「ままぁ」
「どうしたの？」

お皿を洗って片付けをしていると、カカシとお風呂に入っていたはずのハルカが眉を下げて服をひっぱってくる。

「パパないちゃった･･･」
「へ！？な、何があったの？」
「ハルカがね、もしママがしんじゃったらどうする？ってきいたの」
「あー･･･」

それだけで何があったのか分かり、泣きそうな顔をしているハルカの頭を撫でる。

「ママがパパをいい子いい子しておくから、ハルカはもう寝なさい」
「うん･･･おやすみなさい･･･」
「おやすみなさい」


サクラはハルカを見送り、浴室をノックする。

「はぁ〜い･･･」

落ち込む声に苦笑して開けると湯船にもたれかかり落ち込むカカシ。
服が濡れないようにしゃがんで顔を覗き込む。

「カカシ先生」
「んー･･･？」
「私、先生より先に死なないわよ」

情けない顔でゆっくりサクラを見るカカシに微笑む。
この人は仲間を死を恐れている。
大切な人が増えて尚更。
ハルカはきっと何も考えずに言った言葉だったのだろう。
それでいきなり父親が泣き出したら慌ててしまうのはしょうがないだろう。

「今は内勤ばかりだし危険な任務に出ることなんてもうないし」
「まぁ、そうだよね･･･」
「それに先生より14も若いんだから、老衰だって先生のが先よ？」
「うん、だよね･･･」
「何が気にかかってるのよ」
「いやさ、オレが先に死んだ時、サクラに寂しい思いさせるよなって」

カカシの言葉にサクラは目を丸くする。
まさかの自分のために泣いてくれていたとは。
自分が大切な人を失った悲しみを知っているからそれをサクラに味あわせたくないと。
この人はどこまで優しいのか、とサクラの頬が緩む。

「ならお互い100歳まで生きて、いっせーのって言う？」
「あぁ、それもいいかもな」

おかしそうに笑うその顔はいつものカカシの笑顔でサクラも嬉しくなって同じように笑う。

「ほら、早く上がってハルカのとこに行ってきて。パパ泣いちゃったってハルカも泣いてたわよ」
「それは悪いことしたな」

よっと、とカカシが湯船に手をついて立ち上がろうとする。
お風呂に入ってたからもちろんタオルなども付けておらず、サクラは顔に手を当てて慌てて身を翻す。

「ちょっ！私が出てからにしてよ！それか前隠して！」

顔を真っ赤にするサクラにカカシの悪戯心がムクムクと湧き上がる。
何年経っても恥ずかしがるサクラが可愛くてしょうがない。

「もう何回も見てるでしょ。そんな可愛いこと言うから元気になっちゃったじゃない」
「も、もう！早くハルカのとこ行きなさいよ！」
「んー。あ、そうか」

カカシは素早く印を組むと、煙と共に裸のカカシがもう1人現れてサクラは目を見開く。

「こんなことに影分身使うの！？それに使うなら服着てからにしてよ！」
「まーまー、それじゃ頼んだぞ」
「しょうがないねぇ」

2人のカカシはサクラを置いて会話をして分身のカカシが浴室を出てテキパキと服に着替え、本体のカカシが後ろからサクラの手を取る。

「ま、そういうことだから」
「じゃ、後でオレも混ぜてよね」
「え、あ、や･･･」

分身のカカシが不穏なことを言いながら洗面所を出ていくのとサクラが湯船に引き摺り込まれるのは同時だった。