第一話 始まりの一織り
それからヒルデはザードの護衛兼師匠として毎日特訓に付き合ってくれた。
初めはヒルデを認めず、口ごたえばかりしていたザードだったが、一ヶ月を過ぎた頃には素直に教えを受けるまでになっていた。
ヒルデの剣の腕はまさに一流で、大人でさえ負かしてしまう実力を持っていた。そんな彼女と日々を一緒に暮らせば暮らすほどに、今の『護衛』という役割に首を傾げるしかなかった。
・
・
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「何でヒルデを俺の護衛に付けようと思ったんだ?」
ある昼下がり、ザードは疑問を父レオに投げ掛けた。
ヒルデが城にやって来て一月。彼女も四六時中ザードの傍にいる訳ではなく、昼間は城下へ一人で行っている。言い方を変えれば、ザードにとって自由時間という訳だ。
「……初めも言ったが、お前は未熟で─」
「違う違うそこじゃなくて、そこより前の……えーと、何だ?ぜ、ぜ…ぜんてー?」
レオは面倒臭い書類仕事の手を止め、執務室の机の上に座り、考え込む息子に視線を移した。
「…難しい言葉を知っているな。ちなみに私は前提という言葉の意味はイマイチ分からないぞ」
「俺も分からねぇ!とにかくだ。何でヒルデを護衛として雇ったんだ?親父が見付けて来たのか?」
「なるほど…そこか」
息子の言いたい事をようやく理解したレオは腕を組み息を吐いた。
『ヒルデはどこから来て、何故雇う事になったのか?』
確かにヒルデの実力は大人顔負けだ。しかし、まだ少女──護衛としては若すぎるのだ。護衛を付けるにしても大人の方が体力精神的にも適しているはずである。
「ヒルデは……自ら志願してきた。お前に紹介した日、一月前に城へ直接やって来た」
「……は?あの日?という事は…即日雇ったのか?!」
「お前達が城を抜け出した直後、私達国王がいる会議室の窓を破って乗り込んで来て、雇えと言ってきた」
「ツッコミしきれねぇ~~」
武国の警備は堅牢だ。更に定期的に各国で集まり行われている、国王の定例会議の日は特にネズミ一匹通さない位だ。そんな厳重体制を掻い潜って国王達の集まる部屋に乗り込んで行ったヒルデは、無謀で命知らずである。
「下手したら…いや、しなくても刺客として即殺されてただろ……」
「そうだな…そうだったかもしれんな」
「?」
含みのある言葉にザードは訝しげな視線を投げ掛けるが、既にレオは立ち上がり退室しようとしていた。
「おい親父、待てよ。まだ…」
「あとはお前も知っている通り…話は終わりだ」
「いや、そうじゃなくて……書類まだ終わってねえだろ」
「………………」
レオは真顔のまま振り返りもせず部屋から逃げた。慌ててザードが後を追い、廊下を見たが父の全力疾走の背中が小さくなるのを見送る事しか出来なかった…
初めはヒルデを認めず、口ごたえばかりしていたザードだったが、一ヶ月を過ぎた頃には素直に教えを受けるまでになっていた。
ヒルデの剣の腕はまさに一流で、大人でさえ負かしてしまう実力を持っていた。そんな彼女と日々を一緒に暮らせば暮らすほどに、今の『護衛』という役割に首を傾げるしかなかった。
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「何でヒルデを俺の護衛に付けようと思ったんだ?」
ある昼下がり、ザードは疑問を父レオに投げ掛けた。
ヒルデが城にやって来て一月。彼女も四六時中ザードの傍にいる訳ではなく、昼間は城下へ一人で行っている。言い方を変えれば、ザードにとって自由時間という訳だ。
「……初めも言ったが、お前は未熟で─」
「違う違うそこじゃなくて、そこより前の……えーと、何だ?ぜ、ぜ…ぜんてー?」
レオは面倒臭い書類仕事の手を止め、執務室の机の上に座り、考え込む息子に視線を移した。
「…難しい言葉を知っているな。ちなみに私は前提という言葉の意味はイマイチ分からないぞ」
「俺も分からねぇ!とにかくだ。何でヒルデを護衛として雇ったんだ?親父が見付けて来たのか?」
「なるほど…そこか」
息子の言いたい事をようやく理解したレオは腕を組み息を吐いた。
『ヒルデはどこから来て、何故雇う事になったのか?』
確かにヒルデの実力は大人顔負けだ。しかし、まだ少女──護衛としては若すぎるのだ。護衛を付けるにしても大人の方が体力精神的にも適しているはずである。
「ヒルデは……自ら志願してきた。お前に紹介した日、一月前に城へ直接やって来た」
「……は?あの日?という事は…即日雇ったのか?!」
「お前達が城を抜け出した直後、私達国王がいる会議室の窓を破って乗り込んで来て、雇えと言ってきた」
「ツッコミしきれねぇ~~」
武国の警備は堅牢だ。更に定期的に各国で集まり行われている、国王の定例会議の日は特にネズミ一匹通さない位だ。そんな厳重体制を掻い潜って国王達の集まる部屋に乗り込んで行ったヒルデは、無謀で命知らずである。
「下手したら…いや、しなくても刺客として即殺されてただろ……」
「そうだな…そうだったかもしれんな」
「?」
含みのある言葉にザードは訝しげな視線を投げ掛けるが、既にレオは立ち上がり退室しようとしていた。
「おい親父、待てよ。まだ…」
「あとはお前も知っている通り…話は終わりだ」
「いや、そうじゃなくて……書類まだ終わってねえだろ」
「………………」
レオは真顔のまま振り返りもせず部屋から逃げた。慌ててザードが後を追い、廊下を見たが父の全力疾走の背中が小さくなるのを見送る事しか出来なかった…