第二話 未体験の知識
「……んん」
地面が冷たく、草の匂いが苦く臭い。
「…助かっ…た?」
衝撃で気絶していたらしいシルヴィーが意識を取り戻すと、土の上に倒れていた。起き上がり、見回すと今まで乗っていた馬車は横倒しになり、馬は…
「いない…」
連結金具の安全装置が働き、分離したのだろう。手遅れ気味だったが…
分離した勢いでは車体が木にぶつかり、自分はその時に投げ出された…という事か。
シルヴィーは状況を判断すると、どこも怪我をしていない事を確認してから立ち上がった。近くに落ちていた百科辞典も拾い、改めて辺りを見回す。
──やはり、物語のように奇跡は起きなかった。
心の片隅で、誰かが助けてくれるのでは…と期待したが、そんな夢見事は現実ではありえなかった。
それに、今のいる場所も奇跡が起きそうな雰囲気はない。
「…ここは随分と暗くて、ジメジメした森…ですね」
どんなに耳を澄ましても動物や鳥の鳴き声が聞こえてこない。それどころか生き物の気配さえ感じられず、生ぬるい風と枯れ葉が擦れる音だけだ。
シルヴィーは仕方なく近くの木の根元へ移動し、腰を下ろした。
「(遭難時、焦って動き回る事は得策ではない…逆に森の奥へ迷い込んでしまう可能性が高いから。大丈夫、ここで待っていればすぐに救助に来てくれる…なにせ、馬車が暴走したのをお父様もお母様も見ていたわけですし…)」
馬車が暴走した際、向かった方向を順に探してくれれば、すぐにこの場所まで辿り着けるはずだ。それに、姿のない馬だって帰巣本能でケフラー城へ戻っているかもしれない。だから──
「──沢山の足音!!」
その時シルヴィーの耳に沢山の足音が聞こえてきた。距離的に遠くからだと察せられるくらい小さいが、空耳ではない。
「誰か!私はここです!!」
シルヴィーは立ち上がり、腕を振りつつ叫んだ。
正直言うと、心細かった。馬車の暴走、衝撃。それだけでも泣きたくなるのに、森は暗くて静かで、何が出てもおかしくない。早く誰かと合流したい。
──そう思ったのだが
「ガァッ!」
「…え?」
安心しきったシルヴィーの瞳に映ったのは、走り寄ってくるオオカミの群れだった。
「きゃああ!!」
シルヴィーが恐怖で尻もちをついたと同時に、あっと言う間に周りを黒いオオカミが囲んでしまった。
オオカミは歯を剝き出しにして唸ってはいるが、少し距離をとり襲い掛かってくる様子はない。どうやらシルヴィーの一挙一動を観察しているようである。
"オオカミは滅多に人を食べない"
動物図鑑にはそう記されていた。そもそもオオカミは警戒心が強く、臆病だ。
「(な、なら、私を襲うわけないですね…!)」
「ガァッ!」
「ひゃぁああ!!」
一際大きく鳴いたオオカミの迫力にシルヴィーは身を縮ませた。重心を前身に置き、今にも飛び掛かってきそうだ。
──ありえない。
シルヴィーは首を振った。
「(動物辞典には人側が危害を加えなければ襲われないって書いてあった…!だってオオカミは警戒心が強くて、臆病で…)」
シルヴィーは手に持つ百科辞典を抱き締めた。
…現実とは、いつも理不尽で厳しくて
「ガァアアアア!!」
「っ…!」
──突然だ。
地面が冷たく、草の匂いが苦く臭い。
「…助かっ…た?」
衝撃で気絶していたらしいシルヴィーが意識を取り戻すと、土の上に倒れていた。起き上がり、見回すと今まで乗っていた馬車は横倒しになり、馬は…
「いない…」
連結金具の安全装置が働き、分離したのだろう。手遅れ気味だったが…
分離した勢いでは車体が木にぶつかり、自分はその時に投げ出された…という事か。
シルヴィーは状況を判断すると、どこも怪我をしていない事を確認してから立ち上がった。近くに落ちていた百科辞典も拾い、改めて辺りを見回す。
──やはり、物語のように奇跡は起きなかった。
心の片隅で、誰かが助けてくれるのでは…と期待したが、そんな夢見事は現実ではありえなかった。
それに、今のいる場所も奇跡が起きそうな雰囲気はない。
「…ここは随分と暗くて、ジメジメした森…ですね」
どんなに耳を澄ましても動物や鳥の鳴き声が聞こえてこない。それどころか生き物の気配さえ感じられず、生ぬるい風と枯れ葉が擦れる音だけだ。
シルヴィーは仕方なく近くの木の根元へ移動し、腰を下ろした。
「(遭難時、焦って動き回る事は得策ではない…逆に森の奥へ迷い込んでしまう可能性が高いから。大丈夫、ここで待っていればすぐに救助に来てくれる…なにせ、馬車が暴走したのをお父様もお母様も見ていたわけですし…)」
馬車が暴走した際、向かった方向を順に探してくれれば、すぐにこの場所まで辿り着けるはずだ。それに、姿のない馬だって帰巣本能でケフラー城へ戻っているかもしれない。だから──
「──沢山の足音!!」
その時シルヴィーの耳に沢山の足音が聞こえてきた。距離的に遠くからだと察せられるくらい小さいが、空耳ではない。
「誰か!私はここです!!」
シルヴィーは立ち上がり、腕を振りつつ叫んだ。
正直言うと、心細かった。馬車の暴走、衝撃。それだけでも泣きたくなるのに、森は暗くて静かで、何が出てもおかしくない。早く誰かと合流したい。
──そう思ったのだが
「ガァッ!」
「…え?」
安心しきったシルヴィーの瞳に映ったのは、走り寄ってくるオオカミの群れだった。
「きゃああ!!」
シルヴィーが恐怖で尻もちをついたと同時に、あっと言う間に周りを黒いオオカミが囲んでしまった。
オオカミは歯を剝き出しにして唸ってはいるが、少し距離をとり襲い掛かってくる様子はない。どうやらシルヴィーの一挙一動を観察しているようである。
"オオカミは滅多に人を食べない"
動物図鑑にはそう記されていた。そもそもオオカミは警戒心が強く、臆病だ。
「(な、なら、私を襲うわけないですね…!)」
「ガァッ!」
「ひゃぁああ!!」
一際大きく鳴いたオオカミの迫力にシルヴィーは身を縮ませた。重心を前身に置き、今にも飛び掛かってきそうだ。
──ありえない。
シルヴィーは首を振った。
「(動物辞典には人側が危害を加えなければ襲われないって書いてあった…!だってオオカミは警戒心が強くて、臆病で…)」
シルヴィーは手に持つ百科辞典を抱き締めた。
…現実とは、いつも理不尽で厳しくて
「ガァアアアア!!」
「っ…!」
──突然だ。