「彼女にも一杯。」

私は隣から聞こえた声に顔を上げた。


そこには…

「利吉…」

そこには涼しげに座る利吉がいた。

「やぁ、久しぶりだね。
連絡しても繋がりもしなかったからびっくりしたよ。」

利吉はそう言って軽く笑った。

「ごめん、」

彼はいまうちの近くにある、雷蔵の通う大川大学で准教授をしてるらしい…
SNSで知ったことだけど。
雷蔵は利吉を知ってるけど気を使って私には知らせなかったみたい。

「いいや、いいんだ。
責めたかったわけじゃない。」

「ありがとう。」

私がそう言うと利吉は軽く微笑んだ。

「最近はどう？なにをしてるの？」

「あいかわらず。」

私も軽く笑いながら返す。

「ねぇ、もう寄りを戻そうとは言わないから。
たまにこうやって一緒に飲んでくれないか？」

利吉が真剣な顔でそう言う。
私はゴクリと息を飲んだ。
彼の顔があまりに真剣で、怖くなった。

「…いいよ。」

「本当かい？
良かった、断られるかと思ったよ。」

利吉はそう言って胸を撫で下ろす。
なんでここまで私に拘るかは、わからないけど。
私は別れるときに友だちに戻りたいって言ったから、本当は連絡先を隠した私の方がルール違反。
断れないに決まってる。

私は連絡先を利吉に教えた。

携帯を見ると既に11時を過ぎていた。
雷蔵からの心配のメール。

「ごめん、同居してる子が心配してるみたいだから、帰るね？」

「雷蔵くんだね？
そうか、まだ一緒に住んでるのか…。
気をつけて、帰るんだよ。」

一瞬の陰りのある顔を見せて、彼は私に微笑みかけた。

「うん、ありがとう。」

私はそう言って自分の分のお金をおいて出て行った。
利吉はお金を戻そうとしてきたけど、そんなの友達じゃないって突き返した。

あぁ、早く帰りたい。何て最悪な夜なんだろう。


そして、帰って雷蔵の笑顔を見て、早く安心したい…。

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