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◉ツクシ

カカシは白で統一された廊下を進み、目的のドアをノックすると優しい声で返事が返ってくるのでゆっくりと開ける。
中も真っ白の部屋で、日差しが差し込んで目が眩む。
そんな中、

「カカシ先生」

愛おしい声に呼ばれて見ると、ドレッサーの前に座りこちらを見る白に包まれた少女が微笑む。

「・・・サクラ」

カカシは眩しいものを見るように微笑んで、足を進めサクラの側に立つ。

「綺麗だよ、サクラ・・・」
「ありがとう。先生もすごく似合っててかっこいい」

サクラはカカシの手を取って可愛らしく微笑む。
今のカカシは白いスーツに白いネクタイと、結婚式での新郎の格好をしている。
そう、結婚式。
今日はカカシとサクラの結婚式だ。
さすがに今日はいつものボサボサ頭とはいかず、ワックスでバッチリ決めて、口布も外している。
サクラにとって見慣れた顔でも、今日初めて素顔を見るスタッフが騒いでいるのが廊下から聞こえていた。

そしてサクラは、フリルやレースで飾られた純白のウェディングドレスを身にまとっている。
結婚式の前、カカシと一緒にドレスを選びにきた時に2人で決めたドレス。
お腹を締め付けないエンパイアドレスをずっと探していた。
肩を出したデザインはサクラの魅力を上げる。
綺麗に手入れされた薄紅色の髪も、いのが用意した花の髪飾りで結い上げられ、露わなったうなじにキスをしたくなるが我慢しなくてはいけない。

「もう少しで式が始まるって」
「そう・・・何だか緊張してきちゃった」

サクラは眉を下げて心臓に手を当てて笑う。

「ねぇ、やっぱり胸元寂しくないかしら?」

ドレスはオフショルダーのため胸元が少し寂しいのをサクラはずっと気にしていて、カカシが大丈夫だというので納得はしていたが、やはり当日になってまた不安が蘇ったらしい。
カカシは不安そうにするサクラに微笑み、顔を覗く。

「なら、今日のお姫様にオレからのプレゼント」
「え?」

カカシはポケットから小さいケースを取り出し、その中に入っているのを手に取る。
目を丸くするサクラに手を伸ばして、首の後ろで留め具を留める。


「──18歳の誕生日おめでとう、サクラ」


胸元を触ると先ほどまでなかった感触。
サクラは満足に笑うカカシからドレッサーの鏡に目を向けると、そこにはピンクゴールドの地金に1粒のジュエリーが添えられた桜のモチーフのネックレスを首から下げた自分が映っていた。
サクラはネックレスとカカシを交互にに見て、だんだんとその顔が花が咲くように綻んでいく。

「華やかなドレスからしたらやっぱ寂しいか」
「・・・ううん、ううん!すごく嬉しい!ありがとう先生!」

サクラは嬉しそうに立ち上がり、カカシの背中に腕を回して抱きつく。

「まさかこの日に結婚式をするって決めたのも、ネックレスいらないって言ったのもこのため?」
「そ。驚いた?」
「当たり前じゃない!」
「なら、サプライズは成功だな」

カカシは顔を傾けてサクラの唇にキスをしようとするも、それをサクラの手に遮られる。

「口紅が取れちゃう。これから式なんだから我慢して」

不満そうに顔を離すカカシにサクラは小さく笑う。

「カカシ先生」
「ん?」
「誕生日プレゼントありがとう。こんな素敵な誕生日、きっと2度と来ないわ」
「そんなことないぞ。毎年サプライズを用意するから」
「それ言っちゃったらサプライズの意味なくなるわよ?」

クスクス、と笑うサクラは、自身のお腹を優しく撫でる。
華奢な体のサクラからしたら違和感のあるほど大きくなったお腹。
サクラの妊娠報告から数ヶ月。
あれからサクラの両親と綱手に結婚と妊娠の話をして籍を入れた。
綱手からはすごく怒られたが、それと同じぐらい祝福をされた。
それからサクラの悪阻もあり、落ち着いた頃に里に唯一ある教会で式をしたいというサクラたってのお願いでこの日に予約をして、ドレスを選んで。
親しい人たちに招待状を出して、ついにこの日が来た。

「でもきっと今年より素敵な誕生日は来ないわ。だって今年は初めて3人で迎える誕生日だもの」

サクラの目尻に涙が浮かび、カカシは化粧が崩れないようにそっと拭う。

「そうだな・・・オレにとっても特別な日だ」

カカシはサクラの額に自身のを合わせ、手を取り合いお互いに目を瞑る。
そうしていると2人の、いや3人だけの世界になった気がするから。

暫くそうしていると外からドアをノックが聞こえ、外から声をかけられる。

「そろそろお時間です」
「分かりました」

式場のスタッフの声にカカシは返事をして、サクラの片手を持ち上げて手の甲にキスをする。
そんなキザなことも似合ってしまうのだ。今の格好もまさに王子様のようで。

「それじゃ行きますか。オレのお姫様の可愛い姿をアイツらに見せに」
「もう・・・」

サクラは頬を染めて笑い、2人は固く手を繋いで控え室を出た。










****



「ただいまー!」

リュックを背負った薄紅色の髪の少女は、玄関のドアを開けて大きな声で帰宅を知らせ、バタバタと部屋の中へと走る。

「おかえり。ちゃんと手洗った?」
「あ、そうだった!」

キッチンにいるサクラの言葉にハルカは慌てて洗面所に向かい、丁寧に手を洗ってまたリビングへと戻る。

「ねぇ、パパは?」
「ケーキを買いに行くついでにツクシとお散歩してくるって」
「えー!私もケーキ屋さん行きたかったー」
「あなたはアカデミーに行ってたじゃない」
「そうだけどー。パパ私に甘いから、ケーキ屋さんでクッキー買ってくれるかなーって」
「こら。それが狙いね」

コツン、とハルカの頭を小突くと「てへっ」と舌を出して笑う。
本当自分ソックリだわ、とサクラは失笑して先ほどの続きをする。

「あ!今日のご飯ってパパのオムライス?」
「そうよ」
「やったー!パパのオムライス好きー!」

サクラが頷くと、ハルカは両腕を上げて嬉しそうにジャンプをする。
こんなこと言われたらパパ嬉し泣きするわね、とサクラは卵やご飯を準備しながら微笑む。

カカシとサクラが付き合い始めた頃。
サクラの誕生日の日にカカシがご飯を作ってくれることになり、何が食べたいかと聞かれてオムライスが食べたいと言った。
普段洋食を食べないカカシに作らせたらどうなるのか、という興味本位から。
予想通りカカシは慣れないオムライスに翻弄され、その時のオムライスの卵はボロボロ、ケチャップライスはベチャベチャと散々なプレゼントとなった。
普段見れないカカシを見れてサクラは満足だったのだが年上のプライドが許さなかったのか、次の年の誕生日にはプロ並みのオムライスが出てきた時はすごく驚かされた。
それからサクラ、ハルカ、ツクシの誕生日にはカカシがオムライスを作るのが恒例となっていた。


「ママぁ」
「んー?」
「それ、ママの誕生日いつも付けてるよね」
「それ?」
「ネックレスー」

コップにお茶を注いでいるとハルカは自分の首を指差す。
サクラの胸元にはあの日カカシがプレゼントしてくれた桜のネックレスが輝いていた。
サクラはそのネックレスを愛おしそうに触る。

「だって・・・特別な物だもの」
「ふ〜ん?」

ハルカはよく分からないので首を傾げている。
サクラはハルカに2つコップを渡してテーブルに置くよう促し、自分も2つ持って後に続く。

「それにハルカにとっても特別なものなのよ?このネックレス」
「え、私も?じゃあ、私にも付けさせてくれる?」
「そうねー・・・もうちょっと大人になったらね?」
「えー?大人っていつー?」
「んー、ハルカが結婚する時かなぁ」
「それってサスケくんと!?」
「それはパパが許さないんじゃないかしら・・・」
「だいじょーぶ!パパ甘いから!それにぜーたい認めさせてやるわ!」

グッ、と拳を握る愛娘に、夫が泣き崩れる様が容易に想像できた。
そうこうしていると、玄関のドアが開く音と帰宅を知らせる声2つ。

「あ、パパとツクシ帰ってきた!」

ハルカは玄関に走り、サクラも後に続く。
ハルカとツクシは玄関で仲良く抱き合い、その横でケーキの箱とサクラへのプレゼントの甘味処の袋を持つカカシがサクラの胸元で輝くネックレスに気づいて嬉しそうに笑う。
そんなカカシにサクラも微笑んで。


「おかえりなさい先生」
「ただいま、サクラ」


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