「なんだよ、父ちゃん。
そんなこともわかんねーのかよ。
そんなん三郎さんが姉ちゃんの事好きだからに決まってんじゃねーか。」

しかし、私の躊躇を尻目に弟がそう言い放った。

「そーだよ、あんたは本当に鈍いんだから。」

そして母さんも。

｢あんたもだろ？なまえ？
あんたも三郎さんが好きなんだろう？｣

｢えっ！｣

ここでまさか自分にパスが回ってくるとは思わなかった私は思わず鳩が豆鉄砲食らったみたいな顔をしてしまった。

｢何？！そうなのか？！｣

今度は父さんまでそれに食いつくもんだから大変だ。

｢いや、あの、うん。そうです。｣

もう観念するしかなかった。そもそも何もないのにここまでしてくれるなんてありえない話なのだ。

｢それでね、今は外に見回りもいるし、私たちが勝手にこのタイミングで家を出たら何か知ってるって言ってるようなもんだから勝手には家を出るなって。

今晩の深夜に三郎さんと同じ顔をした不破雷蔵さんって男の人が迎えに来るからその人の引率で逃げるように言われたの。｣

私が話せる話はこれが全てだ。これで納得してくれなかったらどう説得すればいいんだろうか…。

｢ふぅ、その話が嘘でも三郎さんには別に利点なんかないんだ。
私は信じるよ。｣

母がそう言うと父と弟も頷いた。
思ったよりもするんと話が済んで安心した。少しだけ肩の荷が下りた気がした。

「それにしても姉ちゃん、三郎さんと同じ顔ってどういうことだよ？双子か？｣

「いやー実はね、三郎さんの顔は偽物で、私たちに会っている顔はその不破雷蔵さんの変装なんだって…｣

「「「変装？！」」」

三人が大きな声を上げて驚く。
そりゃ驚くよね。あんな完成度の変装する人がいるなんて世界は広い。

「とにかく、母さんと私は荷造りをするから父さんとアンタはいつも通り店をやって。」

私がそういうと家族はみんなうなずいた。
さあ、夜に向けて準備をしよう。幸せになるために。