第二話 未体験の知識
五つ国に新たな法令が発表されて一週間。
知の国ケフラーの城門前は騒がしい事となっていた。
「ここは通れません!お引き取り下さい!」
「え~!フェルナンド様に会わせてよ~!」
「私がフェルナンド様と結婚するんだから!」
「一目だけでも…!」
「フェルナンド様っー!」
「アントニー守護兵長!!もう駄目です!抑えきれ…ワッー!」
……総勢30人の女の子達が城門の兵士を薙ぎ倒している…
知の国王子フェルナンドはその深い知識と、秀麗な容姿で女の子達からの人気は高い。
この一週間、毎日こんな感じだ。
城の中庭で読書をしていたフェルナンドは外の喧騒に溜め息を吐いた。
「全く…姦しい娘達だ。女性は嫋やかに──」
「フェルナンド!!」
紅茶のカップを置いたと同時に、何者かが城壁の上から中庭へ飛び降りてきた。
──…城壁は何十mもあるのだが…
フェルナンドはズカズカと近付く人物の気配を感じ、本を閉じた。
「俺と結婚しろ!」
「……帰れ」
体勢を声の主に向けると、フェルナンドは再び深い溜め息を吐いた。
城壁を飛び降りてきたのは背の高い娘だった。無造作に高く束ねられた臙脂色の髪に漆黒の瞳。服装は武の国特有の動きやすい鎧を装備し、腰にも彼女が愛用しているであろう武器が提げられている。
どこからどう見ても武国ホドの女戦士だ。
本来、真逆の性質を持つ武の者が知の王子に求婚するのは考えられないのだが、この娘は一週間前から毎日毎日毎日フェルナンドの元に現れて(飛び出して)告白している。
娘は再び叫んだ。
「俺を嫁にしろ!」
「断る」
フェルナンドは、間髪入れずに娘を言葉で切り捨てた。これも一週間続けている。
「武の者は騒がしくて好かん。以上。帰れ」
追い打ちをかけるように、言い放ち、その場から離れようとすると娘はフェルナンドの袖を掴み、止めた。
「帰らねぇぞ!約束を忘れたのか?!俺の事すっ、好きにさせてみせるから、まずは結婚しろってんだ!」
「………」
娘は言葉の強さに反して、顔を真っ赤にさせて俯いた。
──城門に押し掛ける娘達はほとんどが王族としての地位目当てであろう。
国王の身内になれば、発言力も上がり国を動かす事も可能になる。その地位欲しさに娘を差し出そうとする家臣も少なくない。
しかし、目の前の俯く娘は…
「……ユラ、と言ったか」
「!!…お、俺の名前覚えててくれたのか!?」
「貴様が初日に名乗っていたではないか」
フェルナンドは臙脂色の娘…ユラを薄青の瞳で見つめた。
端正な顔立ちに切れ長の目元、その視線にユラの顔は益々赤くなってしまう。
2人は見つめ合い、しばし沈黙が流れた。
──端から見れば、良い雰囲気だ。
「ユラ」
「ななな、なんだよ!?」
「私には許嫁がいる」
「…は?」
「知国の信用ある血筋の思慮深く知識豊富な女性だ。貴様とは正反対だな」
ユラの呆気に取られる様子を無視して、フェルナンドは切味の良い言葉を続けた。
「法令には『複数の王子が同じ国の娘を妻にしてはならない』とある…今のところ、工国の娘しか選ばれていない。よって、私が知の国の娘と婚姻するのは間違っていない…と言うわけだ」
フェルナンドは袖からユラの手を離した。
「以上。貴様は我が妻にはなれん。立ち去れ」
睨みつけた薄青の瞳を、前方に移しフェルナンドは中庭を立ち去った。
その背中を唖然と立ち尽くして見送ったユラはしばらく放心し、最後はふらついたかと思うとガクンと膝を付いてしまった。
「う…」
俯き、体を震わせる。失恋してしまったのだ。どんなに男勝りなユラでも泣いてしまうのは当然だ。
「うるさい!インテリ美形!」
泣いていなかった。
それどころか元気に立ち上がり、叫び続ける。
「諦めてたまるか、俺は…ずっと…ずっとフェルナンドを…!」
ユラは言葉同様に、勢いよく結わえた髪に付けていたハンカチを外し、握り締めた。
ハンカチを見つめる彼女の瞳は優しく、しかし強い意思が感じられる。
「……いいなずけがいるなら、そいつをブッ飛ばせば良い話だ…!」
ユラは空に向かって吠えた。
「フェルナンドと結婚するのは俺だ!バカヤロー!」
その遠吠えは知国の城の隅々まで響き、廊下を歩くフェルナンドは溜息を吐いてしまった。
知の国ケフラーの城門前は騒がしい事となっていた。
「ここは通れません!お引き取り下さい!」
「え~!フェルナンド様に会わせてよ~!」
「私がフェルナンド様と結婚するんだから!」
「一目だけでも…!」
「フェルナンド様っー!」
「アントニー守護兵長!!もう駄目です!抑えきれ…ワッー!」
……総勢30人の女の子達が城門の兵士を薙ぎ倒している…
知の国王子フェルナンドはその深い知識と、秀麗な容姿で女の子達からの人気は高い。
この一週間、毎日こんな感じだ。
城の中庭で読書をしていたフェルナンドは外の喧騒に溜め息を吐いた。
「全く…姦しい娘達だ。女性は嫋やかに──」
「フェルナンド!!」
紅茶のカップを置いたと同時に、何者かが城壁の上から中庭へ飛び降りてきた。
──…城壁は何十mもあるのだが…
フェルナンドはズカズカと近付く人物の気配を感じ、本を閉じた。
「俺と結婚しろ!」
「……帰れ」
体勢を声の主に向けると、フェルナンドは再び深い溜め息を吐いた。
城壁を飛び降りてきたのは背の高い娘だった。無造作に高く束ねられた臙脂色の髪に漆黒の瞳。服装は武の国特有の動きやすい鎧を装備し、腰にも彼女が愛用しているであろう武器が提げられている。
どこからどう見ても武国ホドの女戦士だ。
本来、真逆の性質を持つ武の者が知の王子に求婚するのは考えられないのだが、この娘は一週間前から毎日毎日毎日フェルナンドの元に現れて(飛び出して)告白している。
娘は再び叫んだ。
「俺を嫁にしろ!」
「断る」
フェルナンドは、間髪入れずに娘を言葉で切り捨てた。これも一週間続けている。
「武の者は騒がしくて好かん。以上。帰れ」
追い打ちをかけるように、言い放ち、その場から離れようとすると娘はフェルナンドの袖を掴み、止めた。
「帰らねぇぞ!約束を忘れたのか?!俺の事すっ、好きにさせてみせるから、まずは結婚しろってんだ!」
「………」
娘は言葉の強さに反して、顔を真っ赤にさせて俯いた。
──城門に押し掛ける娘達はほとんどが王族としての地位目当てであろう。
国王の身内になれば、発言力も上がり国を動かす事も可能になる。その地位欲しさに娘を差し出そうとする家臣も少なくない。
しかし、目の前の俯く娘は…
「……ユラ、と言ったか」
「!!…お、俺の名前覚えててくれたのか!?」
「貴様が初日に名乗っていたではないか」
フェルナンドは臙脂色の娘…ユラを薄青の瞳で見つめた。
端正な顔立ちに切れ長の目元、その視線にユラの顔は益々赤くなってしまう。
2人は見つめ合い、しばし沈黙が流れた。
──端から見れば、良い雰囲気だ。
「ユラ」
「ななな、なんだよ!?」
「私には許嫁がいる」
「…は?」
「知国の信用ある血筋の思慮深く知識豊富な女性だ。貴様とは正反対だな」
ユラの呆気に取られる様子を無視して、フェルナンドは切味の良い言葉を続けた。
「法令には『複数の王子が同じ国の娘を妻にしてはならない』とある…今のところ、工国の娘しか選ばれていない。よって、私が知の国の娘と婚姻するのは間違っていない…と言うわけだ」
フェルナンドは袖からユラの手を離した。
「以上。貴様は我が妻にはなれん。立ち去れ」
睨みつけた薄青の瞳を、前方に移しフェルナンドは中庭を立ち去った。
その背中を唖然と立ち尽くして見送ったユラはしばらく放心し、最後はふらついたかと思うとガクンと膝を付いてしまった。
「う…」
俯き、体を震わせる。失恋してしまったのだ。どんなに男勝りなユラでも泣いてしまうのは当然だ。
「うるさい!インテリ美形!」
泣いていなかった。
それどころか元気に立ち上がり、叫び続ける。
「諦めてたまるか、俺は…ずっと…ずっとフェルナンドを…!」
ユラは言葉同様に、勢いよく結わえた髪に付けていたハンカチを外し、握り締めた。
ハンカチを見つめる彼女の瞳は優しく、しかし強い意思が感じられる。
「……いいなずけがいるなら、そいつをブッ飛ばせば良い話だ…!」
ユラは空に向かって吠えた。
「フェルナンドと結婚するのは俺だ!バカヤロー!」
その遠吠えは知国の城の隅々まで響き、廊下を歩くフェルナンドは溜息を吐いてしまった。