10
あの後、俺の叫びを聞きつけた従者が医者を呼びアルノートは運ばれて行った。
俺は事情を聞かれた。当たり前だが邪神のことやゼバのことを説明することが出来ず、結果俺は魔王を殺そうとした反逆者として牢に入ることとなった。
「愚かな者共……自ら信仰する神をよりにもよって牢に入れるとは」
苛立ちを隠しもせずリーザは言う。
もし彼女の本体がここにあれば大変なことになっていたかもしれない。
「まぁ、仕方ないさ。誰も俺が邪神だなんて知らないんだから」
それよりも、アルノートは大丈夫だろうか。
あれから数日経つが、少しは傷が癒えただろうか。牢屋を警備している兵に聞いてみたが、残念ながら答えてはくれなかった。
その代わり兵は、俺がギロチンでの斬首刑に処されるだろうと言った。
ただのギロチンで俺を殺すことは果たして出来るのだろうか?
「無理でございます」
まぁ、そうだろうな。
問題は刑が執行された後のことだ。首を斬ってもしななかったとなれば大騒ぎ間違いないだろう。
その前にさっさと脱獄するべきか?でもそうするとあいつとの契約がなぁ……。
どうするか決めあぐねていると、誰かが近付いてくる足音が聞こえる。
何だ、もう刑が執行されるのか等と思っていると足音の主が姿を現す。
それはあの日、俺をアルノートの所まで連れていってくれた従者だった。
彼は檻の扉を開けると「魔王様が玉座の間にてお待ちでございます」と頭をさげた。
何だかよくわからないが、アルノートには会いたい。
俺は従者についていくことにした。
「魔王様、お客人をお連れしました」
「ああ、入れ」
再び玉座の間に入ると、奥には前と同じくアルノートが座っていた。だが傷は完全に治っていないようで胸には包帯が巻かれている。
従者がいなくなり扉が閉まると、部屋には俺とアルノートの二人だけになった。
「怪我は大丈夫なのか?」
そう聞くと彼はつまらなさそうに「当たり前だ」と言った。
嘘つけ、包帯巻いてるくせに。
「そう言えば俺、お前を殺そうとした反逆者になってるんだが」
「そうらしいな」
そうらしいなってお前……。
「何かギロチンでの斬首刑らしいけど、本当にやるのか?多分死なないから大変なことになるぞ」
「それも面白いかもしれんな」
アルノートが笑う。久しぶりに俺に向けられた笑顔だ、もう見ることは無いと思っていたから結構嬉しい。
やっぱり俺、こいつのことが好きなんだな。
その笑顔をずっと見ていたいがそういう訳にもいかない。本題に入らないと。
「……それで対価の件についてなんだが」
考え抜いた結果、王家の宝を一つ貰うことにした。正直対価なんて何でもよかったが、俺がこの国の魔王と、こいつと契約した証が欲しくてその対価に決めた。
「そのことだがな」
「ん?」
「気が変わった、お前とはもう一つ契約を結ぶ」
「……何だって!?」
ここに来て契約を二つ交わすだと!?
「それは、ちょっと強欲過ぎないか……?」
「魔王だからな」
しれっと言いやがった、こいつ。
……まぁ、ここまでの惨事になったのは俺の所為でもあるし、どうせ会うのも最後だから少し位良いことにしよう。
決して好きだからえこひいきしようとかじゃない!そう、決して!
「で、何を望むんだ。言っとくけど出来ること少ないからな、俺」
「何、とても簡単なことだ」
「そうなのか?」
ってことは新たな戦い方とか魔法とかか?だが、今持ってる記憶じゃ大したものは教えられない気がするし……。
「俺の側にいろ」
「…………それは俺にこの国に尽くせと言うことか?確かに現時点での人間の力を鑑みるにこの国を守ることは難しくないが……」
悪くない契約内容だがそれではリーザが暗黒界に置き去りにしてしまう。
悩みつつアルノートを見ると彼は呆れたと言わんばかりの表情をしている。
「お前の力を得れば必要のないことだろうが」
「じゃあ新たな側近か?俺にはお前を支えるだけの知識は無いぞ」
「端から当てにしてない」
「……神として祀って国への忠誠心を高めるとか?」
「そんなことをしなくても民は充分国を思っている」
「……」
「本当にわからないのか?」
「……?」
答えあぐねているとアルノートは、はぁとため息を吐いた。
わからん。何だよ、俺を手元に置く利点って。
「俺の妻になれと言ってるんだ」
「……………………え?」
随分と間抜けな声が出た。
ちょっと待て、今何て言った?
「……俺は男だ」
「魔界では同性婚が認められている」
へぇ、そうなのか……じゃない!
「お前、俺のことが嫌いなんじゃないのか!?」
「いつ誰がそんなことを言った」
「い、一体いつから!?」
「お前が召喚された時だ。一目惚れ、という奴だな」
「嘘だ!お前っ、俺に大剣向けただろ!!」
「あれは本物かどうか確認したまでだ」
まぁどちらでも娶るつもりではあったがな、とさも当然の様に彼は言う。
「世話だって焼いてやっただろう?大体ほぼ一緒に居たろう」
「あれは監視の為じゃ……」
「王がそんなことするか、馬鹿馬鹿しい」
何だ、何がどうなってるんだ。
こいつは最初から俺のことが……これは、両想いという奴では?
それは嬉しい、嬉しいが……。
「お前も俺のことが好きなんだろう?」
「は!?」
ニヤニヤと笑うアルノート。嘘だろ、バレてたのか!?
「バレていないと思ったのか?俺の方を見ては顔を赤らめていた癖して」
「ばっ、馬鹿!」
そんな訳ないだろ、と言いたいところだが多分、いや実際見惚れてた時は何回かあった。
今の俺は顔どころか耳まで赤いに違いない。
アルノートが玉座を立ちこちらに歩いてくる。そして目の前まで来ると俺を優しく抱き締める。
こんなことをされたら決意が揺らぐ、だが……。
「良かったではないですか」
リーザの声が聞こえる。
だが、帰らないと。お前がひとりぼっちじゃないか。
「言ったではないですか。貴方様が幸せなら何だっていいと」
微かに思い出す。長い間二人であの暗い世界で暮らしてきた、家族同然の存在だった。
それなのに。
「貴方様は今までどんな理不尽にも耐えて来ました。少し位のわがまま、良いじゃありませんか……別に全く会えない訳ではございません。体は離れていても私の心はいつでも貴方様のお傍におります」
……本当に。
「本当に、幸せになって良いのか?」
「はい」
「良い、俺が許す」
俺の呟きに、リーザとアルノートが答える。
俺は彼の顔を見る。
「……契約には対価が必要だぞ」
「何だ、言ってみろ」
「愛してくれ、ずっと。浮気なんかしたら承知しないからな」
そう言って俺は笑う。
この世界に戻って来て初めての、心からの笑顔だった。
俺は事情を聞かれた。当たり前だが邪神のことやゼバのことを説明することが出来ず、結果俺は魔王を殺そうとした反逆者として牢に入ることとなった。
「愚かな者共……自ら信仰する神をよりにもよって牢に入れるとは」
苛立ちを隠しもせずリーザは言う。
もし彼女の本体がここにあれば大変なことになっていたかもしれない。
「まぁ、仕方ないさ。誰も俺が邪神だなんて知らないんだから」
それよりも、アルノートは大丈夫だろうか。
あれから数日経つが、少しは傷が癒えただろうか。牢屋を警備している兵に聞いてみたが、残念ながら答えてはくれなかった。
その代わり兵は、俺がギロチンでの斬首刑に処されるだろうと言った。
ただのギロチンで俺を殺すことは果たして出来るのだろうか?
「無理でございます」
まぁ、そうだろうな。
問題は刑が執行された後のことだ。首を斬ってもしななかったとなれば大騒ぎ間違いないだろう。
その前にさっさと脱獄するべきか?でもそうするとあいつとの契約がなぁ……。
どうするか決めあぐねていると、誰かが近付いてくる足音が聞こえる。
何だ、もう刑が執行されるのか等と思っていると足音の主が姿を現す。
それはあの日、俺をアルノートの所まで連れていってくれた従者だった。
彼は檻の扉を開けると「魔王様が玉座の間にてお待ちでございます」と頭をさげた。
何だかよくわからないが、アルノートには会いたい。
俺は従者についていくことにした。
「魔王様、お客人をお連れしました」
「ああ、入れ」
再び玉座の間に入ると、奥には前と同じくアルノートが座っていた。だが傷は完全に治っていないようで胸には包帯が巻かれている。
従者がいなくなり扉が閉まると、部屋には俺とアルノートの二人だけになった。
「怪我は大丈夫なのか?」
そう聞くと彼はつまらなさそうに「当たり前だ」と言った。
嘘つけ、包帯巻いてるくせに。
「そう言えば俺、お前を殺そうとした反逆者になってるんだが」
「そうらしいな」
そうらしいなってお前……。
「何かギロチンでの斬首刑らしいけど、本当にやるのか?多分死なないから大変なことになるぞ」
「それも面白いかもしれんな」
アルノートが笑う。久しぶりに俺に向けられた笑顔だ、もう見ることは無いと思っていたから結構嬉しい。
やっぱり俺、こいつのことが好きなんだな。
その笑顔をずっと見ていたいがそういう訳にもいかない。本題に入らないと。
「……それで対価の件についてなんだが」
考え抜いた結果、王家の宝を一つ貰うことにした。正直対価なんて何でもよかったが、俺がこの国の魔王と、こいつと契約した証が欲しくてその対価に決めた。
「そのことだがな」
「ん?」
「気が変わった、お前とはもう一つ契約を結ぶ」
「……何だって!?」
ここに来て契約を二つ交わすだと!?
「それは、ちょっと強欲過ぎないか……?」
「魔王だからな」
しれっと言いやがった、こいつ。
……まぁ、ここまでの惨事になったのは俺の所為でもあるし、どうせ会うのも最後だから少し位良いことにしよう。
決して好きだからえこひいきしようとかじゃない!そう、決して!
「で、何を望むんだ。言っとくけど出来ること少ないからな、俺」
「何、とても簡単なことだ」
「そうなのか?」
ってことは新たな戦い方とか魔法とかか?だが、今持ってる記憶じゃ大したものは教えられない気がするし……。
「俺の側にいろ」
「…………それは俺にこの国に尽くせと言うことか?確かに現時点での人間の力を鑑みるにこの国を守ることは難しくないが……」
悪くない契約内容だがそれではリーザが暗黒界に置き去りにしてしまう。
悩みつつアルノートを見ると彼は呆れたと言わんばかりの表情をしている。
「お前の力を得れば必要のないことだろうが」
「じゃあ新たな側近か?俺にはお前を支えるだけの知識は無いぞ」
「端から当てにしてない」
「……神として祀って国への忠誠心を高めるとか?」
「そんなことをしなくても民は充分国を思っている」
「……」
「本当にわからないのか?」
「……?」
答えあぐねているとアルノートは、はぁとため息を吐いた。
わからん。何だよ、俺を手元に置く利点って。
「俺の妻になれと言ってるんだ」
「……………………え?」
随分と間抜けな声が出た。
ちょっと待て、今何て言った?
「……俺は男だ」
「魔界では同性婚が認められている」
へぇ、そうなのか……じゃない!
「お前、俺のことが嫌いなんじゃないのか!?」
「いつ誰がそんなことを言った」
「い、一体いつから!?」
「お前が召喚された時だ。一目惚れ、という奴だな」
「嘘だ!お前っ、俺に大剣向けただろ!!」
「あれは本物かどうか確認したまでだ」
まぁどちらでも娶るつもりではあったがな、とさも当然の様に彼は言う。
「世話だって焼いてやっただろう?大体ほぼ一緒に居たろう」
「あれは監視の為じゃ……」
「王がそんなことするか、馬鹿馬鹿しい」
何だ、何がどうなってるんだ。
こいつは最初から俺のことが……これは、両想いという奴では?
それは嬉しい、嬉しいが……。
「お前も俺のことが好きなんだろう?」
「は!?」
ニヤニヤと笑うアルノート。嘘だろ、バレてたのか!?
「バレていないと思ったのか?俺の方を見ては顔を赤らめていた癖して」
「ばっ、馬鹿!」
そんな訳ないだろ、と言いたいところだが多分、いや実際見惚れてた時は何回かあった。
今の俺は顔どころか耳まで赤いに違いない。
アルノートが玉座を立ちこちらに歩いてくる。そして目の前まで来ると俺を優しく抱き締める。
こんなことをされたら決意が揺らぐ、だが……。
「良かったではないですか」
リーザの声が聞こえる。
だが、帰らないと。お前がひとりぼっちじゃないか。
「言ったではないですか。貴方様が幸せなら何だっていいと」
微かに思い出す。長い間二人であの暗い世界で暮らしてきた、家族同然の存在だった。
それなのに。
「貴方様は今までどんな理不尽にも耐えて来ました。少し位のわがまま、良いじゃありませんか……別に全く会えない訳ではございません。体は離れていても私の心はいつでも貴方様のお傍におります」
……本当に。
「本当に、幸せになって良いのか?」
「はい」
「良い、俺が許す」
俺の呟きに、リーザとアルノートが答える。
俺は彼の顔を見る。
「……契約には対価が必要だぞ」
「何だ、言ってみろ」
「愛してくれ、ずっと。浮気なんかしたら承知しないからな」
そう言って俺は笑う。
この世界に戻って来て初めての、心からの笑顔だった。