第二話 未体験の知識


「そこまでだ」
周囲の空気がその一声で一変した。
「自身の娘だとしても、無抵抗な者に暴力を振るうことは法で禁じられている。解放し、三歩後ろへ下がれ」
規則正しい足音、後ろに束ねられた長い金の髪を揺らし、
「私の前で法を破るつもりがないのならば…だがな、ヴィーナス領主」
知国ケフラー次期王位継承者、王子フェルナンドが舞台へと上がった。

「フェルナンド…」
「ふむ…相変わらず人間離れした奴だな…この高さから人ひとりを受け止めるとは」
サルゴンの少し困ったような声にフェルナンドは普段と変わらぬ口調で答えた。
否、口調だけではない。
「…まぁ原理を考えても仕方あるまい」
シルヴィーの父親…ヴィーナス領主は目を見開いて、体を震わし、叫んだ。

「何故、普段と変わらない服装なのですか、フェルナンド殿!?」

ヴィーナス領主が叫んだ通り、フェルナンドは服装までも挙式用の正装ではなく、普段と変わらない服で挙式の会場に現れた。
周囲の民衆や貴族、王族達も驚き困惑の声でざわついた。
──知国王など、頭を抱えて気絶しそうになっている。
そんな騒然とした人々の声を聞き流し、フェルナンドは目を細め
「私の方も、シルヴィー嬢を妻にするつもりはない」
淡々と言い放った。
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