魔女の秘密

「二人とも、もう来てたんだ」
「うん。襧豆子は魔女なんだね。それも自分で縫ったの?」

「そうだよ」
襧豆子を含めた女子生徒のほとんどは、魔女の仮装で占められていた。男子生徒と同様に、下は学生服を着て、ローブを纏っている。ローブでも色違いだったり、帽子を被ってる生徒やツノのカチューシャを付けている生徒。ネックレスやブレスレットのアクセサリーを付けたり、おもちゃのような星のステッキを持っていたり、皆それぞれで個性を出していた。男子とは違い、そのバリエーションは女子の方が豊富のようだった。

「…俺たちのマントも縫ってくれたし、大変だったんじゃないか?」俺に扮した無一郎が言った。襧豆子の羽織っている黒のローブは、縫ってくれたマントと同じ生地のようで、前髪にはいつものリボンが結ばれていた。

「裁縫は好きだから平気。二人はマントの着心地とか、大丈夫そう?」襧豆子の指先が、ピンと立った襟羽にふれる。採寸したときと同じ距離で、具合を確かめるように襟周りをなぞった。今は有一郎になった無一郎へも同じ動作をすると、みるみるうちに弟の頬が染まりだす。それも演技のうちだと言うなら、襧豆子の前だと俺はいつもこうなっているんだろうか。無一郎になっている自分は、同じ顔をしたのだろうか。

バレるんじゃないかと一瞬だけ身構えた。だが、襧豆子が勘づく素振りはない。

「みんなー、みてみて!ジャックオーランタンだよ!」同じく魔女の仮装をした真菰が、狼男の錆兎と共に輪に入る。両手には大きなかぼちゃを持っていた。目に口に鼻。それぞれの顔のパーツが器用にくり抜かれ、中は空洞となっている。三角の目から、かぼちゃの内側が見えた。

「わ…本物のかぼちゃだ…!こんなのテレビでしか観たことない!」

「へぇ…!本当に作れるものなんだ」
「すげぇな。真菰が作ったのか?」
お互いの演技を続けながら無一郎が訊くと、真菰よりはやくに錆兎が応えた。

「鱗滝さんが、今日のために造ってくれたんだ。木彫りが趣味な方だからな。かぼちゃも彫ってくれた」

「プロみたいでしょ?鱗滝さんの力作」
魔女と吸血鬼の二人は大きく頷く。せっかくだからとハロウィンパーティーへの参加に声をかけたものの、鱗滝さんは遠慮して来なかったという。そんな話をしているうちに、いつの間にか教室へ戻ってきた愈史郎を引き連れ、竹内がパーティー開始の挨拶を始めていた───。
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