第二話 未体験の知識

桃で少し休憩した二人は雛探しを再開した。
果樹園の隣には野菜畑が広がっている。畑ならば、隠れる場所も豊富だし雛がいる可能性が高い。

──しかし…

「葉の下も見てなー!ちっこいからどこにも入れるけぇな」
「葉の下、ね」
広大な畑は、端が見えないくらい果てなく野菜の葉で埋め尽くされている。もしかしたら地平線の向こうまで続いているのではないかと、シルヴィーは途方もない作業に苦笑してしまった。

「疲れたら休んでええよ。そこに井戸もあるでな」
「大丈夫です。さっきの桃が効いたようですよ」
シルヴィーはにっこりと微笑みながら額の汗を拭った。

こんなに心地良い汗は初めてだ。
太陽の光を浴び、暖かい風を頬に感じる。
さっきまで疎ましかった、澄んだ空気がとても心地良い。

「ここは私の知らない事で溢れています」

自分は知らない事に出会うことを恐れていた。
しかし、世界には、まだ自分の知らない素晴らしいことがたくさんある。
知りたい。知らない事を知りたい。

そう、

「頼もしいでなぁ。シルヴィーは」

彼のように──


「そだ、喉乾いてね?キュウリ食べっか?」
「キュウリ?」
キュウリと言えば、棒に蔦を巻き付けて育てるはず…だが、この畑にはそんな高さのモノは見当たらない。
シルヴィーが首を傾げていると、サルゴンはおもむろに隣の畑へ移動した。その畑は緑の草に加えて茶色の藁も敷き詰められている。少しその草を退けると、そこにはキュウリが沢山実っていた──のだが、色は所々黄緑で形もかなり悪い。
「……色も形も良くない…不良品ですか?」
「あはは、違うけぇ。地這いにすっとどうしても日に当たらねとこが出来っぺ。だからちっと色悪ぐて形も面白くなるでな」
「地這い栽培…確かカボチャなどが主流ではなかったですか?主な作物にきゅうりは書いていませんでしたが…」
「シルヴィーは物知りだでなぁ。そうそう、カボチャとかスイカとかが今みんなやってっけど、前はキュウリもこんな育て方…地這い作だったんだで」
「そうなんですか…でも、率直に言いますかけど…見た目が良くなくて食指が動きません」
「んだな。だから今の育て方が考えられたっぺや。立ちキュウリならまんべんなく日も当っし、虫も付きにくい…市場に出っのも今じゃほとんどがそれだや」
サルゴンは言い終わると、シルヴィーの顔を覗き込んできた。
澄んだ瞳に顔が熱くなってしまう。
「な…なんですか」
「いんや…シルヴィーは、オラの説明を楽しそうに聞ぐなぁ思って…」
そう言うサルゴンこそ、凄く楽しそうな表情をしている。
「思わずどうでもええ事も言いたぐなっぺや」
『いちいち説明ごめん』とはにかんだ様に、サルゴンは薄紫の髪を揺らした。

どうしたんだろう。少し前の自分ならこんな無駄な知識を聞こうとなかったのに…──

「っと、話し込んじまった。うーん、雛はここにもいねぇみたいだな。シルヴィー、もう少し先行くけぇ、だいじだか?」
「…はい!!」
歩き出すサルゴンの横に付き、顔を見上げた。

何故だろう。少し前の自分ならこんな田舎者なんて突き放していたのに…──

「この先は、農林場だっぺ。凄くデカイ木ぃがたくさんあっぺや」
「はい」

どうしてか、何故か

「楽しみです!!」

彼の隣に居たいと思ってしまった──
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