第一話 始まりの一織り
「こんばんは、『布姫』」
青年は窓の縁に座り、水色の髪を指で弄びながら灰色の瞳を細めて笑っている。
武国の城には大勢の兵士が常駐しているが、目の前の青年は見た事がない。よく見てみれば、服装も武国の温暖な気候とは不釣り合いに着込んでいる。
明らかな侵入者に、アテナは立ち上がって身を小さくした。
「あ、貴方は…」
「守護と武力を司る国の名が聞いて呆れるな。俺でも簡単に侵入出来るんだから」
青年は腕に取り付けられたアクセサリー…否、よく見るとフック付きのワイヤーを引き、アテナに見せた。恐らく、そのフック付きワイヤーを窓にひっかけて部屋に侵入したのだろう。
武国の侵入者はほぼ確実に王族暗殺を目的にやって来る。なので侵入者はアテナの事は無視してレオやザードの元へ一直線に向かうのだが──青年はアテナの部屋にやって来た。という事は、狙いはアテナだ。
アテナはますます、怖くなり震えた。
「だ、誰だか分かりませんが出ていって下さい!私は、ただの雑用係です!だから」
「誰だか分かりません?ふ~ん」
アテナの言葉に含み笑いをしたかと思うと、青年は急に目線を鋭く光らせた。
「キルティー領の塔に監禁されてて、世間知らずだってのは…本当の事みたいだな、『布姫』」
「──えっ」
キルティー領の塔に監禁されていた『布姫』──長年父や領運営関係者たちが隠し続けて来た"罪"。何故その"罪"を目の前の青年は知っているのか?
アテナの脳裏に突然、先日ザードに言われた言葉が過った。
『お前の父親、義母と姉妹、他の連中は工国の城へ連れて行かれた。色々やって来た事を吐かせるんだと』
「俺が誰だか分からずに脅えてるのか?まあ、仕方ないから教えてやるよ。俺はヒサギ。工の国コクマーの次期王位継承者──ま、早く言えばザードと同じ、王子だな」
──ヒサギ王子…?!
アテナが驚愕の表情を浮かべると、ヒサギは鼻で笑った。
五国の民は自分が戸籍を所有する国の王族には服従する義務がある。そして、自分の国の王子の名前が"ヒサギ"である事も、塔に監禁され一般常識に疎いアテナだって、知っている。
「すみません…あの…私…」
「平民が王族と話す時には頭を垂れるべきだな。常識知らずの布織り機が」
「……はい」
アテナは少し抵抗を感じつつも、床に膝を付き頭を下げた。
「ヒサギ様…何か御用…」
「あははは!本当に下げた!バーカ!」
ヒサギはケラケラと笑いつつ、アテナに寄ると見下げるように言った。
「言ったろ?お前は平民以下の布織り機なんだから、そんな事しても王族とは話せないの。分かったか『布姫』ちゃん」
「……あ」
言葉が出ずに、涙が溢れた。
そうだ、その通りなのだ。そもそも自分は"機織り機"。存在の価値が他よりも劣っているのだ。そんな道具でしかない自分が頑張っても頑張っても認めて貰えないのは当たり前。
"無い"ものにどれだけ足しても、そこには何も無いのだ。
自覚してしまったアテナは、頭を下げたまま泣き崩れた。
「…はぁっ」
ヒサギはその様子に溜め息を吐いた。
「……アイツ、何してんだか」
青年は窓の縁に座り、水色の髪を指で弄びながら灰色の瞳を細めて笑っている。
武国の城には大勢の兵士が常駐しているが、目の前の青年は見た事がない。よく見てみれば、服装も武国の温暖な気候とは不釣り合いに着込んでいる。
明らかな侵入者に、アテナは立ち上がって身を小さくした。
「あ、貴方は…」
「守護と武力を司る国の名が聞いて呆れるな。俺でも簡単に侵入出来るんだから」
青年は腕に取り付けられたアクセサリー…否、よく見るとフック付きのワイヤーを引き、アテナに見せた。恐らく、そのフック付きワイヤーを窓にひっかけて部屋に侵入したのだろう。
武国の侵入者はほぼ確実に王族暗殺を目的にやって来る。なので侵入者はアテナの事は無視してレオやザードの元へ一直線に向かうのだが──青年はアテナの部屋にやって来た。という事は、狙いはアテナだ。
アテナはますます、怖くなり震えた。
「だ、誰だか分かりませんが出ていって下さい!私は、ただの雑用係です!だから」
「誰だか分かりません?ふ~ん」
アテナの言葉に含み笑いをしたかと思うと、青年は急に目線を鋭く光らせた。
「キルティー領の塔に監禁されてて、世間知らずだってのは…本当の事みたいだな、『布姫』」
「──えっ」
キルティー領の塔に監禁されていた『布姫』──長年父や領運営関係者たちが隠し続けて来た"罪"。何故その"罪"を目の前の青年は知っているのか?
アテナの脳裏に突然、先日ザードに言われた言葉が過った。
『お前の父親、義母と姉妹、他の連中は工国の城へ連れて行かれた。色々やって来た事を吐かせるんだと』
「俺が誰だか分からずに脅えてるのか?まあ、仕方ないから教えてやるよ。俺はヒサギ。工の国コクマーの次期王位継承者──ま、早く言えばザードと同じ、王子だな」
──ヒサギ王子…?!
アテナが驚愕の表情を浮かべると、ヒサギは鼻で笑った。
五国の民は自分が戸籍を所有する国の王族には服従する義務がある。そして、自分の国の王子の名前が"ヒサギ"である事も、塔に監禁され一般常識に疎いアテナだって、知っている。
「すみません…あの…私…」
「平民が王族と話す時には頭を垂れるべきだな。常識知らずの布織り機が」
「……はい」
アテナは少し抵抗を感じつつも、床に膝を付き頭を下げた。
「ヒサギ様…何か御用…」
「あははは!本当に下げた!バーカ!」
ヒサギはケラケラと笑いつつ、アテナに寄ると見下げるように言った。
「言ったろ?お前は平民以下の布織り機なんだから、そんな事しても王族とは話せないの。分かったか『布姫』ちゃん」
「……あ」
言葉が出ずに、涙が溢れた。
そうだ、その通りなのだ。そもそも自分は"機織り機"。存在の価値が他よりも劣っているのだ。そんな道具でしかない自分が頑張っても頑張っても認めて貰えないのは当たり前。
"無い"ものにどれだけ足しても、そこには何も無いのだ。
自覚してしまったアテナは、頭を下げたまま泣き崩れた。
「…はぁっ」
ヒサギはその様子に溜め息を吐いた。
「……アイツ、何してんだか」