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第一話 始まりの一織り

「何しに来たんだ、ザード王子殿?ここは……お前が来るべき所じゃないんだよ!邪魔だ!帰れ!」
ヒサギの言う通りだ。ザードは本来この処刑には関係のない人物である。
キルティー領の火事も、布の偽造も、『布姫』の長年の監禁も──全て武国の王子であるザードに関わりのない件だ。にもかかわらず、何故剣を構えて邪魔をするのか──ザードは怒鳴った。
「黙れ、垂れ目野郎!勝手に『アテナ』を連れて行きやがって…」
「それはこちらのセリフだ脳筋!!」
ヒサギは剣にも怯まず、ザードを指差した。
「お前は『布姫』を『ヒルデ』と重ね合わせてるんだろ?重ね合わせてるから、殺されたくない。そうだろう?」
一瞬、ザードの肩は揺れた。ヒサギはそれを見逃さず、目を細める。
「勘違いするなよ。コイツは『布姫』だ。『ヒルデ』とは赤の他人…お前とは無関係の女なんだよ!」
ザードの顔が険しくなる。正論を言われて言い返す言葉もないように剣もブレる。
ヒサギの言葉は続いた。
「…なぁ思い出せ…『ヒルデ』は酷い女だったはずだ。無理矢理訓練させるわ、お前の肋骨は折るわ、口答えはするわ…終いには勝手に死んでさ。お前に"傷"を背負わせた。他にも色々と思い当たるだろ?ザード…いつまでも過去にこだわって、過去の事引き摺って本当……馬鹿じゃねぇの?」
「──!」
ヒサギの最後の言葉にザードが目を見開き、剣を握り締めた瞬間、

「もう止めて下さい!」

その場に声が響いた。
民衆、その場にいた全ての人々が声の主を見上げた。
「もう…止めてください」
澄んだ声を震わし、大粒の涙を流し『布姫』は叫び続けた。
「ザード様は何も悪くありません…!ヒルデさんも悪くないんです……二人の間に入ろうとした私が悪いんです…私が」

全ての始まりは、

「私が…ザード様と出会ってしまったから…」

あの日、あの時、あの場所でもし出会ってなければ、ザードも家族もヒサギも巻き込んでしまった全ての人々もそして──
「ヒルデさんもこんなに苦しまないで、済んだのに…」
ヒルデと似てたから、彼女の代わりになろうとした。でも、それはザードとヒルデ二人の想いに割り込んで、壊そうとしたのと同じ。
命を賭けて愛し、守ったザードへの想い──それを踏みにじっていた。

「…ザード様…私は、私です…他の誰でもありません…」
どこからか飛んできた花びらが空を舞っている。もう二度と二人で行くことは出来ない、あの花畑を思い出させる。
ザードの傷に触れた、あの日を思い出させる──

「だから…」

触れてはいけなかった。知ってはいけなかった。そうすれば、

「もう…忘れてください…『布姫』の事は…」

こんなにザードの事が愛しくならなかったのに──
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