短いお話
――ああ、まただ。
気がつけば、彼女を目で追いかけている自分がいる。
暁の血盟の一員であり、世界を救った英雄。普段の振る舞いからは想像も出来ないほどに腕が立ち、普通の人間であればまず勝ち目はないだろう。
だが、そんな彼女も、英雄である前に一人の人間だ。好きなものを前にすれば目を輝かせるし、嫌いなものがあればあからさまに嫌な顔をする。そんな風にころころと表情を変える彼女は見ていて飽きない。
だが、そんな彼女の表情で見たことがないものがある。彼女が照れる姿。恋する乙女のようなその表情を、俺はまだ見たことがなかった。
これでは、まるで俺が彼女に恋をしているようではないか。彼女の表情で見たことが無いものを無くしたい、なんて。
…いや、確かに恋なんだ。この感情は、誰にも渡したくない俺だけの感情。
彼女も少なからず俺に好意を向けている、と思っている。ならば、その表情が見れるのは時間の問題だろう。そう思いながら彼女をそのまま目で追っていると、路地裏に入っていくのが見えた。
いくら彼女の腕が立つからといって、女性をそんな場所に行かせるわけにはいかない。そう思い彼女を追いかけた。すると、そこには彼女と、もう一人、見知らぬ男がいた。
「……はは、なんだよ、それ」
彼女がその男に見せていた表情は、俺が、ずっとずっと見たかった表情で。
きっと俺にだけ向けてくれるのだと思っていた。自惚れていたんだ。
俺は、彼女にバレないように気配を消しながらその場を去った。もう、見たくなかった。俺以外にその表情を見せる彼女を。自分がこんなにも欲深い人間だとは思っていなかった。今まで寄ってきた女性や愛の言葉を囁いた女性は数多くいたが、それでもこんな風になったことはなかった。それだけ、彼女に惚れ込んでいたのだ。
彼女が幸せならそれでいいじゃないか。今まで通り、仲間として接していけばいいだけだろう。たったそれだけの事なのに、俺の足取りはどんどんと重たくなっていく。
ふう、と深く息を吐いて気持ちを落ち着かせようとしていると、誰か後ろからぱたぱたと小走りでこちらに近付いてくる音が聞こえた。
「サンクレッド!」
そう元気よく名前を呼ぶ声に、俺は必死に表情を取り繕いながら、笑顔で彼女の方を振り向いた。
「どうしたんだ?」
「あのね、サンクレッド。お願いがあるんだけど…」
そう笑って話す彼女は、先程の男に見せた表情などではなく、いつも知っているあくまで仲間としての俺に見せる表情だった。
「……はは、無茶な頼みだけは勘弁してくれよ?」
「無茶なんかじゃないってば!いつもそんなに大変なこと言ってるかな…?」
少し申し訳無さそうに話す彼女を見て、愛しいという気持ちと、もうこの恋心は叶うことは無いのだという気持ちで俺の心がぎゅう、と締め付けられる。
「――ああ、本当に。お前といると、心がしんどいよ」
そう呟いた言葉は、きっと彼女には届かないだろう。
気がつけば、彼女を目で追いかけている自分がいる。
暁の血盟の一員であり、世界を救った英雄。普段の振る舞いからは想像も出来ないほどに腕が立ち、普通の人間であればまず勝ち目はないだろう。
だが、そんな彼女も、英雄である前に一人の人間だ。好きなものを前にすれば目を輝かせるし、嫌いなものがあればあからさまに嫌な顔をする。そんな風にころころと表情を変える彼女は見ていて飽きない。
だが、そんな彼女の表情で見たことがないものがある。彼女が照れる姿。恋する乙女のようなその表情を、俺はまだ見たことがなかった。
これでは、まるで俺が彼女に恋をしているようではないか。彼女の表情で見たことが無いものを無くしたい、なんて。
…いや、確かに恋なんだ。この感情は、誰にも渡したくない俺だけの感情。
彼女も少なからず俺に好意を向けている、と思っている。ならば、その表情が見れるのは時間の問題だろう。そう思いながら彼女をそのまま目で追っていると、路地裏に入っていくのが見えた。
いくら彼女の腕が立つからといって、女性をそんな場所に行かせるわけにはいかない。そう思い彼女を追いかけた。すると、そこには彼女と、もう一人、見知らぬ男がいた。
「……はは、なんだよ、それ」
彼女がその男に見せていた表情は、俺が、ずっとずっと見たかった表情で。
きっと俺にだけ向けてくれるのだと思っていた。自惚れていたんだ。
俺は、彼女にバレないように気配を消しながらその場を去った。もう、見たくなかった。俺以外にその表情を見せる彼女を。自分がこんなにも欲深い人間だとは思っていなかった。今まで寄ってきた女性や愛の言葉を囁いた女性は数多くいたが、それでもこんな風になったことはなかった。それだけ、彼女に惚れ込んでいたのだ。
彼女が幸せならそれでいいじゃないか。今まで通り、仲間として接していけばいいだけだろう。たったそれだけの事なのに、俺の足取りはどんどんと重たくなっていく。
ふう、と深く息を吐いて気持ちを落ち着かせようとしていると、誰か後ろからぱたぱたと小走りでこちらに近付いてくる音が聞こえた。
「サンクレッド!」
そう元気よく名前を呼ぶ声に、俺は必死に表情を取り繕いながら、笑顔で彼女の方を振り向いた。
「どうしたんだ?」
「あのね、サンクレッド。お願いがあるんだけど…」
そう笑って話す彼女は、先程の男に見せた表情などではなく、いつも知っているあくまで仲間としての俺に見せる表情だった。
「……はは、無茶な頼みだけは勘弁してくれよ?」
「無茶なんかじゃないってば!いつもそんなに大変なこと言ってるかな…?」
少し申し訳無さそうに話す彼女を見て、愛しいという気持ちと、もうこの恋心は叶うことは無いのだという気持ちで俺の心がぎゅう、と締め付けられる。
「――ああ、本当に。お前といると、心がしんどいよ」
そう呟いた言葉は、きっと彼女には届かないだろう。
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