第二話 未体験の知識
海岸と牧場地はのんびり歩いて二十分の場所にお互い隣接している。潮を含んだ風が薄まり、若草の香りが濃くなってきた。草を食んでいる羊たちの元へ、ゆっくりと牧羊犬を連れた農民が歩み寄っている。
サルゴンとシルヴィーはそんな道を並んで歩いていた。
「…結局、雛はどこに行ってしまったのでしょうかね…」
海岸から未だサルゴンの服の端を鷲掴みしているシルヴィーは眉を顰めた。
──もしかしたら、自分がここに来た時のように森の狼などに襲われてしまったのではないだろうか…?
いや、通りがかりの野蛮人…特に武の国の者は肉ばかりたべているらしいから、雛は連れ去られて食べられてしまったのかもしれない。
「こんなに探して見つからないなんて…もしかしたら…」
「きっと、雛も冒険したかったんべよ」
シルヴィーは顔を上げ、サルゴンの横顔を見た。
彼は目を細め、遠くの道を見つめたまま言葉を続ける。
「知らねことを知りたくて、どこまでもとーおくに、行っちまったのかもなぁ。んで、帰ってくっころには立派に成長してっぺ」
サルゴンはニコリと笑った。
──道の向こうの空はうっすらとオレンジ色に染まり、雲の影で鳥たちが鳴いている。
群れの仲間や家族の巣へ戻ろうと、鳴き合っている。
「…それは、寂しいですね」
シルヴィーは空を飛ぶ鳥の影を見上げながら呟いた。
雛は一人。最初はそれが当たり前で、それで十分だった。けれども、
「雛はいつか気付きます。…人の隣が、人のぬくもりが、どれだけ心地良いか…」
シルヴィーは急に胸が苦しくなった。
──お母様達は、私がいなくなって心配しているだろうか?
『ケフラー次期王位継承者の許嫁としてのシルヴィー』ではなく『一人娘のシルヴィー』がいなくなって…
「私──」
シルヴィーは勢いよく顔を上げた。
と、同時に頬に生暖かい吐息がかけられた。
「ンベェェ」
「キィァアアアアアッッ!!
シルヴィーの悲鳴は周囲の草木を揺らし、高速でサルゴンの後ろに隠れて、いきなり現れた目の前の巨体を指差した。
「近付くなら近付くと言いなさいっ!」
「ベェ」
悪気無く首を傾げつつ、懐っこい視線を向ける巨体の生き物…
「どした、ゴン?おめ牧場にいたはずけぇ、こんなとこまで来て」
サルゴンは驚きつつ目の前の牛、ゴンを撫でた。
それもそのはず、牛のゴンは最初に雛探しに訪れた牧場でのんびりくつろいでいたはずだ。
それが何故牧場から少し離れた牧草地帯を歩いているのか?むしろ飼われ管理されている身として自由に歩き回ってはいけない気がするのだが──
「ベェエエエ」
ゴンは一声鳴くと、ゆっくり踵を返し歩き始めた。少し離れると顔だけ振り向き、また鳴く。
──なるほど…
サルゴンは納得して頷いた。
「シルヴィー、行くっぺ。ゴンが着いてごいって言ってっけ」
「え…」
ニコリと笑い歩き出したサルゴンの背中にシルヴィーは訳も分からず叫んだ。
「やっぱり動物の言葉分かるんですかー?」
サルゴンとシルヴィーはそんな道を並んで歩いていた。
「…結局、雛はどこに行ってしまったのでしょうかね…」
海岸から未だサルゴンの服の端を鷲掴みしているシルヴィーは眉を顰めた。
──もしかしたら、自分がここに来た時のように森の狼などに襲われてしまったのではないだろうか…?
いや、通りがかりの野蛮人…特に武の国の者は肉ばかりたべているらしいから、雛は連れ去られて食べられてしまったのかもしれない。
「こんなに探して見つからないなんて…もしかしたら…」
「きっと、雛も冒険したかったんべよ」
シルヴィーは顔を上げ、サルゴンの横顔を見た。
彼は目を細め、遠くの道を見つめたまま言葉を続ける。
「知らねことを知りたくて、どこまでもとーおくに、行っちまったのかもなぁ。んで、帰ってくっころには立派に成長してっぺ」
サルゴンはニコリと笑った。
──道の向こうの空はうっすらとオレンジ色に染まり、雲の影で鳥たちが鳴いている。
群れの仲間や家族の巣へ戻ろうと、鳴き合っている。
「…それは、寂しいですね」
シルヴィーは空を飛ぶ鳥の影を見上げながら呟いた。
雛は一人。最初はそれが当たり前で、それで十分だった。けれども、
「雛はいつか気付きます。…人の隣が、人のぬくもりが、どれだけ心地良いか…」
シルヴィーは急に胸が苦しくなった。
──お母様達は、私がいなくなって心配しているだろうか?
『ケフラー次期王位継承者の許嫁としてのシルヴィー』ではなく『一人娘のシルヴィー』がいなくなって…
「私──」
シルヴィーは勢いよく顔を上げた。
と、同時に頬に生暖かい吐息がかけられた。
「ンベェェ」
「キィァアアアアアッッ!!
シルヴィーの悲鳴は周囲の草木を揺らし、高速でサルゴンの後ろに隠れて、いきなり現れた目の前の巨体を指差した。
「近付くなら近付くと言いなさいっ!」
「ベェ」
悪気無く首を傾げつつ、懐っこい視線を向ける巨体の生き物…
「どした、ゴン?おめ牧場にいたはずけぇ、こんなとこまで来て」
サルゴンは驚きつつ目の前の牛、ゴンを撫でた。
それもそのはず、牛のゴンは最初に雛探しに訪れた牧場でのんびりくつろいでいたはずだ。
それが何故牧場から少し離れた牧草地帯を歩いているのか?むしろ飼われ管理されている身として自由に歩き回ってはいけない気がするのだが──
「ベェエエエ」
ゴンは一声鳴くと、ゆっくり踵を返し歩き始めた。少し離れると顔だけ振り向き、また鳴く。
──なるほど…
サルゴンは納得して頷いた。
「シルヴィー、行くっぺ。ゴンが着いてごいって言ってっけ」
「え…」
ニコリと笑い歩き出したサルゴンの背中にシルヴィーは訳も分からず叫んだ。
「やっぱり動物の言葉分かるんですかー?」