「なまえ、今日は随分荒れてるね？」

「うっさい。」

私はそう言ってグビグビ酒を飲み干す。
こういう時にお酒に逃げるようになったのは絶対今の会社のせい。
美味しくないお酒を覚えてしまったと本当に思う。


「マスター、赤ちょーだい！赤！」

私はそう言ってグラスをマスターにわたす。

「なまえ、なにがあったのか聞いてもいい？
ワインは苦手なはず･･･でしょ？」


利吉の手が私の肩に触れる。
こうやって私を知ってる人がいるのが今は怖い。


「別に。
ちょっと仕事が上手くいってなくてイライラしてるだけ。」

「珍しいね、君に限って。」


あぁ、本当に何を知っているの…。


「そうでもないよ？
やっぱり社会は学生の時と違って楽じゃないね。
失敗ばっかりで嫌になっちゃう、ほんと、とっとと結婚して今の仕事やめちゃいたいくらい。」


なんでこんな時にも私は見栄を張っちゃうんだろう。
違う、本当はこんなんじゃないのに。


失敗？納得してない。
でももう、それを正すことすらも面倒くさい。




仕事、辞めちゃいたい…。









「それなら、僕と結婚すればいいじゃないか。」













「は？」



そこには真剣な表情の利吉がいた。


「今すぐでもいい、今後でもいい。
もし君に少しでもそういう意思があるのなら、逃げでもいい、仕事をやめる口実でもいい。
僕は君をそばで支えたい…。

僕の気持ちはあの時から変わってない…。」



そう利吉は私の目を見て伝える。

彼の本気さは酔った私でもわかる。



「利吉、駄目だよ。
甘やかさないで…。」


「違う、甘えて欲しいんだ。」


利吉の手が私の手を握る。


「真剣に考えて。」



そこには真剣で、少し緊張気味の利吉がいた。
とてもじゃないけど軽く受け流す雰囲気ではなかった。



「･･･うん。」

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