その日、任務から戻ると朱鳥の姿が見えた。
誰かと話してる様だった

視線を逸らしその場から離れようとした時、一緒にいる相手が見える。

七海さんだ。

七海さんに向けてキラキラとした笑顔で何か言っている朱鳥

俺以外にもそんな顔を見せるのか。
俺だけじゃないのか

イライラする。

ふと気づくと二人は別れ、朱鳥が俺に気づく。

パタパタとこちらに駆け寄り

「恵。今、任務からの戻り？お疲れ様。
最近忙しそうだけど大丈夫？」

「……何、話してた」

できるだけ、平坦な声を出す

「七海さんと、何、話してた」

そんな事を聞いてどうするんだ。

「えっと…悩み事相談？」

悩み事の相談？
俺じゃなくて
七海さんにか

俺じゃダメなのか
七海さんが大人で、俺が子供だからダメなのか

ドンッ

気がつけば、壁に手を付き朱鳥を逃げられないようにしていた

「そんなに『大人』がいいのかよ…」

湧いてくる怒りを隠しきれない

朱鳥は状況がわかっておらずオロオロしている

当然だ。

「えっ…？大人……？」

「『子供』の俺には言えなくて『大人』の七海さんには言えるんだもんな」

怒りが伝わり朱鳥の表情が怯えたものになる

違う。
そんな顔が見たいんじゃない

「『大人』の七海さんはさぞかし頼りがいがあるだろうな…！」

こんな事がしたいんじゃない

「……七海さんは頼りがいあると思うよ」

怯えた小さな声のそのセリフにカッとなる

口を開きかけた時

「だって、スーツだもん」

は？スーツ

「スーツって『大人』って感じするでしょ？
だから頼りがいはあると思うよ」

スーツが『大人』な感じ…？

「五条先生も『大人』だけど、スーツじゃ無いし」

いや、コイツは何を言ってるんだ。

「やっぱり、スーツ似合うと『大人』って感じがすると思うの」

確かに、七海さんはスーツが良く似合う。
だが、それが『大人』な感じ？

「私の周りに、スーツで仕事してる人居なくて…。
七海さんを見てスーツ素敵だなって…」

スーツ。と何度も朱鳥の口から溢れ出る

「五条先生はスーツって柄じゃないし」

確かにそうだ。
って、そうじゃない

「スーツ…？」

ポロリと口から漏れる

「スーツって、素敵じゃない？」

『大人』ではなく『スーツ』が素敵？

「あっ。もちろん制服も好きだよ。
学校行ってなかったから、制服も見た事なくてね？」

慌てて続ける朱鳥

「高専で初めて制服見たけど、結構みんなカスタマイズされてて……」

確かに、殆どの人が制服をカスタマイズしている。

「だから、一番普通の制服の、恵が好き」

『恵が好き』

その言葉が頭を駆け巡る

いや、待て

「スーツと制服が好き、なのか……？」

「？。うん。」

さも、当然だと言わんばかりに返信をする。

「……はぁー……」

思わず深いため息が漏れる

「えっ。えっ？恵、どうしたの？スーツ嫌い？
でも、恵もスーツ似合うと思うよ。
いや、今は制服が一番だけど、スーツにもいい所があってね」

と、スーツと制服の良さに着いて語り出す朱鳥

言わいるフェチというやつだろうか
ものすごく熱く語ってくる朱鳥を見てるうちに薄暗い怒りはどこかに消えてしまった

「恵、聞いてる？」

そう言って覗き込んでくる朱鳥

「俺の制服が好き。まで聞いた」

「もう！全然聞いてないじゃん！」

ぷくっと頬を膨らませ怒る朱鳥

ツンっと頬をつつくと、ぷぅっと息が抜ける

二人して笑い出す

久しぶりに二人で笑い出す。