第二話 未体験の知識

目を伏せようとした瞬間、シルヴィーは抱き寄せられた。
少し強く、けれども優しく包み込む腕。ふわりと暖かく懐かしい香り。
シルヴィーはすぐに気付いた。
「サルゴン様」
シルヴィーは見上げて顔を確かめようとしたが、よく見えない。
「シルヴィー」
柔らかい声だけが耳元で囁かれる。
シルヴィーは静かな胸の鼓動に身を任せた。

「あ……あんな、オラみたいなかっこよくね奴がこんな事言っても…きまらねぇと思うだが…」
サルゴンの声が少し震えている。抱き締められる力は強くなり、鼓動も早まった。
「初めて見た時…可愛い子だな…って思ったへ。
一緒に歩いて…もっと可愛いなぁって…んで、笑ってくれた時」
お互いの熱が混ざり、夢事のような不思議な感覚がする。
シルヴィーはゆっくりと腕を動かし、サルゴンの手を握った。
「こうやって抱きしめたくなったけぇ…別れた時もほんとは止めたかった…帰したくなかった。でも──オラ、フェルナンドみたく頭も顔もよくねし、いつも泥だらけだし、可愛いシルヴィーには釣り合わねぇって、諦めたようとしただ」
シルヴィーは自身の瞳が熱くなってきているのが分かった。
サルゴンも抱きしめる手が震えてきている。

「でも、やっぱり諦められねぇだや…オラ、シルヴィーが好きだ!!大好きだ!!」

その瞬間、シルヴィーの瞳から大粒の涙が零れた。

サルゴンはシルヴィーから身を離すと、向かい合い両手をとった。
「オラこんなことに慣れてねから、上手くかっこよく言えんけぇ。あ、慣れてるっていうのもこの場合変だへな…って、違え違え!オラが言いたい事はそんなことじゃないけぇ!シルヴィー!!」
シルヴィーは泣きながら、すでに何度も頷いている。嬉しくて、返事もクシャクシャになってしまう。

「誰よりも、いんや…世界一幸せにしてみせっぺ!だからオ………農国イエソド次期王位継承者、サルゴンの…私の妻になって欲しい」

サルゴンはシルヴィーに跪くと、恭しく手の甲に口付けをした。
「シルヴィーが好きだ…愛してる。この気持ちだけは誰にも負けねよ」
「──はい!!知国ケフラー、ヴィーナス領シルヴィー…申し出、謹んでお受け致します。私も」

空には天高く丸くて小さくて黄色い物体が光を浴びつつ飛んでいる。
自由に羽ばたき、楽しげな鳴き声は彼方まで届いた。

「私も!サルゴン様を愛してます!!」

シルヴィーがサルゴンに抱きつくと、広場は拍手に包まれた。
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