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Esperanza Leon(完結)

「レオ様!!ああ、御無事でしたか!ああ良かった…!!!」
少し走った先で、レオは城の兵士と出会った。
兵士はレオを見つけるやいなや、一目散に駆け寄り膝をついて主君の体を大事そうに擦った。
レオの体は泥だらけだ。
傍から見ればボロボロのボロ切れである。
兵士が擦って…否、汚れを落としたがるのも無理はない。
「心配しました。もしや、どこかで討ち取られているのではないかと…いや、もちろん私は心配など、ええ、お強いレオ様が簡単にやられるなど、ええ……だから…本当に生きていて良かったです…!!」
兵士はグッと涙を堪えるように手で目頭を押さえた。
武国にこんな器用に嘘を吐ける者はいない。よって演技ではないだろう。
レオは兵士のそんな様子に胸の奥がざわついた。
…こんな自分の事を本気で心配してくれていたのか…
そう、呟こうとした…が何故かそれが出来なかった。
それよりも先に別の思いが頭をよぎったのだ。
「…リザは…どうした?」
そう、リザだ。
自分の事を誰よりも案じてくれたのは彼女なのだ。
『逃げろ』とは言ったものの、あの彼女の事だ…もしかしたら主君を守る為に一人で敵と戦い、大怪我を負っているかもしれない。
…とにかく、彼女の無事を一刻も早く確認したかった。

しかし、期待した答えは──…半分だけ返ってきた。

「リザ近衛隊長は…生きています」
「!!…そうか…!!今はどこに──」
「分かりません」
兵士は申し訳なさそうに首を振る。
その言葉の意味がイマイチ分からずレオは困惑したような視線を投げた。
「…どういう事だ?」
「……反乱は、戦いは昨日のうちに終結しました。首謀者も分かっています…リザ隊長が今朝連れてきましたから」
「リザが首謀者を」
「はい、ユエという名の者です」
『やはり』と、レオは目を細めた。
それならば昨夜、洞窟の中に隠れていたのが見付からなかったのも頷ける。
仮説をたてたように、先導者がいなければ周りは動けない。
恐らくユエが戦意喪失したと同時に、他は散り散りに逃げてしまっただろう。
その他大勢は捕まえられないとしても、頭が手中に入ったのならば良しとしよう。
「リザ隊長はユエを城の牢へ入れた後…そのままどこかへと行ってしまいました」
「─…何だと?」
「『自分はもうレオ様のお傍に仕える事は出来ない。近衛兵長の名も返上する』…と言い残し、行き先も言わず…止める事も出来ませんでした」
兵士は俯く。
レオが誰よりも彼女に信頼を寄せているのは周知の事実である。
だから、伝えるのも戸惑ってしまうのだろう。

…しかし、レオは落ち着いていた。

一言「そうか」と言い、何事もなかったように城への道を歩き出す。
兵士は一瞬驚き、だがすぐにレオの後を追った。

──…レオは分かっていた。

心のどこかで、大怪我を負ってこの地に留まっているのではないか…戦いが終わるまでどこかに隠れてすぐに顔を出してくれるのではないか…
そう、『すぐに再会できる』とどこかでそれを願っていた。
だが、それとは裏腹に心底では
『もう会えない』
と察していた。
…リザが命令に背くはずがない。
どこまでも真面目で忠実な『部下』だ。
だから…「逃げろ」と言えば、彼女はどこまでも逃げてくれる。
例え主君が死んだとしても、それが主君の命令なのだから…

レオが囮になって、死ぬ…という予定とは多少狂ってしまったが、彼女が安全な場所に逃げられたのならばそれで良いだろう。
心配はない。
そして、心残りもない。

「城へ戻り、ユエという者に『どうしたいのか』を聞こう。私に襲いかかってきたとしても手出しはするな…私の自業自━」
「レオ様」

レオの言葉を遮り、そして行く手に立ちはだかると兵士は再び跪いた。

「『どんな事があろうとレオ様を護り、味方でいてくれ』」
「…?」
「リザ隊長が去り際に残して行った言葉です」

兵士は顔を上げ、レオを曇りのない瞳で見つめた。

「自分達は隊長よりも遥かに頼りないかもしれません。きっと信用もなかなか出来ないと思います…でも、それでも、自分達は、城の奴らは皆…レオ様を全力で護ってやります」
「……」
「周りの奴らは知らないんですよ。レオ様は不器用だけど、いい奴なんだって。レオ様じゃなければ自分達みたいなヤンチャしまくってたはみ出し者もならず者も、野たれ死んでたと思います…レオ様は、自分達の命の恩人なんです」

『死なせはしません』と、兵士は呟き頭を深く下げる。

確かに今、城にいる兵士の大体は酒場で暇を潰していたり、しょうもない小さな罪を犯した者ばかりだ。
ただ適当に声をかけただけ。
人手が欲しかっただけ。
別に誰でも良かった。
敵とも味方とも思っていなかった。
なのに──

「……ありがとう」

レオは震える声を抑え、絞り出すように言った。
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