそうだ」
「く・・・!じゃあサクラちゃんはサスケのお姉ちゃん?」
「サクラはー・・・どっちかって言うとお母さん?」
「あ!すげー分かる!なんか母ちゃんに似てた!」

カカシの言葉にナルトは納得するように何度も頷く。
真面目で面倒みの良いサクラは姉にも思えるが、その安心感からどこか母性を感じさせる。
そして何より怒らせたら怖いのだ。

「あぁ、クシナさん?確かに2人似てるよなー。四代目もよく怒られてたし」
「マジ?色々聞かせてってばよ!」

両親の話にナルトの目がキラキラ輝き、カカシは苦笑する。
この間まで両親のことを知らずに生きてきたのだから知りたくてしょうがないのだろう。
しょうがない、とカカシは自分が知っている話をナルトに聞かせていると、部屋のドアが控えめにノックされる。
イルカが帰ってきたのかと思いナルトが返事をするとドアはゆっくり開かれ、そこから現れたのはカカシの最愛の妻のサクラだった。
サクラは不安そうに部屋の様子を伺っている。

「サクラ」

名を呼ぶと、今までぐっすりナルトの胸で眠っていたハルカは目を覚ます。

「ママ・・・?」

朝、怒ってしまった手前どんな顔をしていいのか分からなかったが気になってしまい顔を出してしまった。
不安そうにしているサクラに、ハルカは手を伸ばして抱っこして欲しそうにしている。
サクラは目尻に涙を浮かべて笑い、ツクシをカカシに渡す。
そしてナルトからハルカを受け取って思い切り抱きしめる。

「ママのだっこすきぃ」
「・・・ママもハルカ抱っこするの大好きよ。ごめんね。怒っちゃって」
「ううん。ハルカ、おねーちゃんだから!」

にしし、とサクラ譲りの笑い方をするハルカをサクラは更に抱きしめる。
幸せそうに笑い合う2人を、カカシとナルトは微笑んで見守った。



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