一章(杭瀬村編)
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大木に手を引かれて着物を買いに行く。
いくつか既製品の着物が売られている店がある。この時代、反物から着物を作るのはかなり裕福な人間だけだったはずだ。町人などはすでに作ってある着物、つまり古着を買うことが多い。
(古着といっても全然綺麗だし、きっと高価なものもありそうだなあ)
うしおはなるべくシンプルな柄が売られている店を見る。
「ここに入ってみるか?」
「はい」
「いらっしゃいませ!奥さん綺麗だねぇ、こんな着物はどうだい?」
店主が気さくに話しかけてくる。手にはピンク色の若々しい柄の着物を持っている。
「えっと…もう少し地味な柄が…」
「奥さん若いからこのくらい派手な柄でもお似合いですよ!ねえ旦那さん!」
大木に同意を求める。
「そうじゃなあ。うしおにはこっちの色味も似合うと思うがのお」
指さしたのは綺麗な水色に白い花が散りばめられた、落ち着いた柄だった。
「わあ、そっちも素敵ですね」
「旦那さんお目が高いですね!これは有名な絵師がデザインしているもんですよ。奥さんにとってもお似合いですよ」
褒めちぎる店主に、そうかあ?なんて言いつつ代金を支払おうとする。
「ちょっと雅之助さん!」
うしおは慌てて呼び止める。そしてずいっと大木の着物を引っ張り耳打ちする。
「高価な品ですよ!きっと!もっと良心的な値段のものにしましょう!」
「…なんじゃ、そんなこと心配しておるのか」
「だって…」
居候させてもらっているうえ、先程高価なかつらまで貰ってしまっている。これ以上は申し訳ない。
「気にするな。このくらい稼いでおるわい」
ガハハと笑ってお金を払ってしまったため、それ以上止めることができない。
「さすが!旦那さん太っ腹ですなあ!またご贔屓に!」
包んだ着物を受け取り2人は店を出る。
(これ以上遠慮すると、逆に雅之助さんの収入が低いっていってるみたいよね。失礼になってしまうし…なにかお返しできないかな)
「雅之助さん!着物ありがとうございました!荷物持ちます!」
とりあえず荷物持ちくらいはしようと思う。
「なに、このくらい大丈夫じゃ。それよりはぐれんように手を出せ」
「…もう大丈夫ですよ?…」
「さっきからキョロキョロしておるじゃろうが。迷子になっても知らんぞ」
大木がずいっと顔を寄せて言う。なんだか子供に言い聞かせているみたいだ。
「…子供じゃないですよ」
小さく抗議するが、お構いなく手を繋がれる。
温もりが手に伝わる。大きくて分厚くて、頼りになる手だ。
(…甘やかされるから頼ってしまう…)
自分1人で自立できるようにならないといけないのに。そう思っても、何故かこの手を振り払うことができなかった。
五年生は変装の授業で街に来ていた。
勘右衛門は女装して茶屋のアルバイト、平助は豆腐屋、八左ヱ門は同じく豆腐屋の手伝いとして。雷蔵は私と共に古着を出していた。
雷蔵がちょうど休憩で出かけていると、見知った人物が入ってきた。
(大木先生…後ろにいる人は誰だ?…)
実習中であるため何食わぬ顔で接客をする。
「いらっしゃいませ!奥さん綺麗だねぇ、こんな着物はどうだい?」
ピンク色の若々しい着物を持ち気さくに話しかける。
(北石先生よりは年上か?…土井先生くらいか、少し下だろうか)
長い髪は艶やかである。だが着物は見た目よりも地味な色合いだ。もっと派手な色味でもいい気はする。
「えっと…もう少し地味な柄が…」
女は遠慮がちに言う。
「奥さん若いからこのくらい派手な柄でもお似合いですよ!ねえ旦那さん!」
大木先生に同意を求める。目が合うと自分の変装が見破られているぞと言われている気がした。
(私の変装を分かっていて、話を合わせてくれるのか?)
「そうじゃなあ。うしおにはこっちの色味も似合うと思うがのお」
指さしたのは綺麗な水色に白い花が散りばめられた、落ち着いた柄だった。
「わあ、そっちも素敵ですね」
「旦那さんお目が高いですね!これは有名な絵師がデザインしているもんですよ。奥さんにとってもお似合いですよ」
店の中で高価な部類の着物を選ぶ。収入は自分たちのお小遣いになるのでありがたい。委員会の予算にも当てられるなあと鉢屋はほくそ笑む。
褒めちぎる私に、そうかあ?なんて言いつつ代金を支払おうとする。
「ちょっと雅之助さん!」
女は慌てて呼び止める。そしてずいっと大木の着物を引っ張り耳打ちする。
「高価な品ですよ!きっと!もっと良心的な値段のものにしましょう!」
(聞こえないようにしているつもりだろうが、丸聞こえだ)
「…なんじゃ、そんなこと心配しておるのか」
「だって…」
「気にするな。このくらい稼いでおるわい」
大木先生がガハハと笑ってお金を払ってしまったため、女は止めることができずにいたようだった。
「さすが!旦那さん太っ腹ですなあ!またご贔屓に!」
着物を包んで渡す時、矢羽が飛んでくる。
『高い着物を買ってやったんだ。しばらく黙っておれよ』
やはり気がついていたのだ。
『…分かりました』
『他の生徒は』
『五年生がいます』
『そいつらにも伝えておけ』
大木は何食わぬ顔で女と店を出て行った。
(…一体、あの人は誰なんだろうか)
「三郎、今戻ったよ。店は大丈夫だった?」
雷蔵が戻ってきた。
今起こったことを伝えなくては。
鉢屋はニヤリとして事の経緯を話し出した。
いくつか既製品の着物が売られている店がある。この時代、反物から着物を作るのはかなり裕福な人間だけだったはずだ。町人などはすでに作ってある着物、つまり古着を買うことが多い。
(古着といっても全然綺麗だし、きっと高価なものもありそうだなあ)
うしおはなるべくシンプルな柄が売られている店を見る。
「ここに入ってみるか?」
「はい」
「いらっしゃいませ!奥さん綺麗だねぇ、こんな着物はどうだい?」
店主が気さくに話しかけてくる。手にはピンク色の若々しい柄の着物を持っている。
「えっと…もう少し地味な柄が…」
「奥さん若いからこのくらい派手な柄でもお似合いですよ!ねえ旦那さん!」
大木に同意を求める。
「そうじゃなあ。うしおにはこっちの色味も似合うと思うがのお」
指さしたのは綺麗な水色に白い花が散りばめられた、落ち着いた柄だった。
「わあ、そっちも素敵ですね」
「旦那さんお目が高いですね!これは有名な絵師がデザインしているもんですよ。奥さんにとってもお似合いですよ」
褒めちぎる店主に、そうかあ?なんて言いつつ代金を支払おうとする。
「ちょっと雅之助さん!」
うしおは慌てて呼び止める。そしてずいっと大木の着物を引っ張り耳打ちする。
「高価な品ですよ!きっと!もっと良心的な値段のものにしましょう!」
「…なんじゃ、そんなこと心配しておるのか」
「だって…」
居候させてもらっているうえ、先程高価なかつらまで貰ってしまっている。これ以上は申し訳ない。
「気にするな。このくらい稼いでおるわい」
ガハハと笑ってお金を払ってしまったため、それ以上止めることができない。
「さすが!旦那さん太っ腹ですなあ!またご贔屓に!」
包んだ着物を受け取り2人は店を出る。
(これ以上遠慮すると、逆に雅之助さんの収入が低いっていってるみたいよね。失礼になってしまうし…なにかお返しできないかな)
「雅之助さん!着物ありがとうございました!荷物持ちます!」
とりあえず荷物持ちくらいはしようと思う。
「なに、このくらい大丈夫じゃ。それよりはぐれんように手を出せ」
「…もう大丈夫ですよ?…」
「さっきからキョロキョロしておるじゃろうが。迷子になっても知らんぞ」
大木がずいっと顔を寄せて言う。なんだか子供に言い聞かせているみたいだ。
「…子供じゃないですよ」
小さく抗議するが、お構いなく手を繋がれる。
温もりが手に伝わる。大きくて分厚くて、頼りになる手だ。
(…甘やかされるから頼ってしまう…)
自分1人で自立できるようにならないといけないのに。そう思っても、何故かこの手を振り払うことができなかった。
五年生は変装の授業で街に来ていた。
勘右衛門は女装して茶屋のアルバイト、平助は豆腐屋、八左ヱ門は同じく豆腐屋の手伝いとして。雷蔵は私と共に古着を出していた。
雷蔵がちょうど休憩で出かけていると、見知った人物が入ってきた。
(大木先生…後ろにいる人は誰だ?…)
実習中であるため何食わぬ顔で接客をする。
「いらっしゃいませ!奥さん綺麗だねぇ、こんな着物はどうだい?」
ピンク色の若々しい着物を持ち気さくに話しかける。
(北石先生よりは年上か?…土井先生くらいか、少し下だろうか)
長い髪は艶やかである。だが着物は見た目よりも地味な色合いだ。もっと派手な色味でもいい気はする。
「えっと…もう少し地味な柄が…」
女は遠慮がちに言う。
「奥さん若いからこのくらい派手な柄でもお似合いですよ!ねえ旦那さん!」
大木先生に同意を求める。目が合うと自分の変装が見破られているぞと言われている気がした。
(私の変装を分かっていて、話を合わせてくれるのか?)
「そうじゃなあ。うしおにはこっちの色味も似合うと思うがのお」
指さしたのは綺麗な水色に白い花が散りばめられた、落ち着いた柄だった。
「わあ、そっちも素敵ですね」
「旦那さんお目が高いですね!これは有名な絵師がデザインしているもんですよ。奥さんにとってもお似合いですよ」
店の中で高価な部類の着物を選ぶ。収入は自分たちのお小遣いになるのでありがたい。委員会の予算にも当てられるなあと鉢屋はほくそ笑む。
褒めちぎる私に、そうかあ?なんて言いつつ代金を支払おうとする。
「ちょっと雅之助さん!」
女は慌てて呼び止める。そしてずいっと大木の着物を引っ張り耳打ちする。
「高価な品ですよ!きっと!もっと良心的な値段のものにしましょう!」
(聞こえないようにしているつもりだろうが、丸聞こえだ)
「…なんじゃ、そんなこと心配しておるのか」
「だって…」
「気にするな。このくらい稼いでおるわい」
大木先生がガハハと笑ってお金を払ってしまったため、女は止めることができずにいたようだった。
「さすが!旦那さん太っ腹ですなあ!またご贔屓に!」
着物を包んで渡す時、矢羽が飛んでくる。
『高い着物を買ってやったんだ。しばらく黙っておれよ』
やはり気がついていたのだ。
『…分かりました』
『他の生徒は』
『五年生がいます』
『そいつらにも伝えておけ』
大木は何食わぬ顔で女と店を出て行った。
(…一体、あの人は誰なんだろうか)
「三郎、今戻ったよ。店は大丈夫だった?」
雷蔵が戻ってきた。
今起こったことを伝えなくては。
鉢屋はニヤリとして事の経緯を話し出した。