第二話 未体験の知識


シルヴィーはグイグイと腕を引っ張られていた。
武の娘は言葉を終えると、答えを待たずにシルヴィーの腕を鷲掴みにして、中庭の外…城の裏側へと歩き始めた。
抵抗しようとするも全く無駄で、まるで熊と小鳥のように為す術なく連れ去られてしまう。
「な、何をするんですか!?放して下さい!!大声出しますよ!?」
「うっさい、黙って付いて来い」
──と、言い争う間に武の娘の足は止まった。

ちょうど城の裏側だろう。少し薄暗く、警備もいない。
シルヴィーは開放された腕をさすりながら、城壁に向かってゴソゴソとしている武の娘を覗き込んだ。
「よし!!ここから出て行きな!」
「は?」
娘が指差す先は人が一人通れるくらいの穴が空いている。
「ちょっ…?待って下さい?!話が全く見えません!何故?どうして?私が何故この穴から外へ出なければならないのですか?!」
「まずは行動してみろよ」
困惑するシルヴィーを武の娘は真剣な面持ちで見つめた。
「お前が何を迷ってるか俺には分かんねぇが…とにかく、今ここにいても解決しねぇんだろ?だったら、それをどうにかしてから俺に殴られろ」
「……」
最後の言葉が気になるが、シルヴィーは胸を押さえた。

──この胸に溜まるモヤモヤはなんだろう?
───この湧き上がる衝動はなんだろう?

目を閉じると浮かび上がる光景がある。
暗い森。沢山の狼。大きな背中。力強い腕。広い肩。青い空。白い雲。深緑の瞳。薄紫の髪。爽やかな風。長閑な鳴き声。黄色い綿毛。穏やかな声。暖かな手。優しい笑顔。
───……。

「…もう一度、会いたい人がいます」
夕日に染まった彼の、最後の笑顔はとても優しくて、
「どうしても…会いたいのです」

あんなに悲しいものだったから──
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