第二話 未体験の知識
ゴンはまさに牛歩の如く、ゆたゆたのっそり歩みを続けた。
途中畦道を外れて森へ入り、周りは密林の奥地のような様相である。
木漏れ日が射しているのでオオカミの森ほど薄暗さは無いが、それでも鬱蒼とした木々に薄気味悪さを感じ始めたシルヴィーはサルゴンの服を引き、呟いた。
「本当に付いて来て大丈夫だったのですか…?ただ闇雲に歩いているようにしか思えないのですが……」
「しっ」
シルヴィーの不安を遮るようにサルゴンは指を口に当て、耳をすました。
森は静寂に包まれている。
ゴンの足音。葉が擦れる音。風が木技を弄ぶ音。
…………─────。
「サルゴン様?」
「今、聞えただか?」
「いえ…何も?」
シルヴィーがサルゴンの問いに首を傾げると同時に、前方のゴンが一際大きく鳴いた。
「ベェエエ」
「!!」
「───ああ、やっぱりゴンは凄いだなぁ」
サルゴンとシルヴィーは顔を見合わせ、すぐにゴンの頭に乗ったモコモコに視線は向けられた。
小さな体に黄色い毛。クリッと大きな瞳は意思の強さを感じる。
「ピ!」
黄色い綿毛──否、探しまわっていた雛は胸を張るように、元気良くゴンの頭上で鳴いた。
「ピピ!」
「ンベェエ」
「元気ですね…」
呆れるシルヴィーを尻目に、ゴンと雛は会話をするように鳴きあっている。
───ここまでの道のりは一体なんだったのか…
この場所は城からそこまで離れた場所では無い。
エリアとしては城の隣だ。ようするに、探し始めスタート地点の逆方向に位置している。最初から農国を一周する必要はなかったというワケだ。
とんでもなく時間を無駄にした──
「おめ、随分と遠くまで来たっぺなぁ」
「……」
──わけでもないか。
農国を見て周った結果、国の雄大さの一端に触れる事が出来、様々な知識と経験を得る事が出来た。
それに何より……
シルヴィーは笑うサルゴンの横顔から目を逸らし、俯いた。
──雛が見つかったのは喜ばしい事だ。
けれども、
「……終わりですね」
この心地良い時間も──
「シルヴィー?」
「…なんでもありません」
「……うん、そうけぇ」
サルゴンは深緑の瞳を一瞬揺らすと、眉を下げつつ目を伏せた。
暫し二人は無言になったが、雛とゴンがお互いに鳴いて騒がしく、静寂にはならない。
「ベェエエ」
「ピ!ピピッ!」
「…ふふっ、すっかり仲良しさんになったべな」
固くした表情を和らげ、サルゴンは二匹の交流に視線を移し微笑んだ。
雛は体をペタッと平たくし、最大限にゴンの頭に身をくっつけて嬉しそうに鳴く。ゴンも優しい表情でそれを受け止めている。
「シルヴィー」
そんな二匹の楽しげな鳴き声に被るように名前を呼ばれ、シルヴィーは顔を上げた。
サルゴンが森の向こうを見つめている。
「帰っけな」
そう短く言い、振り返ったサルゴンの表情は、沈み行く夕日が眩しくてよく見えなかった。