第一話 始まりの一織り
ザードは怠く重い体を苦しげに起き上がらせた。肩の古傷が鈍く痛み、顔を顰める。
昨日、アテナに過去を話してから昔の傷が痛み始めた。とうに完治している筈なのに。
しかし、どうしても耐えることの出来ない痛みに、あれからすぐに城に戻ると寝床に倒れこんだ。
「…もう朝か」
窓の外の陽はまだ低い。空気も朝特有の澄んだものだ。自分はいつまで眠っていたのか、確か昨日帰って来たのは昼頃だったはず…それからずっと眠っていたから体が重いのか…と、一人で納得していると部屋のドアがノックされた。
城の連中がノックするなどと礼儀をキチンとやるとも思えず、返事をしないでいると、ゆっくりとドアが開かれた。
「…あの、失礼します」
遠慮がちに顔を覗かせたのは、何故かエプロン姿のアテナだった。ザードは顔を顰める。
「…何やってんだよ」
「すみません、部屋を勝手に出るなと言われたのですが…」
「分かってんなら部屋に戻れ、グズ」
ザードはツカツカと歩み寄り、軽くアテナを突き飛ばした。少しよろめいたアテナだが何者かに後ろ体を支えてもらい、転倒は免れた。
「相変わらず…横暴だな」
「………ふん、引っ込んでろよおっさんが」
おっさん…こと、レオはアテナを支えた手を放し、ザードに睨みつけられつつ平然と喋り始めた。
「彼女…アテナ殿は城の為に何か出来ないか、と申し出てくれたのだ。だからこれからは料理、掃除その他諸々を頼むことにした…異論は受けん」
「はっ!?おい、勝手に…!」
「やらせて下さい!」
ザードが噛みつくように言いかかろうとすると、アテナが前に割り込んできた。
「私…部外者なのにいつまでも甘えてばかりではいけないと思うんです…だからせめて皆さんのご飯を作ったり、お掃除したりして、少しでも……ザード様の力になりたいんです」
アテナの瞳は揺れた。
アテナは昨日の晩、決めた事がある。
"自分がヒルデさんの代わりになろう。それで少しでもザード様の傷を癒せるならば"
どうして彼にそこまでやるのか、自分でも理由が分からない。しかし、昨日の話を聞いてザードの側にいたいと思った。
アテナは胸の熱さを抑えてザードを見つめた。
「……ふん、勝手にしろ」
ザードはそう言い残すと、部屋のドアを乱暴に閉めてしまった。残された二人は顔を見合わせ、苦笑を浮かべる。
「毎度すまないな…」
「いえ、大丈夫です。さて、どこから手をつけましょう?」
アテナは腕捲りをした。
昨日、アテナに過去を話してから昔の傷が痛み始めた。とうに完治している筈なのに。
しかし、どうしても耐えることの出来ない痛みに、あれからすぐに城に戻ると寝床に倒れこんだ。
「…もう朝か」
窓の外の陽はまだ低い。空気も朝特有の澄んだものだ。自分はいつまで眠っていたのか、確か昨日帰って来たのは昼頃だったはず…それからずっと眠っていたから体が重いのか…と、一人で納得していると部屋のドアがノックされた。
城の連中がノックするなどと礼儀をキチンとやるとも思えず、返事をしないでいると、ゆっくりとドアが開かれた。
「…あの、失礼します」
遠慮がちに顔を覗かせたのは、何故かエプロン姿のアテナだった。ザードは顔を顰める。
「…何やってんだよ」
「すみません、部屋を勝手に出るなと言われたのですが…」
「分かってんなら部屋に戻れ、グズ」
ザードはツカツカと歩み寄り、軽くアテナを突き飛ばした。少しよろめいたアテナだが何者かに後ろ体を支えてもらい、転倒は免れた。
「相変わらず…横暴だな」
「………ふん、引っ込んでろよおっさんが」
おっさん…こと、レオはアテナを支えた手を放し、ザードに睨みつけられつつ平然と喋り始めた。
「彼女…アテナ殿は城の為に何か出来ないか、と申し出てくれたのだ。だからこれからは料理、掃除その他諸々を頼むことにした…異論は受けん」
「はっ!?おい、勝手に…!」
「やらせて下さい!」
ザードが噛みつくように言いかかろうとすると、アテナが前に割り込んできた。
「私…部外者なのにいつまでも甘えてばかりではいけないと思うんです…だからせめて皆さんのご飯を作ったり、お掃除したりして、少しでも……ザード様の力になりたいんです」
アテナの瞳は揺れた。
アテナは昨日の晩、決めた事がある。
"自分がヒルデさんの代わりになろう。それで少しでもザード様の傷を癒せるならば"
どうして彼にそこまでやるのか、自分でも理由が分からない。しかし、昨日の話を聞いてザードの側にいたいと思った。
アテナは胸の熱さを抑えてザードを見つめた。
「……ふん、勝手にしろ」
ザードはそう言い残すと、部屋のドアを乱暴に閉めてしまった。残された二人は顔を見合わせ、苦笑を浮かべる。
「毎度すまないな…」
「いえ、大丈夫です。さて、どこから手をつけましょう?」
アテナは腕捲りをした。