魔女の秘密

「せっかく遊んでたのに…もしかして、当てない方がよかった?」襧豆子が立ち止まる。俺と無一郎のゲームを邪魔したのでないかと、いまだに申し訳なさそうに。ばかだと思った。襧豆子よりも、無一郎よりも、自分自身が。ばかすぎて、呆れるぐらいに彼女を好きだと思った───。

「もういいんだよ」
「あぁ。もういい」

憑き物が取れたような無一郎と、視線が交わる。こんなゲームを持ちかけたことを、弟は後悔しているかもしれない。余計なことをしたと感じているかもしれない。けど、俺はほんの少しだけ感謝している。軽くなった胸の中で、ただ襧豆子への想いだけが疼く。

「兄さんがノッてくれるなんて意外だったよ」
「今度は風の吹き回しじゃねーぞ」
いつもなら相手をしない無一郎の挑戦的な笑み。胸にあった苛立ちは、それに乗っかってやるほどの想いへと、すでに変化していた。

「襧豆子、ほら前」
そう言って促すと、首を傾げていた彼女は素直に正面を向く。襧豆子の横顔へ、その白い頬へ、唇でふれる。今は手が塞がっているから、こうしないと彼女にふれられないのだ。やわらかい肌の弾力が、唇を通して伝わる。

魔女の左頬に口づけをする吸血鬼と、右頬に口づけを送るのはもう一人の吸血鬼。耳輪から耳たぶにかけて、流れるように赤く染まっていく。ぐるりと前へ一歩歩むと、石のように固まった彼女が、赤い顔をして動けずにいた。

「「トリックオアトリート」」

「………え…えぇっ!?」

「ほら、はやく行くぞ」
「パーティー終わっちゃう」

お菓子をもらったのか、いたずらを仕掛けたのか。魔女はお菓子を渡したのか、いたずらに引っかかったのか。わずかに残る羞恥心は、先ほどのものとは違う。

「やっと素直になったんだ」
ハロウィンパーティーへ戻る前、からかい混じりに無一郎が囁く。舌打ちする気など起きなかった。
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