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02

 真っ暗な所に立っている、当然周りには何も見えない。
 俺は死んだのか?ここは所謂あの世と言われる場所なのか?
「……神……呼び声……」
 呆然としていると何者かの声が聞こえる。
 ふと前を見ると淡い光が見える、声もそこから聞こえてきているようだ。
「呼び声……応え……」
 ここにいても何も変わらないだろう。それよりは一か八かあの光の元へ行ってみるか。
 近づくごとに光が強くなり、声も鮮明になってくる。
「邪悪なる神よ、我が呼び声に応えよ」
 邪悪なる神?何を言ってるんだ?
 若干の不安はあるが、他に行く宛もない。俺は歩を進めるのをやめない。
 段々と強くなる光。あまりの眩しさに目を瞑ってしまうがそれでも歩き続けると、いきなり体がふわりと軽くなった。
「っ……!」
 何が起こるのかわからない恐怖を、奥歯を噛み締めて耐える。
 しかし特に何か起こることもなく体は再び重力を取り戻し、それと同時に眩しさが消え冷たい空気が流れる。
「おぉ……!」
 唐突に前の方から声が聞こえるが、それは先ほどから聞こえていたものと同じな様だった。
「……?」
 恐る恐る目を開いてみる。
 最初に見たものは、二人の男だった。一人は小さく髪の無いローブを纏った老人、そしてもう一人は黒髪赤眼で背の高い男。
 男の顔は思わず見とれてしまう位に整っている。所謂イケメンという奴か。
(って何、男に見とれてんだ!)
 俺は変な男に刺されて死んだ筈、一体ここは何処なんだ!?
 内心で慌てふためく俺を見ながら老人は笑顔で口を開く。
「神呼びの儀式、無事成功でございます」
 神呼び、の儀式?一体何のことだ?
 辺りを見回してみるが、目に入るのは石造りの壁と二人の後ろにある扉のみ。床を見ると何やら赤い線や円、読めない文字が俺を取り囲む様に書かれている。
 これは漫画とかで見る魔方陣、というものか?何でそんなものの中心に俺が立ってるんだ……?
 老人が俺に向かって膝をつく。
「我等が崇拝します、邪神ユリアルマ様。どうか我等に力をお与え下さい」
「……はぁ?」
 思わず変な声を上げてしまった。今俺はかなり困惑した顔をしているに違いない。
 邪神?ユリアルマ?力?何言ってるんだこの爺さん。
「待てゼバ、様子がおかしい」
 ゼバと呼ばれた老人の後ろに立っていた男が口を開く。
 低いが中々良い声だな……って、また何を考えてるんだ!俺は!
「お前、本当に邪神なのか?」
 青年がこちらを睨みつけてくる。正直恐いが、答えないともっと恐ろしいことになるかもしれない……。
「お、俺は明神悠莉だ。ユリ?何とかっていう名前じゃないしそもそも邪神じゃない!」
 そう叫ぶと男の顔は益々険しくなる。何だってそんな目で俺を見るんだ、恐いからやめてほしい。
 耐えられなくなって俺は彼から目線を逸らす。
「ミョージンユーリ……?知らん、奇妙な名だ」
「なっ!?」
 何だこいつ!人の名前にケチ付ける気か!?
 こちらを睨むこの男、見た目とは裏腹に嫌な奴みたいだ。
「ゼバお前、儀式に失敗したのではないか?」
「まさか!ならば何も召喚されぬ筈でございます」
 召喚?召喚だって?俺はもう一度床に書かれた幾何学模様を見る。
 もしかしてこれって、召喚陣って奴か……?
 俺は、いやまさか、でも。
 俺は、召喚、されたのか?
 そんなの漫画とか小説とかでしか見たことない、フィクションだろ?
「……まぁいい、確かめる方法など簡単だ」
 男の声ではっとする。見ると彼は何処から取り出したのだろうか赤黒い大剣を片手で持っている。
 あんな重そうな物を片手で持つなんて普通じゃない……って待て!
 相手をよく見る。上半身はコートを羽織っているだけで開いた前からは均等の取れた筋肉が見える……それよりも目を引くのは尖った耳とその上に生えている黄土色の角。
 慌てて老人の方も見るが彼も青年と同様、尖った耳と角を持っている。
 さっきは動揺してて気付いていなかったが、どう見ても。
(こいつら、人間じゃない……!)
 そんなことを考えている間に男はこちらへ向かって歩き出す。勿論、手には大剣を持って。
 これは、かなり危険な状況なんじゃないか!?
 逃げようにも扉は男の後ろにあるもの一つしかない。この部屋の広さではどうあがいても扉にたどり着く前にあの大剣で斬られてしまうだろう。
 こうしている間にも、男と俺の距離は近付いていく。
(?あれ……?)
 後ろに下がろうとした時、違和感に気が付いた。
(俺の体、こんなだったか?)
 妙に目線が高い気がする。そんなしょうもないことに気を取られた所為か、俺はバランスを崩して後ろに倒れこんだ。
 急いで起き上がろうとした俺の首筋に大剣の先が向けられている。
「ひっ……!?」
 変な男に刺された記憶がフラッシュバックし、声が漏れる。
 こちらを見る赤眼は、恐ろしく冷たい。
 心臓がとても大きな音を立てている。全身から汗が止まらない。
 俺は、また、殺される……?
 しばらくして、男は大剣を引き投げる。すると大剣は霧になって消えてしまった。
「……儀式は失敗だ。こんな奴が邪神な訳がない」
 俺に背を向けて男は呆れた様に言う。
「っ、はぁっはぁっ……」
 全身から力が抜ける。
 そのまま目の前が真っ暗になって、俺は再び気を失った。
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