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一章(杭瀬村編)

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主人公

「おい!起きんか!とっくに日が昇ってるぞ!」

(朝からこの声量はきつい…)

うしおはもぞりと布団から這い出た。いつもより眠っていた気がする。
声の主を見上げれば、すでに着替え終わった大木が仁王立ちしている。

「…すみません」

とりあえず謝っておこう。時計がないから時間が分からないが、おそらくこの時代では寝過ぎなんだろう。

「まずはそれに着替えろ。あいにく女ものは無いが、無いよりはましじゃろう」

布団の横に綺麗に畳まれた着物とサラシが置いてある。

(ブラの代わりにサラシなのかな)

うしおが礼を言うと、大木は少し外に出るみたいで、その間に着替えることになった。

(…数回着たことあるけど、帯の結び方これであってたっけ?)

大学生の頃に何度か自分で着付けをしてみたことがあった。なんとなく動画を観ながらやったので、うろ覚えだ。

四苦八苦しながら、なんとか形になったところで大木が戻ってきた。

「戻ったぞ。…着物は1人で着れたんじゃな」

そう言って野菜の入った籠を土間に置く。

「…まあ、なんとか」

褒められたのかな?と少し照れる。

「帯の結びがアレだが、……こうすれば、まあ大丈夫じゃろう!顔を洗ってこい。井戸は出てすぐにある」

大木はうしおの後ろに立ち、帯と襟足を手早くなおしてくれた。急に距離が近くなり、うしおはどきりとする。

「…はい。ありがとうございます」

うしおは家を出て井戸へと向かった。

言われた通り井戸で顔を洗うこととしたが、釣部を落としても重くて水がくめない。

(っ!井戸なんて使ったことないわよ!)

上がらない釣部に半ば諦めモードになる。

(もういいや。寝坊した手前、待たせるのは申し訳ないし、諦めよう。)

うしおは家の中へ戻る。

「戻りました。」

「おう!それじゃあ、朝餉の支度を手伝ってくれ!」

(米を研ぐ大木先生って、なんてレアなんだろう)

うしおは大木に石を渡される。

「竃に火をつけてくれんか。」

「…これって、火打石ってやつですか?」

「見たらわかるじゃろう」

「そうですよね。見たら分かりますよね。」

うしおは困った。流石に火をつけるなんて、やったことがなかった。

(これ、できなかったら何て思われるかな…)

昨夜大木に言った話は嘘ではないが、全てを話せた訳ではない。むしろ大切なことは伝えられていない。

(数百年前から来たなんて…流石に突拍子なさすぎる)

とりあえずやってみようと石をカチカチさせてみるが全く火がつかない。

「…何をやっておる、貸してみろ」

大木は一瞬で火をつける。慣れているだけある。

「すみません。…どうにも苦手で」

「まあいい。他にもやることならあるからな!」

ニカッと笑う大木にうしおは、申し訳なくなる。

(まずはできることをしよう!野菜を切るとか調理はできるし!)

うしおは気を取り直し、朝餉の支度に取り掛かった。




朝日が昇る少し前に、大木は起き上がった。寝巻きからいつもの服装に着替える。女はまだ眠っている。

(あの服装では目立つな)

大木は着なくなった着物と、サラシを女の眠る布団の横に置く。まだ眠るうしおを確認すると、朝餉用に畑から野菜を収穫しに行く。
収穫が終える頃には、そろそろ村人が起きる時間だった。大木は野菜を家の裏手に置くと、家の中にはいった。

(まだ寝ておるのか)

「おい!起きんか!とっくに日が昇ってるぞ!」

自分の声にびくりと体を震わせると、女はもぞもぞと起き上がった。
着替えを促せば、大木が家を出ると女は疑いなく着替え始めた。
家に1人にして不審な動きをしないかと思ったが、女は慣れなさそうに着物を着替え終えると、布団を畳み座って待っている。
大木は家の裏に置いておいた野菜のカゴを持って、あたかも今収穫してきたかのように家に入った。

井戸を使えと言えば、釣部を釣り上げることができずに1人で悪戦苦闘していた。しばらくすると、諦めて家に戻ってきた。

火打石は使えないが、野菜を切ることや、味噌汁を作ることはできるようだった。

(誰かに身の回りの世話をしてもらっていて基本的な事ができないのかと思えば、できることもある…。ちぐはぐなヤツだな)

大木はうしおの正体が余計に分からず、どうすれば良いのか悩む。

そんな事を考えている内に、朝餉準備ができてします。

「よし、うまそうにできたな!まずは朝餉にしよう!」

「はい!」

作り終えた達成感だろうか、女は嬉しそうに返事をする。

(…ワシのことを信じているのか…本当に無防備な女だなあ)

大木は複雑な気持ちでため息を吐くと、お椀に味噌汁をよそった。
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