第二話 未体験の知識



「ごめんな~、デューンとの話に夢中さなってた。それに…ばぁちゃん達の話、他の国の人からは聞き取り難いべ?」
「…はぁ」
青年は苦笑を浮かべつつ、ゆっくりと畦道を進んだ。
「変な言語だとは自覚しているのですね」
「んだ。ここだど当たり前に使ってけど、外に出っと他の四人とちげぇし…」

"他の四人"?
シルヴィーはそこに反応した。

それに、先程から気にはなっていたがこの青年、少し歩くと農作業する人々に手を振られ挨拶を頻繁にされている。農国民は皆人懐こい気質…と言っても度が過ぎている気がする。
"外に出ると他の四人と違う"という言葉から、他国にも顔見知りがいると思われるし、一体何者なのか疑問に思えてきた。
少々嫌な予感を感じ、シルヴィーは青年を見上げた。
「その、他の四人とはなん…」
「あっ、いた。お~い、おっ母!」

シルヴィーの疑問を聞く前に、青年は木陰の傍に立つ女性に手を振った。

──母?

振り返る女性に少々驚いてしまった。
風になびく薄紫の髪、木漏れ日の木々と同じ色の深緑の瞳。色白の肌に映える紅色の唇──まるで物語上の姫のように美しすぎるのだ。
駆け寄る青年とカラーリングは一緒だが、明らかに顔も似てないし、服も作業着ではなく、綺麗な東方系の物を着ている。…麦わら帽子は被っているが。

「あら、おかえりなさいサルゴン。今ご飯を持ってきた所ですよ」

さらに標準語を喋っている!!
あまりに驚愕し固まってしまったシルヴィーの元へ来ると、女性はニッコリと微笑んだ。
「ごきげんよう、こんにちは」
「へっ、あ、はい。こんにちは…です」
女性は優雅に会釈した。シルヴィーも慌てて頭を下げる。
顔も美しければ所作も美しい。田舎な農国には似つかわ過ぎる。
「私はサルゴンの母、スイセンと申します。以後よしなに願いますね」
「は、はい!私は知の国ヴィーナス領主の娘シルヴィーと申します。よろしくお願いします」
シルヴィーは再びペコリと頭を下げると、何か脳裏に引っ掛かった。
否、今までも、そして先程も違和感を感じ、答えもすでに薄々分かっていたけれど、気付かないふりをしていた…ような気のせいのような、信じたくなかったような、何とも言えない歯切れの悪い引っかかり…──シルヴィーはその"答え"を恐る恐る口にした。

「……あの」
「如何しました?」
「今、ええと…こちらの青年を…サルゴン…とか呼びませんでした…?」
「あっ!!ははは、ごめんなぁ。オラ自己紹介してなかったっぺ」
「あらまあ、サルゴンたら。ふふふ、ラルゴ様にそっくり」
「フェルナンドの嫁っ娘って聞いだら忘れたべよ。改めて、オラはサルゴン。よろしくなぁ、シルヴィーちゃん」
「!!?」

シルヴィーは驚き過ぎて頭に血が上り、眩暈息切れ動悸その他諸々を感じだ。

次代の王妃としての基本知識…否、全国民が最低限知っている常識がある。
五人の国王と次期王位継承者もとい王子の名前だ。
名前だけではない、王族の姿や特徴は式典などに出た際に見る事が出るので、他国の民だとしても把握しているのが当然だ。知らないのは生まれた時から閉鎖された塔等に閉じ込められている者だけだろう。そんな者はいないだろうが。
だがしかし、実際一部の王族は式典時に出なかったり…創国と工国の王妃はこれに当たる…そして農国王族は他の王族に隠れて目立たないようで印象が薄い。だから…姿を把握できていなかった。

シルヴィーは声を振り絞り、叫んだ。

「農国イエソド次期王位継承者、王子サルゴン!!?」
「王子って程もねげど」
青年…農国イエソドの王子サルゴンは困ったように笑った。
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