第二話 未体験の知識

その一言で、人々の困惑は更に濃くなった。
当事者のシルヴィーさえ、目を見開き唖然とフェルナンドの顔を凝視してしまっている。
「ま、待って下さい。今日の挙式はフェルナンド殿自身が言い出して……娘が犯した数々の非礼はお詫び致します!娘は幼く正常な判断が出来なくなっているだけなのです!どうか寛大な御心でお許し下さい!」
「…ヴィーナス領主」
「それに、お忘れではないでしょうか?!知王家は我がヴィーナス家に借りがある…我が一族の娘を王妃にする"約束"を交わしてい──」
「領主、王族の花嫁条件を言ってみろ」
動揺を隠せない領主の言葉を遮り、フェルナンドは静かに問いかけた。

──花嫁の条件。
最近、武国の王位継承者の蛮行によって法が改正された。
その改正法は全国民に通達され、百科のヴィーナス領と呼ばれる土地の領主は当然暗記をしていた。
「は?花嫁の条件?……一つ、五つ国大陸の娘であること。二つ、二人の王子が同じ国の娘と結婚してはならない。三つ、王子が認めた者であること。四つ、王が認めた身分…家柄であること…以上……娘はこれのどれにも引っかかっていない!!」
領主は意味の分からないと言わんばかりに叫ぶ。しかしフェルナンドはそれを意に介さず静かに息を吐いた。
「その中で一番重要なこと…貴様には分からんか」
「一番重要な事…?家柄や身分、血統でしょう。国を治める国王を産み育てる国母が下級貴族で良いはずない…その点、代々上級貴族を娶り血統を守り続けて来た我がヴィーナス家ほど王家に組みするに相応しい一族はいない!」
「違う」
フェルナンドは首を振り、領主の言葉を否定した後ゆっくりとシルヴィーとサルゴンに視線を移した。
「次期王位継承者の花嫁の条件、最重要項目は──"王子が認めたか"否だ」
「はぁ?!」
「確かに、シルヴィー嬢は知識も深く家柄も申し分ない…だが…私とて、決められた相手と添えぬ、ということだ」
領主は理解出来ず唖然とした。
"王子が認めたか否か"?ようするに──シルヴィーが気に入らないという事か?
確かに娘は外見が幼く、男性から見ても魅力に乏しい。親の欲目では可愛らしいとは思うが──一般的な視点で考えると"恋愛感情"を持つ事が難しい。
更に性格も強気で勝気だ。相手が誰であろうと間違いにハッキリ反論し、論破しにくる。
──フェルナンドが拒否してしまうのも当然だ。
幼い見た目で可愛げのない性格の娘を好き好んで妻にしたがる物好きは五つ国中でも一人いれば良いだろう。
──しかし、そんな感情的な都合は関係ない。
これは"知国ケフラーの未来に関わる事"なのだ。
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