運命の邂逅【女主】
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____1996年某月、夜。
神室町の先にある5階建マンション、その3階の一番奥の部屋に私は住んでいる。
マンションのオーナーからここを閉鎖すると通達が来た。それで住民が次々と退去していき、現在は私だけが居座っている。
そろそろ引っ越しの準備をしなくてはならない。
日本にいたところでもうやることもないし海外に引っ越そうか、そんなこと考えていた。
出先から帰宅してバッグから取り出した鍵を鍵穴に刺したところだった。
エレベーターの上昇する音が聞こえた。考えられるのは宅配業者か訪問販売か。
目線を動かして様子を見ているとエレベーターのドアが開く。その奥から派手な格好をした男がタバコを吹かしながら歩いてくる。
「みぃつけたで」
聞き覚えのある声にゾクリと鳥肌が立った。
職業柄私の存在を知るものは少ない。
男はふらふらと歩きながらニヤリと笑っている。
「……やっぱり」
真島吾朗、関東最大の暴力団組織東城会直系真島組の組長である。
“嶋野の狂犬”の異名を持ち、組内の構成員には制御できない程、暴力を働く破天荒な男だ。
左目に眼帯、テクノカットの髪、蛇柄のジャケットを素肌に羽織るという服装がクレイジーさを物語っている。
ただ、この姿の真島を私は知らない。
ヤクザの組長が直々にお出迎えとなると、ある程度死の覚悟を決める他ないが、この男とは少し……いや、大いに関係があった。
「灯台下暗しやでホンマ、まさか神室町近くに住んどるとはのぉ。えろう探したんやで?時間と金使こうてなぁ」
私の前職は殺し屋。
業界では『黒いシカリオの女』と呼ばれていた。シカリオとはスペイン語で殺し屋を意味する。
黒のパーカーに黒のスキニーパンツ、フードを被りマスクをするスタイルとしていたため、その名で呼ばれるようになった。
名が売れた頃、殺しの依頼で大阪に向かった先で真島吾朗と出会うことになる。
それは一人の女性が絡んだ大きな事件に巻き込まれていくのだがもう大昔の話だ。
「しょうもないマンションに住んで。ぎょうさん人殺して稼いだんやからもうちょいええ所住めやええのに。死んだもんも報われんで」
「私を探してるって桐生さんから聞いてた。それから1年も現れないからもう諦めたのかと思ってた……。」
「桐生ちゃんと会うたんかいな!?桐生ちゃんのやつ……見つけたら言えいうとったのに!今度会ったらシバいたる」
「桐生ちゃんって……仲良くなったんだね」
「まぁ立ち話もなんや、茶でも出してくれや」
「え?家に入るの?」
「スゥー……ご近所の皆さーん!ここに住んどるんは殺し屋でっせー!」
「ちょっと!古典的なヤクザみたいなことしないで!わかった!わかったから静かにして!」
「ヒヒッ、最初から素直にしとればええんや」
「なんなのよそのキャラは……」
解錠して玄関を開けると、真島は自分の家かの様に遠慮なく入っていく。靴を適当に脱ぎ、リビングにどかりと胡座をかいた。その後に続いて真島の向かいに座る。
そして今更気付いた、上着を脱ぐことを忘れるほどに私は緊張している。
「私を殺しにきたの……?」
「なんやそれ、殺されるようなことでもしたんか?」
「黙って消えたから……?」
「殺しに来たもなんも、お前はもう死んどるんやろ」
「そうよ、私は存在してない」
「せやけど、今目の前におる 」
「……」
「勿体ないのぉ」
初めて会った時、真島はキャバレーの支配人だった。髪はポニーテール、タキシードを身に纏い、支配人としての評判上場。そして、クールで芯の通った一途な男だった。
「桐生さんが言ってた、真島は昔の真島じゃないって。まさか見た目から変わってるとは思わなかったけど……」
「心機一転っちゅうやつや」
「はぁ……」
「お前が殺し屋やめたようなもんや」
「桐生さんから聞いたの?」
「頼みがあってきたんや」
「頼み?」
「もういっぺん組もうや」
真正面から真剣な眼差しで真島がこちらを見ている。
じっと見つめられたその目は、昔の記憶がフラッシュバックするように、視界がゆっくりぼやけた。
神室町の先にある5階建マンション、その3階の一番奥の部屋に私は住んでいる。
マンションのオーナーからここを閉鎖すると通達が来た。それで住民が次々と退去していき、現在は私だけが居座っている。
そろそろ引っ越しの準備をしなくてはならない。
日本にいたところでもうやることもないし海外に引っ越そうか、そんなこと考えていた。
出先から帰宅してバッグから取り出した鍵を鍵穴に刺したところだった。
エレベーターの上昇する音が聞こえた。考えられるのは宅配業者か訪問販売か。
目線を動かして様子を見ているとエレベーターのドアが開く。その奥から派手な格好をした男がタバコを吹かしながら歩いてくる。
「みぃつけたで」
聞き覚えのある声にゾクリと鳥肌が立った。
職業柄私の存在を知るものは少ない。
男はふらふらと歩きながらニヤリと笑っている。
「……やっぱり」
真島吾朗、関東最大の暴力団組織東城会直系真島組の組長である。
“嶋野の狂犬”の異名を持ち、組内の構成員には制御できない程、暴力を働く破天荒な男だ。
左目に眼帯、テクノカットの髪、蛇柄のジャケットを素肌に羽織るという服装がクレイジーさを物語っている。
ただ、この姿の真島を私は知らない。
ヤクザの組長が直々にお出迎えとなると、ある程度死の覚悟を決める他ないが、この男とは少し……いや、大いに関係があった。
「灯台下暗しやでホンマ、まさか神室町近くに住んどるとはのぉ。えろう探したんやで?時間と金使こうてなぁ」
私の前職は殺し屋。
業界では『黒いシカリオの女』と呼ばれていた。シカリオとはスペイン語で殺し屋を意味する。
黒のパーカーに黒のスキニーパンツ、フードを被りマスクをするスタイルとしていたため、その名で呼ばれるようになった。
名が売れた頃、殺しの依頼で大阪に向かった先で真島吾朗と出会うことになる。
それは一人の女性が絡んだ大きな事件に巻き込まれていくのだがもう大昔の話だ。
「しょうもないマンションに住んで。ぎょうさん人殺して稼いだんやからもうちょいええ所住めやええのに。死んだもんも報われんで」
「私を探してるって桐生さんから聞いてた。それから1年も現れないからもう諦めたのかと思ってた……。」
「桐生ちゃんと会うたんかいな!?桐生ちゃんのやつ……見つけたら言えいうとったのに!今度会ったらシバいたる」
「桐生ちゃんって……仲良くなったんだね」
「まぁ立ち話もなんや、茶でも出してくれや」
「え?家に入るの?」
「スゥー……ご近所の皆さーん!ここに住んどるんは殺し屋でっせー!」
「ちょっと!古典的なヤクザみたいなことしないで!わかった!わかったから静かにして!」
「ヒヒッ、最初から素直にしとればええんや」
「なんなのよそのキャラは……」
解錠して玄関を開けると、真島は自分の家かの様に遠慮なく入っていく。靴を適当に脱ぎ、リビングにどかりと胡座をかいた。その後に続いて真島の向かいに座る。
そして今更気付いた、上着を脱ぐことを忘れるほどに私は緊張している。
「私を殺しにきたの……?」
「なんやそれ、殺されるようなことでもしたんか?」
「黙って消えたから……?」
「殺しに来たもなんも、お前はもう死んどるんやろ」
「そうよ、私は存在してない」
「せやけど、今目の前におる 」
「……」
「勿体ないのぉ」
初めて会った時、真島はキャバレーの支配人だった。髪はポニーテール、タキシードを身に纏い、支配人としての評判上場。そして、クールで芯の通った一途な男だった。
「桐生さんが言ってた、真島は昔の真島じゃないって。まさか見た目から変わってるとは思わなかったけど……」
「心機一転っちゅうやつや」
「はぁ……」
「お前が殺し屋やめたようなもんや」
「桐生さんから聞いたの?」
「頼みがあってきたんや」
「頼み?」
「もういっぺん組もうや」
真正面から真剣な眼差しで真島がこちらを見ている。
じっと見つめられたその目は、昔の記憶がフラッシュバックするように、視界がゆっくりぼやけた。
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