「さあ喋ってごらん！　今のキミにはそれができるはずだよ！」

　人間の言葉を聞き、テネアスはゆっくりと口を開いた。

「僕は闘技場なのにどうして喋れるの？」
「わあかわいい声！」

　人間は感激したように声を張り上げたのち、コホン、と咳ばらいを一つ挟んで続ける。

「キミは私の開発した『施設生体化マシン』によって闘技場から人間の姿に変身したんだよ！」

　テネアスにはこの人間が何を言っているのかよくわからなかったが、人間はお構いなく続ける。

「私はストーク博士。昔観光で訪れたテネアス円形闘技場のあまりの素晴らしさにすっかり虜になってしまって、闘技場と結婚したいと思うようになったんだ」
「闘技場と人間は結婚できないよ」
「その通り！　不幸だね！　だから結婚できるようにキミを人間にしたんだよ」
　
　ストークと名乗った人間は嬉しそうに語るが、テネアスは頭にハテナを浮かべるばかりであった。