第二話 未体験の知識
空は澄み渡るような青色が広がっている。
その下、厳かに挙式準備が進められている知国ケフラーは普段とは違った雰囲気が漂っていた。
「普段あんなにも静かで退屈な空気が、今日はお祝いに湧いていますわ。全て貴方とフェルナンド様をお祝いしての事…嗚呼、素敵ですわね」
城の窓から城下を見つめていた女性…花嫁の母親は振り返った。
「うふふ、本当に綺麗。特に胸元の宝石がドレスによく映えていますわ」
「ありがとうございます、お母様」
美しい純白のドレスを纏った花嫁は椅子に座りながら外を見つめていた。
──国中が祝福している。
新たな王妃の誕生に。希望ある未来に。国の繁栄に。
そう、全ては国の為なのだ。
視界の先に羽ばたく鳥が映った。
青空を切り、彼方向こうに消えていく。
シルヴィーはその消えた先を見つめ、瞳を伏せた。
──私はもう飛べない。
純白のドレスという鎖に繋がれ、合理的で整った王城という鳥籠から出る事は叶わない。
それが"花嫁"の使命であり、運命なのだ。
その時、"花嫁"の肩は叩かれた。
「私、皆様へ御挨拶に行ってきますわ」
「……はい、お母様」
「私の幸せなお顔を見せ付けて来なければなりませんわ、おほほほ!」
無駄に宝石の散りばめられた悪趣味の衣装を引きずり、母は退室して行った。
外の喧騒とは正反対に部屋に静寂が訪れる。
物音一つせず、耳鳴りが聴こえる程静かだ。
──"花嫁"は肌寒さを感じた。
知国は乾燥した気候だが、今の時期に寒さを感じるような気温は有り得ない。
しかし"花嫁"は自身を腕で抱き、震えた。
──そうだ、知ってしまったのだ。
小さくて未熟な雛は、独りの寒さを。
"花嫁"が俯くと同時にドアがノックされ、返事を待たずに開かれた。
"花嫁"がそこに立つ人物を確認しようと視線を向けた瞬間、思わず立ち上がってしまった。
「シルヴィー」
一番会いたくなくて、一番会いたい人──
「……サルゴン様」
部屋を訪ねた人物──サルゴンは無言で微笑んだ。
衣装は、農国王族の正装をしている。いつもの作業着で見慣れているためか、今の姿はとても新鮮だ。
しかし、走ってきたのだろう。髪の毛はいつもの無造作ヘアーだ。
「ちっと、遅刻しちまっただ…ははは…」
サルゴンは手早く髪を整えると、改めてニッコリ微笑んだ。
「おめでとう」
「…ありがとうございます」
沈黙。
続く言葉が無く、二人は目線も合わさず暫し静寂が流れた。