第一話 始まりの一織り
自室の扉を閉めると、もう平静を装う事は出来なかった。ドアノブにかけられたままの手は震えが止まらない。
大丈夫──
自分にそう何度言い聞かせても、震えと共に、
「ふっ…っぅ…」
涙は止まらなかった。
止めようとしても言い表せない感情が溢れ、口を押えても嗚咽が漏れてしまう。
「(私ではヒルデさんになれない……ザード様の拠り所になる事も出来ない…)」
ドアに背を擦り、アテナはその場に座り込んだ。
ザードはヒルデに似ているからアテナを拐い、ヒルデの代わりとしてこの城に置き、ヒルデとして触れた。
では、
「ヒルデさんの代わりになれない私は…不要…という事、ですよね…」
父は生まれてすぐの自分を殺そうとした。それは存在が"邪魔"だったから。けれど、機織りという才能を見出され、物心ついた頃から布を織る為だけに生かされた。父は機織り機として"必要"としてくれた。だから、それでも幸せだった。
ザードによって武国へ連れて来られ、自分は機織り機ではなく"ヒルデの代わり"という"人間"として生きて良いのだと認めて貰えた。それが"自分"ではなく"身代わり"だったとしても、ザードの傍にいられて幸せだった。
なのに──価値を否定されてしまった自分は、不要になった自分は、どうしたら良いのだろうか。
──好きになってしまった相手に拒絶されてしまった自分は、火事と共に死んでしまえば良かったのかもしれない。
「ぶふっー!!」
「!?…ザー君どうし…」
ザー君の鳴き声で顔を上げたアテナの瞳に一人の青年が映っていた。
大丈夫──
自分にそう何度言い聞かせても、震えと共に、
「ふっ…っぅ…」
涙は止まらなかった。
止めようとしても言い表せない感情が溢れ、口を押えても嗚咽が漏れてしまう。
「(私ではヒルデさんになれない……ザード様の拠り所になる事も出来ない…)」
ドアに背を擦り、アテナはその場に座り込んだ。
ザードはヒルデに似ているからアテナを拐い、ヒルデの代わりとしてこの城に置き、ヒルデとして触れた。
では、
「ヒルデさんの代わりになれない私は…不要…という事、ですよね…」
父は生まれてすぐの自分を殺そうとした。それは存在が"邪魔"だったから。けれど、機織りという才能を見出され、物心ついた頃から布を織る為だけに生かされた。父は機織り機として"必要"としてくれた。だから、それでも幸せだった。
ザードによって武国へ連れて来られ、自分は機織り機ではなく"ヒルデの代わり"という"人間"として生きて良いのだと認めて貰えた。それが"自分"ではなく"身代わり"だったとしても、ザードの傍にいられて幸せだった。
なのに──価値を否定されてしまった自分は、不要になった自分は、どうしたら良いのだろうか。
──好きになってしまった相手に拒絶されてしまった自分は、火事と共に死んでしまえば良かったのかもしれない。
「ぶふっー!!」
「!?…ザー君どうし…」
ザー君の鳴き声で顔を上げたアテナの瞳に一人の青年が映っていた。