第一話 始まりの一織り
「毎日精が出るな」
「あ、レオ様」
夜、ザードと会話して数日。言いつけ通りあれからの毎日肉料理を作っている。手の込んだ物は作れないが、ザードは嬉しそうに食べてくれるのでアテナも作り甲斐を感じていた。その肉料理が兵士の間で話題となり、今では全員分作ることとなり、料理の手間と時間が倍増していた。
「肉料理は手間がかかるだろう?」
「はい。でも、皆さんに喜んで頂けてるんで大丈夫です」
様子を見に来たレオも、気が付くとつまみ食いをしていた。王としてそれはどうかとも思うが…『そうだ』とアテナは手を叩きながらレオに振り返った。
「レオ様、ヒルデさんって具体的にはどんな方だったんですか?」
「ヒルデ?…そうか、ザードに話されたのだったな……そうだな…」
レオは顎に手を当て、少し考えた後いくつか上げた。
「まず、とにかく料理が速かった。パッと始めてパッと終らせていた」
「パッとですね」
アテナは急いで手と足と頭を働かせ、
「きゃあっ」
コケた。
『食事の準備をやりつつ、洗濯をやりつつ、掃除もしていたな』
「やりつつ、やりつつ…」
アテナはレオの言った事を反芻して、
「石鹸に浸けておいて」
洗濯をやりつつ、
「お米を研いで」
料理をやりつつ、
「ゴミを片付けて」
掃除をやった。
完璧!!
アテナは額の汗を拭い、笑顔になった。
「これで私もヒルデさんに近…」
「おい、アテナ…」
ニコニコしているアテナの前に眉間に皺を寄せたザードが立っていた。そしておもむろに手に持つ皿を突き出し怒鳴った。
「石鹸の味がするのはどういうことだ、馬鹿!」
「石鹸……あっ!」
アテナは洗濯と料理を混同してしまった為、汁物に洗剤が混ざってしまったのだ。幸い体調を崩すほどの量ではなかったようで、ザードも平気そうだが、青筋を立てている。
それもそうだ。王族は常に暗殺に警戒していなければならない。特に食事に毒を仕込まれるのはポピュラーな手口だ。だから少量の洗剤でも味の変化に気付いたのだろう。
「す、すみません!」
「てめぇ、次やったらマジで引っ叩くからな!」
その後アテナはしばらくザードに叱られてしまった。
気を取り直して、アテナは裏庭でレオの言葉を思い出した。
『あとは、話の通り強かった。彼女ならば王国一の女戦士になれたかもしれん』
──王国一の女戦士。
アテナは呟くと、ザー君がどこからともなく大きな人形を引きずって来た。胸に『特訓1号』と刺繍されている。
「昨日徹夜で作った人形君が役に立つ日が早くも来ましたね…!さっ、頑張りましょう!」
そう言いつつ、アテナは人形にパンチを繰り出した。
ポコペムッペコペコポンッ!!ポコポコポコポコ
そよ風が裏庭を抜け、ザー君は欠伸をした。
ペコンッポコポンッ!
「ハア…ハアっ…」
体を動かして数分。アテナはすでに肩で息をしていた。足もふらついている。しかし、拳を握り直し再び人形にパンチを繰り出す。
ペコペン!──そんな腑抜けた音しか出ないが、それでも数分叩き続け最後はガクンと力なく膝を折ってしまった。もう拳を握る力もない。意識もぼんやりとしてしまう。
「ふぅっふぁ…もう立てない…でも、これで強く……なりました…よね?」
意見を求めるようにザー君を見ると、彼はまた欠伸をした後、興味がなさそうに首を横に振った。そんな反応を見て、アテナは力尽きたように体を横に倒した。
もう動けない。しばらく休憩しよう、と目を閉じた。
──そう、体を鍛えるのは今日が初めてだ。誰だって最初は初心者だし、上手くいかなくて当たり前なのだ。
「織物だって、最初は、私も、ふぁぁ…」
心地の良い風、適度に疲労した体、良い感じに叩いてふかふかになった人形──アテナはウトウトと船を漕いで、そのまま眠ってしまった。
「あ、レオ様」
夜、ザードと会話して数日。言いつけ通りあれからの毎日肉料理を作っている。手の込んだ物は作れないが、ザードは嬉しそうに食べてくれるのでアテナも作り甲斐を感じていた。その肉料理が兵士の間で話題となり、今では全員分作ることとなり、料理の手間と時間が倍増していた。
「肉料理は手間がかかるだろう?」
「はい。でも、皆さんに喜んで頂けてるんで大丈夫です」
様子を見に来たレオも、気が付くとつまみ食いをしていた。王としてそれはどうかとも思うが…『そうだ』とアテナは手を叩きながらレオに振り返った。
「レオ様、ヒルデさんって具体的にはどんな方だったんですか?」
「ヒルデ?…そうか、ザードに話されたのだったな……そうだな…」
レオは顎に手を当て、少し考えた後いくつか上げた。
「まず、とにかく料理が速かった。パッと始めてパッと終らせていた」
「パッとですね」
アテナは急いで手と足と頭を働かせ、
「きゃあっ」
コケた。
『食事の準備をやりつつ、洗濯をやりつつ、掃除もしていたな』
「やりつつ、やりつつ…」
アテナはレオの言った事を反芻して、
「石鹸に浸けておいて」
洗濯をやりつつ、
「お米を研いで」
料理をやりつつ、
「ゴミを片付けて」
掃除をやった。
完璧!!
アテナは額の汗を拭い、笑顔になった。
「これで私もヒルデさんに近…」
「おい、アテナ…」
ニコニコしているアテナの前に眉間に皺を寄せたザードが立っていた。そしておもむろに手に持つ皿を突き出し怒鳴った。
「石鹸の味がするのはどういうことだ、馬鹿!」
「石鹸……あっ!」
アテナは洗濯と料理を混同してしまった為、汁物に洗剤が混ざってしまったのだ。幸い体調を崩すほどの量ではなかったようで、ザードも平気そうだが、青筋を立てている。
それもそうだ。王族は常に暗殺に警戒していなければならない。特に食事に毒を仕込まれるのはポピュラーな手口だ。だから少量の洗剤でも味の変化に気付いたのだろう。
「す、すみません!」
「てめぇ、次やったらマジで引っ叩くからな!」
その後アテナはしばらくザードに叱られてしまった。
気を取り直して、アテナは裏庭でレオの言葉を思い出した。
『あとは、話の通り強かった。彼女ならば王国一の女戦士になれたかもしれん』
──王国一の女戦士。
アテナは呟くと、ザー君がどこからともなく大きな人形を引きずって来た。胸に『特訓1号』と刺繍されている。
「昨日徹夜で作った人形君が役に立つ日が早くも来ましたね…!さっ、頑張りましょう!」
そう言いつつ、アテナは人形にパンチを繰り出した。
ポコペムッペコペコポンッ!!ポコポコポコポコ
そよ風が裏庭を抜け、ザー君は欠伸をした。
ペコンッポコポンッ!
「ハア…ハアっ…」
体を動かして数分。アテナはすでに肩で息をしていた。足もふらついている。しかし、拳を握り直し再び人形にパンチを繰り出す。
ペコペン!──そんな腑抜けた音しか出ないが、それでも数分叩き続け最後はガクンと力なく膝を折ってしまった。もう拳を握る力もない。意識もぼんやりとしてしまう。
「ふぅっふぁ…もう立てない…でも、これで強く……なりました…よね?」
意見を求めるようにザー君を見ると、彼はまた欠伸をした後、興味がなさそうに首を横に振った。そんな反応を見て、アテナは力尽きたように体を横に倒した。
もう動けない。しばらく休憩しよう、と目を閉じた。
──そう、体を鍛えるのは今日が初めてだ。誰だって最初は初心者だし、上手くいかなくて当たり前なのだ。
「織物だって、最初は、私も、ふぁぁ…」
心地の良い風、適度に疲労した体、良い感じに叩いてふかふかになった人形──アテナはウトウトと船を漕いで、そのまま眠ってしまった。