05
それから数日間に渡って、俺はあの時の老人ゼバにめちゃくちゃ体を調べられた。
まぁ俺はベッドで横になってるだけだが、酷く退屈だった。調べるといっても方法は魔法だから痛くもないしベタベタ触られることもない。
しかし、ゼバの興奮した姿とその近くで様子を見ていたアルノートの視線はとても辛かった。
「やはりこの者はただの亜人ではありますまい。外見はエルフに酷似しておりますが根本的に構造が違う」
体内の魔力はあやつらとは桁違いですな!とゼバ爺さんは大はしゃぎ。
……何か、マッドサイエンティスト感があっていやなんだけど。
アルノートは何も言わず、ただ俺をずっと見ている。こいつも何なんだ?ゼバが変なことしないよう見張ってるのか?
それ位部下にやらせればいいだろうに、魔王って案外暇なのか?
……ああ、早く終わってくれ。
やっと自由になったと思ったら時刻はもう夜だ。
この世界にも元いた世界同様朝と夜がある。ずっと夜なのは暗黒界位なのだとリーザは言っていた。
この数日で俺が知ったのはここが魔界で最も大きく、そして魔界全てを統治する魔王アルノートが住む国グーベルクで俺のいるこの城は通称魔王城と呼ばれている城であること。
神である俺が他者に力を与えるには自身の血を対象に飲ませればいいこと。だがその際、俺が対価を貰わなければ飲んだ相手が大変なことになるらしい。
因みに彼女曰く、対価は俺の一存で決めて問題ないとのこと。
一人の時間が短かった為聞けたことは少ないが、これがリーザから得た情報だった。
必要最低限だが、力の与え方を知れたのは良かった。
だが。
(あの男に力を与えていいのか?)
ベッドに横たわって考える。
俺は邪神、そしてそんな邪神を崇拝しているらしい魔界の住人達は、所謂『悪』と呼ばれる存在ではないのか?
アルノートは多分、いや絶対強い。そんな彼に力を与えれば魔界にとっての敵は神位しかいなくなるのでは……力を得た魔王のすること。漫画や小説、ゲームなんかでありがちなのは。
「世界を自分の物にとか、世界の破壊とか、か?」
自分で言ってて恐ろしくなった。
これはフィクションじゃないんだ、下手をしたら世界が滅びるかもしれない。
手に汗が滲む。
今は誤魔化せてもいつかあいつが力を得る方法を知るかもしれない。
手が、無いわけではない。簡単な話、対価を払えないものにすればいい。
例えばアルノート自身の命とか。
だがそうすると新たな問題が生まれる。契約が成されないと俺は自由になれないことだ。
一生、魔界に縛りつけられる可能性もある。
俺はそれでも大丈夫かもしれない、だがそうしたら暗黒界はどうなるのだろう?
暗黒界には俺とリーザしかいないという。ただでさえ孤独な彼女がこの先、一生一人ぼっちというのは何とも可哀想ではないか。
(けど、俺は飽きたって理由でリーザを一人残して別の世界へ転生したんだよな……)
「最低だな」
ぽつりと呟く。
「何が最低なんだ?」
「ぅわっ!?」
驚いて飛び起きると、扉の前にアルノートが立っている。いつの間に入ってきたんだ……。
「べ、別に……独り言だ」
「……まぁいい、飯の時間だ。食べるだろう?」
「あ、ああ」
アルノートの手には料理の乗ったトレーがある。
俺がベッドから降りると、彼は少し離れた机の上にトレーを置いた。
魔界の料理だが、一見西洋の料理と変わらない。
両親が共働きで夜いなかった俺の夕食はいつもコンビニの弁当だったから、手料理を食べるのは久々で正直とても美味しく感じた。
それに今は一人ではない。
食事の時はいつもアルノートが対面に座っていて監視するかの如くこちらを見てくる。
正直とても食べにくいが、一人で食事をするのに飽々していた俺にとって彼の存在は不思議と俺を安心させてくれた。
(……悪い奴かもしれないのに)
料理に集中するふりをして密かに目線を彼の方へと向ける。
外見は20代後半といった所か、俺より年上に見える。これだけ整った顔つきをしているのだ、さぞモテることだろう。
一度も異性にモテたことのない俺には羨ましい程だ。
そんなことを考えつつ最後の一口を頬張る。
「明日、街へ降りる。お前も来い」
ナプキンで口を拭いていると、唐突にアルノートが喋りかけてくる。
「俺も?」
驚いた、彼がそんなことを言うなんて。
アルノート曰く、表向き俺は邪神ではなくただの亜人、エルフとして彼に招待された形になっているらしかった。俺が本物か偽物かはともかく邪神を召喚したと知られると面倒なことになるからと彼は言った。
現状、俺の正体を知っているのはアルノートと側近のゼバだけ。
そんな俺を街に連れ出すとはどういうことだろうか。
「世間知らずな邪神様に魔界のことを知ってもらおうと思ってな」
む、世間知らずで悪かったな。
だが外へ出られるというのは良いかもしれない。この世界に来てから俺はろくに部屋の外へも出ていないので、相当退屈していた。
「わかった」
頷くとアルノートは席を立って俺の前にあるトレーを回収して部屋から出ていった。
いつものことだ、だが。
(もう帰るのか……)
心の何処かで寂しさを覚える。
たった数日、特に会話もしていないのにこの感情はなんだ?相手は魔王、世界の敵かもしれないのに。
一人になった部屋の中はとても静かで、人間だった頃の時を思い出す。
一人で食事をして、課題を済ませて、風呂に入って、寝る。
当たり前だったのに、今はそれがとても寂しく感じる。
(っ、何ナーバスになってんだ!)
神様がこんなことではいかんだろう。明日は街に出る。魔界が、魔族や亜人というものがどんな存在なのか見極めなければならない。
「とりあえず、風呂にでも入るか」
身なりは整えておいた方がいいだろう。
俺は備え付けのバスルームへと向かった。
まぁ俺はベッドで横になってるだけだが、酷く退屈だった。調べるといっても方法は魔法だから痛くもないしベタベタ触られることもない。
しかし、ゼバの興奮した姿とその近くで様子を見ていたアルノートの視線はとても辛かった。
「やはりこの者はただの亜人ではありますまい。外見はエルフに酷似しておりますが根本的に構造が違う」
体内の魔力はあやつらとは桁違いですな!とゼバ爺さんは大はしゃぎ。
……何か、マッドサイエンティスト感があっていやなんだけど。
アルノートは何も言わず、ただ俺をずっと見ている。こいつも何なんだ?ゼバが変なことしないよう見張ってるのか?
それ位部下にやらせればいいだろうに、魔王って案外暇なのか?
……ああ、早く終わってくれ。
やっと自由になったと思ったら時刻はもう夜だ。
この世界にも元いた世界同様朝と夜がある。ずっと夜なのは暗黒界位なのだとリーザは言っていた。
この数日で俺が知ったのはここが魔界で最も大きく、そして魔界全てを統治する魔王アルノートが住む国グーベルクで俺のいるこの城は通称魔王城と呼ばれている城であること。
神である俺が他者に力を与えるには自身の血を対象に飲ませればいいこと。だがその際、俺が対価を貰わなければ飲んだ相手が大変なことになるらしい。
因みに彼女曰く、対価は俺の一存で決めて問題ないとのこと。
一人の時間が短かった為聞けたことは少ないが、これがリーザから得た情報だった。
必要最低限だが、力の与え方を知れたのは良かった。
だが。
(あの男に力を与えていいのか?)
ベッドに横たわって考える。
俺は邪神、そしてそんな邪神を崇拝しているらしい魔界の住人達は、所謂『悪』と呼ばれる存在ではないのか?
アルノートは多分、いや絶対強い。そんな彼に力を与えれば魔界にとっての敵は神位しかいなくなるのでは……力を得た魔王のすること。漫画や小説、ゲームなんかでありがちなのは。
「世界を自分の物にとか、世界の破壊とか、か?」
自分で言ってて恐ろしくなった。
これはフィクションじゃないんだ、下手をしたら世界が滅びるかもしれない。
手に汗が滲む。
今は誤魔化せてもいつかあいつが力を得る方法を知るかもしれない。
手が、無いわけではない。簡単な話、対価を払えないものにすればいい。
例えばアルノート自身の命とか。
だがそうすると新たな問題が生まれる。契約が成されないと俺は自由になれないことだ。
一生、魔界に縛りつけられる可能性もある。
俺はそれでも大丈夫かもしれない、だがそうしたら暗黒界はどうなるのだろう?
暗黒界には俺とリーザしかいないという。ただでさえ孤独な彼女がこの先、一生一人ぼっちというのは何とも可哀想ではないか。
(けど、俺は飽きたって理由でリーザを一人残して別の世界へ転生したんだよな……)
「最低だな」
ぽつりと呟く。
「何が最低なんだ?」
「ぅわっ!?」
驚いて飛び起きると、扉の前にアルノートが立っている。いつの間に入ってきたんだ……。
「べ、別に……独り言だ」
「……まぁいい、飯の時間だ。食べるだろう?」
「あ、ああ」
アルノートの手には料理の乗ったトレーがある。
俺がベッドから降りると、彼は少し離れた机の上にトレーを置いた。
魔界の料理だが、一見西洋の料理と変わらない。
両親が共働きで夜いなかった俺の夕食はいつもコンビニの弁当だったから、手料理を食べるのは久々で正直とても美味しく感じた。
それに今は一人ではない。
食事の時はいつもアルノートが対面に座っていて監視するかの如くこちらを見てくる。
正直とても食べにくいが、一人で食事をするのに飽々していた俺にとって彼の存在は不思議と俺を安心させてくれた。
(……悪い奴かもしれないのに)
料理に集中するふりをして密かに目線を彼の方へと向ける。
外見は20代後半といった所か、俺より年上に見える。これだけ整った顔つきをしているのだ、さぞモテることだろう。
一度も異性にモテたことのない俺には羨ましい程だ。
そんなことを考えつつ最後の一口を頬張る。
「明日、街へ降りる。お前も来い」
ナプキンで口を拭いていると、唐突にアルノートが喋りかけてくる。
「俺も?」
驚いた、彼がそんなことを言うなんて。
アルノート曰く、表向き俺は邪神ではなくただの亜人、エルフとして彼に招待された形になっているらしかった。俺が本物か偽物かはともかく邪神を召喚したと知られると面倒なことになるからと彼は言った。
現状、俺の正体を知っているのはアルノートと側近のゼバだけ。
そんな俺を街に連れ出すとはどういうことだろうか。
「世間知らずな邪神様に魔界のことを知ってもらおうと思ってな」
む、世間知らずで悪かったな。
だが外へ出られるというのは良いかもしれない。この世界に来てから俺はろくに部屋の外へも出ていないので、相当退屈していた。
「わかった」
頷くとアルノートは席を立って俺の前にあるトレーを回収して部屋から出ていった。
いつものことだ、だが。
(もう帰るのか……)
心の何処かで寂しさを覚える。
たった数日、特に会話もしていないのにこの感情はなんだ?相手は魔王、世界の敵かもしれないのに。
一人になった部屋の中はとても静かで、人間だった頃の時を思い出す。
一人で食事をして、課題を済ませて、風呂に入って、寝る。
当たり前だったのに、今はそれがとても寂しく感じる。
(っ、何ナーバスになってんだ!)
神様がこんなことではいかんだろう。明日は街に出る。魔界が、魔族や亜人というものがどんな存在なのか見極めなければならない。
「とりあえず、風呂にでも入るか」
身なりは整えておいた方がいいだろう。
俺は備え付けのバスルームへと向かった。