第二話 未体験の知識

「おぉ~い!うちとりぃ!!」
ふと、シルヴィーの視線の先にこちらへ走ってくる男が映った。かなり慌てた様子で、顔に余裕がない。
「うううぅっうちとり!」
「あれぇ、ダルトンでねか。どうしたけぇ、落ち着いて話しぃ」
息が乱れる男の背を優しく撫で、サルゴンは首を傾げた。

その隣のシルヴィーはぼんやりと二人を見つめつつ『"うちとり"ってサルゴン様の事?』と言葉の意味について考えていた。
平和で長閑な農国である。深刻な事件が起こったわけではないだろう。それに他国民の自分が横入る理由はない。
シルヴィーは少し深呼吸し、息を整える男の言葉の続きを待った。

「えらいこっちゃで!」
男は息が整うと同時に目を見開き、サルゴンに掴みかかった。
「今日は俺が鳥舎当番でな!朝入口開けて、外にみんな出したんでさ!で、掃除して、卵回収して、で、一旦鳥の数数えたんよ!そしたら、何度数えても一匹足りんくて…!ちっこい雛なんけど…このへん探してもいなくて…!ど、どうすればいいか…」
「そりゃ…えらいことだべ」
男はフラリと後退りして蹲り、泣き始めた。サルゴンは眉を下げ、男の体を擦り声をかけている。
そんな様子にシルヴィーはやや驚きつつ、サルゴンに疑問を投げかけた。

「…雛一匹位で大袈裟ではないですか?いえ、確かに資産の一つですけど、見た所、雛は溢れる位いますし…」
「シルヴィーちゃ…じゃなくて、シルヴィー」
少々困惑顔のシルヴィーの問いに、サルゴンは困ったように眉を顰めた。
「小さい雛だって、命があるだで。だから、人と同じ家族なんだっぺよ」
"家族"──そう聞いて、シルヴィーはサルゴンに改めて視線を移すと、彼もシルヴィーを見つめていた。
「大切な家族がいなくなって、大袈裟にならん親はいねぇっぺよ…な、ダルトン」
サルゴンは、蹲る男の肩を叩いた。
「だいじ。オラ達が雛を探すけぇ、顔上げっぺや」

サルゴンの優しい声は男の涙を止めた。
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