第二話 未体験の知識

「只今戻りまし…た……?」
シルヴィーが自宅へと戻ると屋敷中が騒々しく、使用人達がバタバタと走り回っていた。
誰もシルヴィーに気付いていない様子だ。

シルヴィーは一瞬困惑したが、すぐに血の気が引いた。
──すっかり忘れていたが、今日は本来知城でフェルナンド様と面会し、婚姻関係の挙式や式典、その他諸々の話をする予定だったのだ。
しかし、自分はそれを放り出して城を脱走し、農国へ行ってしまった。
周囲からしてみれば、勝手に脱走し、行方不明&消息不明になった、という事だ。
「(フェルナンド様だって私がいないことに驚いた…いえ、失望したかもしれない)」
脱走を手伝ってくれた、あの武の娘は上手く立ち回れるほど頭はきれないだろう。
──下手したら…否、しなくても王族への侮辱罪で婚約解消そして身分剥奪だ。

シルヴィーはスッキリ気分から一転、上手い言い訳探しに頭を回転し始めた。

「(な、何が思い残す事はないですかぁ!この世への未練方面ではないのですよ!大馬鹿者の私!!)」
「シルヴィー!!」
頭を抱えたシルヴィーの頭上から名前を呼ぶ声が響いた。
顔を上げると、階段の上から母が目を丸くしてこちらを見つめている。
「お、お母様!あの、えーと、これには深い訳がありまして」
「ああっ…良かったわ。大丈夫?怪我はなかった?」
「……はい?」
予想していなかった言葉にシルヴィーは首を傾げた。すると、次は横から声をかけられた。
「以前からフェルナンド殿に言い寄っていた娘に襲われそうになっただろう?ああ、無事でなによりだ」
「お父様…って、な…」
──なんだ、その話?
いつのまにそんな話になっていたのだろうか?
"フェルナンド様に言い寄っていた娘"とは…あの武の娘の事だろう。確かに彼女に最初は剣を向けられたが、話し合いが出来ると分かるとすぐに鞘に収めてくれた。
だから、襲われた…というのは少し語弊がある。

困惑するシルヴィーを尻目に、両親はニコニコと言葉を続けた。

「野蛮な娘に襲われそうになった所をフェルナンド殿に庇われ、城外へ逃亡。守護兵長に連れられ、追っ手から逃げつつ夕方…今まで安全な場所に隠れていたのだろう」
「ええ?」
そんな劇的な活劇風な事にはなっていないのだが!?
守護兵長?!確かフェルナンド様の護衛の若い兵──だったと記憶しているが、顔も名前も覚えていない。
追っ手もいなければ、隠れてもいない。
「あの、えっと…申し上げにくいのですが」
「何だ、疲れているようだな?よし、食事にしよう!ハハハッ!ワインセラーからイエローキャネリを出してくれ!そうだ、ヴィンテージだ!ハハハッ!」
「えっえ?お父様?」
シルヴィーはテンションの高い父に押され、食事の席へ半ば無理矢理座らされた。
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