04
あれからしばらくの間、俺は姿見の前で泣いていた。
だが、いつまでもそうしている訳にもいかない。
「……」
涙を拭い、静かに立ち上がって己の姿をもう一度よく見る。
泣いていても何も変わらない。ならせめて自分がどの様に変化しているか知っておかなければ。
背が高くなっており、元々男らしくなかった顔がより中性的に見える。服は、なんと言うか、露出が多い。
胸を隠す布、足首まである腰布には両側にスリットが入っている。長い手袋と、何故か膝上からのトレンカ……これでは太ももが丸見え、と言うか角度によっては下着見えるだろ、これ!
「な、なぁ?」
隣にいる少女に声をかける。
「何でしょう」
「ユリアルマ……俺は、昔からこんな格好だったのか?」
「いえ、昔はもう少し露出の低い服装でしたが……先ほど申した通り、強引な召喚により衣服も完全には戻らなかったのでしょう」
困ったものですね、と少女が眉を下げて言った。
「そ、そうか」
決して俺が露出癖があるとかではないんだな、と安心する。
あ、そうだ。聞いておきたいことがもう一つあるんだった。
「あの、さ。俺、記憶が無いからお前の名前も思い出せないんだ……」
「あっ!し、失礼しました。私はリーザと申します。貴方様に仕える下級の神でございます」
あらためて丁寧に少女、リーザは頭を下げた。
「リーザ、これから迷惑かけるかもしれないけど……宜しくな」
そう言って頭を撫でようとしたが、その手は彼女の頭をすり抜けた。
「!?」
「……申し訳ありませんユリアルマ様。私の本体はここにないのです」
驚いている俺にリーザは説明する。
ここは魔族を含む亜人の住む世界『魔界』であり、リーザの体はその下の世界『暗黒界』にあるだという。俺も昔は暗黒界にいたのだとか。
因みに魔界の隣には人間の住む世界『人間界』、その二つの上にある神族達が住む世界が『神界』だそうである。
「今は姿と声を遠くに届ける魔法を使って貴方様の前にいます」
世界を越える力を持たない私をお許しください、とリーザは悲しそうに言った。
「せめて器があれば、それを扱い貴方様の御世話をさせて頂くのに……」
彼女はとても残念そうだ。
「気持ちだけで十分だ」
肉体が無くても彼女は十分役に立っている。実際これが俺一人だったら今でも混乱していただろうから。
「後、私の姿は貴方様にしか見えませんし声も聞こえません。私に声をかける時はタイミングにお気をつけて」
「ああ、わかった」
本当に気を付けなければ。下手をしたら変な奴だと思われてしまう。
……いや、もう思われてるんだけど。
気を失う前のことを思い出して身震いする。
「では私は姿を消しますが、ご用の際は何時でも現れますので……」
そう言ってリーザの姿が消える。
「さて、どうしたもんか」
一人呟いて部屋を見回してみる。
さっき寝ていたベッドといい姿見といい、全てが豪華な造りになっている。
ネットとかで見たことのある西洋の城の部屋とかそんなのをイメージさせる。
リーザはここが魔界と言っていたが、一体魔界のどこら辺なんだ?
考えても記憶の無い頭では何も浮かばない。
とりあえず外でも見てみようかと窓の方へ向かおうとした時、扉を叩く音がした。
驚いてそっちを見ると同時に扉が開かれ誰かが入ってくる。それは俺に大剣を突きつけた、あの男だった。
「……!」
「起きたのか」
男はずかずかとこちらに向かって来るが、その手には何も持っていない。
そのことに安堵している間に青年は俺の前までやってくる。
男は背が高く、俺は見上げる形になる。……腹立つけどやっぱイケメンだなこいつ。
「お前は何だ」
「俺はゆう……いや、ユリアルマだ」
「面白いことを言うな、さっきは違う名前を言っていたが?」
何だったか、と男は笑いながらこちらを見る。
ああ、ムカつく奴。
「あれは過去の名前だ。今の俺はユリアルマ、邪神だよ」
精一杯、何とか怪しまれないように言い訳をしてみる。
「そうか、ならとっとと俺に力を寄越せ」
「え゛っ!?」
しまったそうだった。そういやあの爺さんが言ってたな、力を与えろとか何とか。
「どうした、さっさとしろ」
「えっ、とー……」
どうする?迂闊なことを言えばさっきの二の舞だ。
「お、お、俺は、さっき会ったばかりの奴にそう簡単には力を与えない!」
適当に大嘘を吐く。こんなんで誤魔化せるのか?
「……ほう、俺のことを知らない、か」
愉快そうにしている男。何がおかしい。
「まぁ邪神は暗黒界の住人。他の世界などに興味はないということか」
「そ、そうだ」
俺は頷く。まぁ実際には記憶が無いだけかもしれんが。
「俺はここが魔界であることしか知らん、何せ急に喚び出されたんだからな」
口から出るまま言葉を紡ぐ。あながち間違いじゃないし。
「ふん、さっきは剣にビビっていたくせに今はよく喋る」
ぐっ、痛いところを突いてくるなこいつ。
また大剣を出されるんじゃと内心ヒヤヒヤしている俺をよそ目に男は遠ざかっていく。
そして扉を開けてこちらを見る。
「アルノート」
「……何?」
「俺の、そしてこの魔界を統べる魔王の名だ。覚えておけ、邪神ユリアルマ」
そう言って男……アルノートは扉の向こうに消えていった。
「アルノート……」
あいつ、そんな名前なのか……って、ん?さっきあいつ、何て言った?
『俺の、そしてこの魔界を統べる魔王の名だ』
「あ、あいつ、魔王だったのか!?」
俺の驚きの声が、大きな部屋に響いた。
だが、いつまでもそうしている訳にもいかない。
「……」
涙を拭い、静かに立ち上がって己の姿をもう一度よく見る。
泣いていても何も変わらない。ならせめて自分がどの様に変化しているか知っておかなければ。
背が高くなっており、元々男らしくなかった顔がより中性的に見える。服は、なんと言うか、露出が多い。
胸を隠す布、足首まである腰布には両側にスリットが入っている。長い手袋と、何故か膝上からのトレンカ……これでは太ももが丸見え、と言うか角度によっては下着見えるだろ、これ!
「な、なぁ?」
隣にいる少女に声をかける。
「何でしょう」
「ユリアルマ……俺は、昔からこんな格好だったのか?」
「いえ、昔はもう少し露出の低い服装でしたが……先ほど申した通り、強引な召喚により衣服も完全には戻らなかったのでしょう」
困ったものですね、と少女が眉を下げて言った。
「そ、そうか」
決して俺が露出癖があるとかではないんだな、と安心する。
あ、そうだ。聞いておきたいことがもう一つあるんだった。
「あの、さ。俺、記憶が無いからお前の名前も思い出せないんだ……」
「あっ!し、失礼しました。私はリーザと申します。貴方様に仕える下級の神でございます」
あらためて丁寧に少女、リーザは頭を下げた。
「リーザ、これから迷惑かけるかもしれないけど……宜しくな」
そう言って頭を撫でようとしたが、その手は彼女の頭をすり抜けた。
「!?」
「……申し訳ありませんユリアルマ様。私の本体はここにないのです」
驚いている俺にリーザは説明する。
ここは魔族を含む亜人の住む世界『魔界』であり、リーザの体はその下の世界『暗黒界』にあるだという。俺も昔は暗黒界にいたのだとか。
因みに魔界の隣には人間の住む世界『人間界』、その二つの上にある神族達が住む世界が『神界』だそうである。
「今は姿と声を遠くに届ける魔法を使って貴方様の前にいます」
世界を越える力を持たない私をお許しください、とリーザは悲しそうに言った。
「せめて器があれば、それを扱い貴方様の御世話をさせて頂くのに……」
彼女はとても残念そうだ。
「気持ちだけで十分だ」
肉体が無くても彼女は十分役に立っている。実際これが俺一人だったら今でも混乱していただろうから。
「後、私の姿は貴方様にしか見えませんし声も聞こえません。私に声をかける時はタイミングにお気をつけて」
「ああ、わかった」
本当に気を付けなければ。下手をしたら変な奴だと思われてしまう。
……いや、もう思われてるんだけど。
気を失う前のことを思い出して身震いする。
「では私は姿を消しますが、ご用の際は何時でも現れますので……」
そう言ってリーザの姿が消える。
「さて、どうしたもんか」
一人呟いて部屋を見回してみる。
さっき寝ていたベッドといい姿見といい、全てが豪華な造りになっている。
ネットとかで見たことのある西洋の城の部屋とかそんなのをイメージさせる。
リーザはここが魔界と言っていたが、一体魔界のどこら辺なんだ?
考えても記憶の無い頭では何も浮かばない。
とりあえず外でも見てみようかと窓の方へ向かおうとした時、扉を叩く音がした。
驚いてそっちを見ると同時に扉が開かれ誰かが入ってくる。それは俺に大剣を突きつけた、あの男だった。
「……!」
「起きたのか」
男はずかずかとこちらに向かって来るが、その手には何も持っていない。
そのことに安堵している間に青年は俺の前までやってくる。
男は背が高く、俺は見上げる形になる。……腹立つけどやっぱイケメンだなこいつ。
「お前は何だ」
「俺はゆう……いや、ユリアルマだ」
「面白いことを言うな、さっきは違う名前を言っていたが?」
何だったか、と男は笑いながらこちらを見る。
ああ、ムカつく奴。
「あれは過去の名前だ。今の俺はユリアルマ、邪神だよ」
精一杯、何とか怪しまれないように言い訳をしてみる。
「そうか、ならとっとと俺に力を寄越せ」
「え゛っ!?」
しまったそうだった。そういやあの爺さんが言ってたな、力を与えろとか何とか。
「どうした、さっさとしろ」
「えっ、とー……」
どうする?迂闊なことを言えばさっきの二の舞だ。
「お、お、俺は、さっき会ったばかりの奴にそう簡単には力を与えない!」
適当に大嘘を吐く。こんなんで誤魔化せるのか?
「……ほう、俺のことを知らない、か」
愉快そうにしている男。何がおかしい。
「まぁ邪神は暗黒界の住人。他の世界などに興味はないということか」
「そ、そうだ」
俺は頷く。まぁ実際には記憶が無いだけかもしれんが。
「俺はここが魔界であることしか知らん、何せ急に喚び出されたんだからな」
口から出るまま言葉を紡ぐ。あながち間違いじゃないし。
「ふん、さっきは剣にビビっていたくせに今はよく喋る」
ぐっ、痛いところを突いてくるなこいつ。
また大剣を出されるんじゃと内心ヒヤヒヤしている俺をよそ目に男は遠ざかっていく。
そして扉を開けてこちらを見る。
「アルノート」
「……何?」
「俺の、そしてこの魔界を統べる魔王の名だ。覚えておけ、邪神ユリアルマ」
そう言って男……アルノートは扉の向こうに消えていった。
「アルノート……」
あいつ、そんな名前なのか……って、ん?さっきあいつ、何て言った?
『俺の、そしてこの魔界を統べる魔王の名だ』
「あ、あいつ、魔王だったのか!?」
俺の驚きの声が、大きな部屋に響いた。