第一話 始まりの一織り

次の日からアテナの猛特訓は始まった。
効率よく雑用をこなすにはどうしたら良いのか一生懸命に考え、自分なりに少しずつ成長していっている感覚を覚えた。

しかし──
「不味い!こんな飯食えるか!」
「え…あの…!」
アテナが頑張れば頑張るほどにザードの機嫌は悪くなっていった。むしろアテナの姿を見るたびに何かしらの文句を言ってくる。
「……まだ、」
ヒルデさんのようになれていない。まだまだ精進が足りないのだ。だからザードは怒るのだ。
自分には無理なのかもしれない。──そんな考えが過り、アテナは胸が苦しくなった。
確かにアテナは急ぐと、ちょっと雑な仕事となってしまう。元々のんびりとした性格なのでじっくりやらないと完璧にこなせないのだ。
しかし、ザードが求めているのはのんびり屋のアテナではない。要領よく、何でも出来てしまう『ヒルデ』なのだ。
「頑張らないと…」
花畑で話してもらった過去の話のように、いつか見た夢のように、ザードには笑っていてほしい。怒ったり苛ついたり辛そうにしないように。
何故なら"アテナ"はヒルデの代わりとして連れて来られたのだから。

ほぼ手付かずの料理の皿を片付けながら、アテナの胸の痛みは強まった。





──あくる夜、アテナはザードに頼まれたマントの修復を行っていた。
ザードは毎日のように破れたマントをアテナに渡してくる。毎日破けるなんてどんな訓練をしているのか…と考えてしまうが、そもそもマントを付けて剣を振るのを止めた方が良い、という話だ。
「(しかもこんなに大量に…)」
縫い物の得意なアテナでなかったらマントの山を見た瞬間、即倒してしまう量だ。
他の人の分も入っているのかと思うが、ここにある派手な色をしたマントはザードしか装備しない。なのでザードは毎日沢山のマントを破いているという事になる。故意なのではと疑うが、そんな事をする理由が意味不明なので、普通に演習や警備などで破いているのだろう。
アテナは手慣れたように縫い終ると、綺麗に畳んで立ち上がった。明日渡せば良いのだが、早く渡した方がザードも喜ぶだろう。
「今夜は確か…中庭で警備をしているはずですよね」
しかもそろそろ終わりの時間である。渡すにはもってこいなタイミングだ。ついでに夜食を作っても良いかもしれない。
アテナは部屋を出て、中庭へと歩き出した。

「……?」
部屋が静寂に包まれ瞬間、ベッドで寝ていたザー君が飛び起きた。
耳を動かし、何かの気配を感じて目を尖らせた。
37/51ページ