bsr超短編
小さな、あまりにも小さな掌だった。
こんな小さな生き物がこの世に、人として生きているのかと疑いたくなるほどに、あまりにも小さな、手。
その手が、己の差し出した指を五本の指でしっかりと握り返している。強く、強く、その体の小ささからは想像ができぬほどの力で。握りながら、夢を見ている。
随分と豪胆な性格である。人の指を全身全霊で握りしめながら、自身は夢の中にいるというのだ。一体どんな夢を見ているのか、問うてみたくなった。
「ほら、てて様ですよ」
女が、その小さな生き物を産衣にくるみながら、両腕の中に抱いている。
それから、指を握られたままの俺の顔をふと見上げて、女は小さく笑った。
「私は、はは様です」
自分で言った言葉がそんなに嬉しいのか、女はもう一度、今度ははにかんだように笑って見せた。それがどうにも眩しく見え、このまま光の中に霞んで消えてしまうのではないかという一抹の不安がよぎる。
空いたもう片方の手で女の肩に手を掛ければ、女はその小さな生き物──俺と同じ紅い髪をした赤子を大事そうに腕に抱えて、俺の胸へとすり寄ってくる。
赤子が俺の指を握る力が、さらに強くなる。それから赤子は産衣の中で力強く伸びをすると同時に、小さな口を目一杯に開けて、一つ、欠伸をした。
さて、この豪胆さは誰に似たものか。俺か、あるいは──
赤子から視線を女へと移せば、それに気付いた女が顔を上げる。
それから、「なあに?」などと、まるで出会った時と同じ生娘のままのような顔で、首を傾げるから。
視界を奪うように目尻へと唇を寄せれば、何がおかしいのか、女はまたくすくすと、喉の奥で楽しげに笑うのだった。