Esperanza Leon(完結)
≪五つ国歴560年≫
レオは小さな墓の前に立っていた。
他の墓とは孤立して、ひっそりと存在している。
参る者もいないのか、その周辺は荒れていたが、レオの前に建つ墓だけは綺麗に掃除されていた。
レオは墓の前に膝を付くと、花を供えた。
ここにはリザが眠っている。
彼女は姿を消した後、武国の端に位置する村に身を寄せていたらしい。
名前も身分も偽り、村の酒場で働きながら腹の子を育てた。
しかし、城へ謀反の集団が乗り込むと知った彼女は産後すぐに戦いに行った。
その際、切った腹の傷が開き、命を落としたらしい…
残された赤ん坊は世話になっていた老婆に預け、城へと運んでもらった。
そして、彼女の遺体は村の墓場に、この場所に埋葬されたのだ。
レオは老婆にこの場所の事と、彼女が命を落とした経緯を聞き、後悔した。
もし、あの時自分が死のうと思わなければ…逃げろと言わなければ…
共に城へと戻っていたら、助かっていたかもしれない。
否、それ以前に自分が大勢の命を奪っていなければ…
どこからが始まりなのか…分からなかった。
だが、何が始まりだとしても原因は自分と言う事は変わらない。
彼女を殺したのは、きっと自分なのだろう…
彼女に詫びようにも、墓は彼女ではない。
もう詫びる事も出来ないのだ。
自分自身を責め、後悔を一生し続けるしかない。
それが自分に課せられた罰なのだ。
だから…
「親父~!口の中苦い~!!!」
「……ザード、それは食べ物ではない」
レオは頭の中で過去に何度も繰り返したリザへの詫び文句を止め、後ろで走り回っていた息子…ザードへと歩み寄った。
ザードは何故か口一杯に雑草を食んでいた。
「ぺっとしなさい」
「べーーー」
「…こんなに食べて…腹でも減っていたのか?」
「ぐーぐーだ!」
レオは胸を張るザードに持ってきていたパンを渡す。
…リザが命懸けで護った息子は草を食べる…いやいや元気にパンを頬張れる位まで成長した。
墓参りには毎回連れてきているが、毎回違う様子をリザに見せている。
前来た時は木を登って降りられなくなっていたが、今日は沢山走り回り転びまくっていた。
「子供の成長は早いものだな…」
独り言でポツリと呟く。
きっと、リザもそう思ってくれているだろう。
先程までは後悔ばかりが脳内を巡っていたが、ザードの無邪気な様子を見ると自然と和んでしまう。
不思議な物だ。
「ザード」
「んー?」
レオはザードを墓の前に立たせると、胸元からある物を取りだした。
少しだけ大きい牙の耳飾りだ。
「なんだそれ!!かっけー!」
「これをお前にやろう」
「マジで?マジで?」
「ああ、大事にしろよ」
ザードはレオから耳飾りを受け取ると、嬉しそうに握りしめた。
「にひー!」
「それはお前の母親の耳飾りだ。どれ、付けてやろう」
レオは改めて耳飾りを受け取り、ザードの耳に付けてやった。
その間、周りの草木がサワサワと揺れる。
まるで彼女も喜んでいるようだ…
耳飾りは子供の耳には少しばかり大きいが、とても似合っていた。
「似合っているぞ」
「うぇーーい!!俺かっけー!!」
ザードは嬉しそうに笑い、すぐに走り出した。
落ち着いていられないのだろう。
走り回るザードと同調するように、耳飾りが跳ねる。
その様子を、レオは懐かしそうに見つめていた。
これまで失った物は多い。だが、得た物もある。
父が死に、平和も、信頼も、
リザも失った。
ツライ日々ばかりで、寂しさに押し潰されそうになる時もあった。
しかしある日、ザードが自分の元へやってきて生活は一変した。
毎日振り回され、怒らせ、笑わされる。
寂しさも不安も全て忘れさせてくれた。
それがリザが遺してくれたただ一つの贈り物。
ザードのおかげで「護るべきもの」を得た。
彼が大きくなり、伴侶を見つけて国王になるまでまだまだ先は長いが、自分の命が尽きるまで護り続けようと誓う。
リザがそうしたように。
自分とは正反対の父。
明るくて、皆に好かれていた父。
けして驕ることなく、ただ己の意志真っ直ぐに生きていた父。
…自分は父のように多くのものは護れそうにない。
だが、それで良いのかもしれない。
父のようになれなくとも、自分の決めた道を貫けば良いのだ。
国はまだ安定しないが、ゆっくりと改善は出来ている。
兵士や民も自分を認めてくれる者が増えた。
貧困の問題はまだまだだが、そこも改善案が出ている。
地獄のような国に少しずつ光が差し込んできていた。
何が始まりで、何が正しくて、何が間違っていたのか…
私には恐らく一生分からないだろう。
だから今は仕舞っておこう。
私の体験した全てを。
いつか語るその日まで…
【第一章 終】
レオは小さな墓の前に立っていた。
他の墓とは孤立して、ひっそりと存在している。
参る者もいないのか、その周辺は荒れていたが、レオの前に建つ墓だけは綺麗に掃除されていた。
レオは墓の前に膝を付くと、花を供えた。
ここにはリザが眠っている。
彼女は姿を消した後、武国の端に位置する村に身を寄せていたらしい。
名前も身分も偽り、村の酒場で働きながら腹の子を育てた。
しかし、城へ謀反の集団が乗り込むと知った彼女は産後すぐに戦いに行った。
その際、切った腹の傷が開き、命を落としたらしい…
残された赤ん坊は世話になっていた老婆に預け、城へと運んでもらった。
そして、彼女の遺体は村の墓場に、この場所に埋葬されたのだ。
レオは老婆にこの場所の事と、彼女が命を落とした経緯を聞き、後悔した。
もし、あの時自分が死のうと思わなければ…逃げろと言わなければ…
共に城へと戻っていたら、助かっていたかもしれない。
否、それ以前に自分が大勢の命を奪っていなければ…
どこからが始まりなのか…分からなかった。
だが、何が始まりだとしても原因は自分と言う事は変わらない。
彼女を殺したのは、きっと自分なのだろう…
彼女に詫びようにも、墓は彼女ではない。
もう詫びる事も出来ないのだ。
自分自身を責め、後悔を一生し続けるしかない。
それが自分に課せられた罰なのだ。
だから…
「親父~!口の中苦い~!!!」
「……ザード、それは食べ物ではない」
レオは頭の中で過去に何度も繰り返したリザへの詫び文句を止め、後ろで走り回っていた息子…ザードへと歩み寄った。
ザードは何故か口一杯に雑草を食んでいた。
「ぺっとしなさい」
「べーーー」
「…こんなに食べて…腹でも減っていたのか?」
「ぐーぐーだ!」
レオは胸を張るザードに持ってきていたパンを渡す。
…リザが命懸けで護った息子は草を食べる…いやいや元気にパンを頬張れる位まで成長した。
墓参りには毎回連れてきているが、毎回違う様子をリザに見せている。
前来た時は木を登って降りられなくなっていたが、今日は沢山走り回り転びまくっていた。
「子供の成長は早いものだな…」
独り言でポツリと呟く。
きっと、リザもそう思ってくれているだろう。
先程までは後悔ばかりが脳内を巡っていたが、ザードの無邪気な様子を見ると自然と和んでしまう。
不思議な物だ。
「ザード」
「んー?」
レオはザードを墓の前に立たせると、胸元からある物を取りだした。
少しだけ大きい牙の耳飾りだ。
「なんだそれ!!かっけー!」
「これをお前にやろう」
「マジで?マジで?」
「ああ、大事にしろよ」
ザードはレオから耳飾りを受け取ると、嬉しそうに握りしめた。
「にひー!」
「それはお前の母親の耳飾りだ。どれ、付けてやろう」
レオは改めて耳飾りを受け取り、ザードの耳に付けてやった。
その間、周りの草木がサワサワと揺れる。
まるで彼女も喜んでいるようだ…
耳飾りは子供の耳には少しばかり大きいが、とても似合っていた。
「似合っているぞ」
「うぇーーい!!俺かっけー!!」
ザードは嬉しそうに笑い、すぐに走り出した。
落ち着いていられないのだろう。
走り回るザードと同調するように、耳飾りが跳ねる。
その様子を、レオは懐かしそうに見つめていた。
これまで失った物は多い。だが、得た物もある。
父が死に、平和も、信頼も、
リザも失った。
ツライ日々ばかりで、寂しさに押し潰されそうになる時もあった。
しかしある日、ザードが自分の元へやってきて生活は一変した。
毎日振り回され、怒らせ、笑わされる。
寂しさも不安も全て忘れさせてくれた。
それがリザが遺してくれたただ一つの贈り物。
ザードのおかげで「護るべきもの」を得た。
彼が大きくなり、伴侶を見つけて国王になるまでまだまだ先は長いが、自分の命が尽きるまで護り続けようと誓う。
リザがそうしたように。
自分とは正反対の父。
明るくて、皆に好かれていた父。
けして驕ることなく、ただ己の意志真っ直ぐに生きていた父。
…自分は父のように多くのものは護れそうにない。
だが、それで良いのかもしれない。
父のようになれなくとも、自分の決めた道を貫けば良いのだ。
国はまだ安定しないが、ゆっくりと改善は出来ている。
兵士や民も自分を認めてくれる者が増えた。
貧困の問題はまだまだだが、そこも改善案が出ている。
地獄のような国に少しずつ光が差し込んできていた。
何が始まりで、何が正しくて、何が間違っていたのか…
私には恐らく一生分からないだろう。
だから今は仕舞っておこう。
私の体験した全てを。
いつか語るその日まで…
【第一章 終】
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