第二話 未体験の知識

「そうだ、ゴン。雛見なかっただか?一匹いなくなったけぇ、オラ達探してるだ」
「ベェエ…」
サルゴンは真剣にゴンに話しかけている。牛に人間の言葉が分かるはずないし、雛の場所を知ってたとしてもコチラに伝える方法もなかろうに。
まさか、サルゴンが動物の言葉を喋れる…わけでもないだろう。
「(無駄な事をしてる間に先に進んだ方が良いと思うんですが…)」
シルヴィーは本日何度目かの溜め息を吐いた。
家畜の基本知識も皆無の農国民は『言葉が通じない』という当たり前な事も分かっていないのだろうか?と少し呆れてしまう。

「ンベェエエ」
「あっち……ああ、農地の方だか。ありがとう。行ってみるべ」
ゴンはゆっくりと丘の向こう──柵の外に顔を向けると、そちらを指し示すように頷いて鳴いた。

シルヴィーは困惑した。
今までのは偶然か、サルゴンが一方的に話しているだけかと思っていたが、今のは明らかに意思の疎通が出来ていた。
牛がサルゴンの顔と目を見て、言葉を受け取り、相槌を打つ──これをコミュニケーションと言わず何と説明できるのか?

「サルゴン様!」
「へ?どうしたっぺ?あ、だいじだで、農地はすぐそこに…」
「サルゴン様は…動物の言葉が分かるのですか?」
本人自身の力なのかもしれないが、もしかしたら農国イエソド王族独自の特殊能力なのかもしれない。
例えば、創国ティファレトの王族は全員何かしらの芸術の絶対的才能を持って生まれてくるらしい。それと同じように、農国王族にも"ソレ"がある可能性がある。
「動物の言葉を理解出来るなんて…今まで定論を覆すかも」
「動物の…言葉?いや、分かんねぇよ?」
「……え」
「分かってたら狼たちとも仲良く出来んだけどなぁ」
能天気に笑うサルゴンの言葉にシルヴィーは拍子抜けした。
──確かに言葉が分かっていたならば、森で出会った狼と睨み合いせずとも良かったはずだ。
非日常的な場所にいるせいか非現実的な考えに至ってしまったと、シルヴィーは少々自身を恥じてため息を吐いた。
しかし、そのため息が吐き終わる前にサルゴンは朗らかに微笑んで言葉を続けた。
「言葉は分かんねけども、目を見れば、大体言いたい事は分かるべな」
「…目?」
シルヴィーが首を傾げるのと同時にゴンがズズイッと近寄った。
「きゃあ!!」
「ああ、いかんよゴン」
サルゴンが声をかけるとゴンは素直に後退り、シルヴィーはその動作に再び目を丸めた。
「ゴン…いんや、動物は思ってるよりもずっと賢いんだっぺよ。簡単な言葉なら理解もするし、感情もあるけぇ」
言うと、ゴンは頭をサルゴンに擦り付けてきた。その瞳はとても優しく、暖かい光を灯している。

シルヴィーはその様子を見て、何故か頬が熱くなった。

「…農地、でしたよね。そうと分かったら行きましょう」
熱を振り払うように、シルヴィーは丘の向こうへと足を向けた。

感情に飲まれ、流されてはいけない。
自分には、家の、ヴィーナス領の、国の為の──…


シルヴィーの金髪を冷たい風が撫ぜた。
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