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Esperanza Leon(完結)

謁見の間にはすでに老婆が着いていた。
周りは兵士によって厳重体制がとられている。
少しでもおかしな動きをすれば取り抑えられる、という事だろう。

レオは玉座へ、老婆の横を通りながら彼女の様子をうかがった。
予想以上に小柄で、小汚いローブを深く被っている。
そのせいで表情は見る事が出来ない。
老婆自体はピクリとも動いていないようだが、手元らしき場所は異様なうごめき方をしている。
予想するまでもなく、それが『目的の物』だろう。

「御逢い出来て光栄でございます…」
レオが玉座に腰掛け、他の王(ナルセスとヒイラギはあの後すぐに来た)が少し斜め後ろの位置に立つと同時に老婆はしゃがれた声を出した。
声は見た目通りだ。
しかし…どうやら頭を下げたようだが、顔も見えないローブではその動作もよく分からない。
「この度は突然申し訳ありません…」
「構わない…それよりも、だ」
レオは手短に話す。自分でも意識せずに気が急いているようだ。
老婆を真っ直ぐ見つめているつもりがチラチラと『それ』に目がいってしまう。
老婆はそんなレオの様子を察し、ゆっくりと手元を差し出した。
国王達はレオだけではなく、全員身を乗り出す。

一瞬周りがざわついた。

老婆の手にはまごう事なく、赤ん坊が持たれていた。
生まれてから間もないのか、小さい。
小さいが、生きている。
そして…

「ぅ…うぎゃああああああ!」

泣き声が大きかった。
小さい体のどこからそんな声が出ているのか…
昔見た赤ん坊というものはもっと弱々しく泣き方をしていたのだが──

レオは考える間もなく、老婆に歩み寄り大泣きしている赤ん坊を抱き上げた。
『罠』とか『偽物』とかそんな事考えはどこかに吹き飛んでいた。
ただ、とっさに『彼』を受け取ってしまった。

再び周りの者はざわっと声をあげる。中には武器に手をかける者までいた…しかし、同時に一際大きな泣き声は止んだ。

腕の中の赤ん坊は先程までの大声をしずめ、泣き腫らした瞳でジッとレオを見つめる。
その瞳は赤い。
泣いたせいではなく、『彼』本来が持つ瞳の色のようだった。

──『彼女』とそっくりだ…


「…ずっと寒がっておりましたので…」
「…?」

老婆がポツリと呟く。
確かに赤ん坊は服という服を着せられていない。
ボロ布を巻かれている…と言った方が近いくらいだ。
だが、武国の気候は半袖でも汗ばむ比較的温暖な地域。
ボロ一枚でも『寒い』はずがない。

レオが訝しげな視線を赤ん坊に向けると、老婆はゆっくりと言葉を続けた。

「御子の母は…一度しか抱いてあげられませんで…」
「…?!…それは、どういう意味だ」
「村に、謀反をおこそうとする者達が来まして…あの子は、御子を産んだ腹の傷も、癒えぬまま…」

老婆はそこまで言って頭を深々と下げた。
…そこまでしか言えなかったのだろう…

レオも、大体の察しはついた。

「……リザは、死んだのか」
「……最期に、御子を貴方様に託せと…」
「そうか…」

レオは改めて赤ん坊に視線を移した。
先程と変わらずコチラをジッと見つめている。
声一つ漏らさず、身動き一つせず。

…ただそれだけなのに、何故か涙が込み上げてきてしまった。
しかし、涙をみせるわけにはいかない。

レオは小さな体を包むように優しく抱き締めた。

「名前は…なんと付けようか…」

レオがそう呟くと、赤ん坊はふにゃりと顔を緩ませ嬉しそうに笑った。
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