bsr超短編
「小太郎さん」
寝床に横たわる女が、ゆるゆると、目蓋を開く。
ぼんやりと焦点の合わない瞳が、己を捉える。
それから女の手は縋るように、すぐそばに侍る俺の胸元を掴んだ。
微睡に揺れる女の掌は、熱い。
まるで幼な子のようだと思った。
「こたろ、さん」
もう一度、女が俺の名を呼んだ。
先ほどよりも呂律の回らぬ舌で、それでいて何故か幸せそうな顔で俺を呼ぶのだ。
随分と重たくなった女の目蓋が、またゆっくりと落ちていく。
もうこのまま落ちていってしまえと、その目元を掌で塞いだ。
女の肩から力が抜けていく。すぐに呼吸は規則正しい寝息に変わった。
しかし、女の手は俺の胸元を掴んだまま離さない。
仕方ないと大きく息を吐いて、女の腰まで掛けられた毛布を捲ると、人肌に温められた寝床へと身体を滑り込ませた。