第二話 未体験の知識
数日後、知国での騒動は国中に知れ渡り、毎日のように新聞の一面を飾った。
『まさかの略奪?』
『フェルナンド王子には他に…?』
『特集・知の国花嫁略奪騒動』
……。
何と下世話な。他に話題はないのだろうか?
自身の所にも記者が山のように押し寄せているが、毎度父が一喝して散らしてくれている。
──色々あったが、父との関係はそれなりに改善された。
仲を取り持ってくれたのは何と母だ。
母も最初こそ贅沢三昧の夢が絶たれて落ち込んでいたが、騒動から一日経過した後はケロリと元の高飛車な彼女に戻り、父に懇々と話をしていた。
話の場に同席していたが、その内容には驚いた。
てっきり政略結婚だと思っていた両親が何と恋愛結婚であり、それも、父が格上の貴族だった母に一目惚れし、熱烈な求愛をした後、出されたいくつもの難題をクリアして結婚した──という事実が判明した。
それはいつも自身が愛読している百科事典に載っている恋物語そのものではないか?!
詳しく話を聞くと、百科事典の編纂時に母がねだって自分達の馴れ初めエピソードを捩じ込んだらしい。父も断れ。
そんなこんなで母は、自分達も仕来りや伝統や身分や血族制度やら諸々をめちゃくちゃにしたのだから、娘の純愛も認めてあげなさい。と父を窘めた。
これには父も反論出来ずに渋々頷いたのだった。
──そういえば父は昔から母にだけは弱かった。
父は小さくなりながら最後に言っていた。
昔母へ、国王位偉くなって沢山贅沢させてやる。とプロポーズしたらしい。だからフェルナンド様と婚姻し、約束を果たそうとしていた──と。
母はそれを聞いて笑った。
贅沢したくて結婚したわけじゃない。愛しているから貴方の妻になったのだと。
全く睦まじい両親だ。
そんな両親から生まれたのだから、自分もこんな風に育ってしまったのだろう。
──そろそろ、出た方がいいだろう。
椅子にかけられた、厚い辞典の入っている背負いバッグを手に取ると玄関に向かった。
…おっと、鏡で身だしなみをチェックだ。
うん、いつもピシッと決まっている。
髪の乱れもなし。
「行って参ります!!」