第二話 未体験の知識
「あまり遠くに行っちゃダメですよー」
雛の背中に声をかけた後、シルヴィーは苦笑した。言葉も通じない相手に自分は何を言っているのだろうか…と。
しかし、
「ピィイ」
雛はその言葉に返事をするように元気良く鳴いた。
雛を見送り、シルヴィーは遠くの景色を眺めながら大きな溜息を吐いた。
──何だかモヤモヤする。
フェルナンド様との面会を投げ出し、知城から逃げ、意気込んで農国へ来たのに──という歯痒さもあるが、それよりも、なんと言うか、言葉に出来ないモヤモヤが胸に引っかかっている。
先日もこんな感じに農国の風を感じていたはずだが…今日は何かが違う。何だかつまらない。
「…一人、だからでしょうかね」
"彼"の笑顔と声は、木々と風と大地によく映えた。
ぼさぼさの薄紫髪を揺らし、優しげな小さな深緑の瞳で見つめ、大きな手で指差し、微笑みながら沢山の事を話してくれた。
「居てくれたら──きっと、この場所の事も話してくれたのだろうな…サ」
「ベェエエ」
「きゃあ!!」
──物思いに耽っている最中、本日二度目の突進(?)を食らってしまった。
突進、というよりは頭を擦り付けてきているだけなのだが、小さなシルヴィーはコロコロと転がってしまった。
緩やかな丘を転がり落ち、止まった後シルヴィーが身を起こして見上げると、座っていた場所に巨体生物──
「…ゴン」
「ンベェエ」
牛のゴンがいた。
シルヴィーは「またか…!」と額に手を当てながら、横を走り過ぎてゴンに向かう雛を見送った。
──突然現れて頭突きして来たと思えば唐突に消え、雛を押し付けられ、そうしたら再び唐突に現れて頭突きをしてきて……嫌がらせ行為だろうか。
ただでさえ今モヤモヤが胸に溜まってどうしようもないのに──シルヴィーはゴンからそっぽを向いた。
「貴方たちに構っている暇はないのです!私には大事な目的があるので、もう出発し──」
──瞬間、丘に突風が吹き抜けた。
シルヴィーは瞬きを何度もし、目の前に歩いてくる人影を確認した。
見間違いでも人違いでも幻覚でもない。確かに草を踏み、息を吐き、緑色の目線をコチラに向けている。
シルヴィーは叫んだ。
「サルゴン様!!」
「久しぶり…な事はねか。アハハ」
何度見直しても瞳に映るのは屈託のない笑顔と穏やかな声だ。
「サルゴン様…」
会いたかった笑顔だ──
「あ!えっと…ど、どうして、ここに?」
ハッとしたシルヴィーは困惑したように問い掛けた。
この丘には人の気配はない。農地として使用されていないようで家畜の姿もない。
自然のまま放置されている──そんな場所にわざわざ来る者はいないだろう。
…シルヴィーのような迷子以外は。
そんな問いにサルゴンは降りてくるゴンに歩み寄りつつあっけらかんと答えた。
「ああ、ゴンがな、こっちに雛がいる…ってオラをここまで連れて来てくれただよ。なぁ、ゴン?」
サルゴンが撫でると、ゴンは嬉しそうに目を細め、シルヴィーを見つめた。
『会いたい』
確かにシルヴィーはそう呟いた。ただの独り言だ。動物なんかに言葉が理解出来るなんて思わず、ただ一言『会いたい』とだけ言っただけだ。
なのに、
「ゴンは…私の言葉を理解してくれたのですね」
肩の力が一気に抜けた。
サルゴンに会えたからか、それとも…
「ありがとう、ゴン」
シルヴィーはゆっくりとゴンの頭を撫でた。
雛の背中に声をかけた後、シルヴィーは苦笑した。言葉も通じない相手に自分は何を言っているのだろうか…と。
しかし、
「ピィイ」
雛はその言葉に返事をするように元気良く鳴いた。
雛を見送り、シルヴィーは遠くの景色を眺めながら大きな溜息を吐いた。
──何だかモヤモヤする。
フェルナンド様との面会を投げ出し、知城から逃げ、意気込んで農国へ来たのに──という歯痒さもあるが、それよりも、なんと言うか、言葉に出来ないモヤモヤが胸に引っかかっている。
先日もこんな感じに農国の風を感じていたはずだが…今日は何かが違う。何だかつまらない。
「…一人、だからでしょうかね」
"彼"の笑顔と声は、木々と風と大地によく映えた。
ぼさぼさの薄紫髪を揺らし、優しげな小さな深緑の瞳で見つめ、大きな手で指差し、微笑みながら沢山の事を話してくれた。
「居てくれたら──きっと、この場所の事も話してくれたのだろうな…サ」
「ベェエエ」
「きゃあ!!」
──物思いに耽っている最中、本日二度目の突進(?)を食らってしまった。
突進、というよりは頭を擦り付けてきているだけなのだが、小さなシルヴィーはコロコロと転がってしまった。
緩やかな丘を転がり落ち、止まった後シルヴィーが身を起こして見上げると、座っていた場所に巨体生物──
「…ゴン」
「ンベェエ」
牛のゴンがいた。
シルヴィーは「またか…!」と額に手を当てながら、横を走り過ぎてゴンに向かう雛を見送った。
──突然現れて頭突きして来たと思えば唐突に消え、雛を押し付けられ、そうしたら再び唐突に現れて頭突きをしてきて……嫌がらせ行為だろうか。
ただでさえ今モヤモヤが胸に溜まってどうしようもないのに──シルヴィーはゴンからそっぽを向いた。
「貴方たちに構っている暇はないのです!私には大事な目的があるので、もう出発し──」
──瞬間、丘に突風が吹き抜けた。
シルヴィーは瞬きを何度もし、目の前に歩いてくる人影を確認した。
見間違いでも人違いでも幻覚でもない。確かに草を踏み、息を吐き、緑色の目線をコチラに向けている。
シルヴィーは叫んだ。
「サルゴン様!!」
「久しぶり…な事はねか。アハハ」
何度見直しても瞳に映るのは屈託のない笑顔と穏やかな声だ。
「サルゴン様…」
会いたかった笑顔だ──
「あ!えっと…ど、どうして、ここに?」
ハッとしたシルヴィーは困惑したように問い掛けた。
この丘には人の気配はない。農地として使用されていないようで家畜の姿もない。
自然のまま放置されている──そんな場所にわざわざ来る者はいないだろう。
…シルヴィーのような迷子以外は。
そんな問いにサルゴンは降りてくるゴンに歩み寄りつつあっけらかんと答えた。
「ああ、ゴンがな、こっちに雛がいる…ってオラをここまで連れて来てくれただよ。なぁ、ゴン?」
サルゴンが撫でると、ゴンは嬉しそうに目を細め、シルヴィーを見つめた。
『会いたい』
確かにシルヴィーはそう呟いた。ただの独り言だ。動物なんかに言葉が理解出来るなんて思わず、ただ一言『会いたい』とだけ言っただけだ。
なのに、
「ゴンは…私の言葉を理解してくれたのですね」
肩の力が一気に抜けた。
サルゴンに会えたからか、それとも…
「ありがとう、ゴン」
シルヴィーはゆっくりとゴンの頭を撫でた。