Esperanza Leon(完結)
レオもリザも倒れてきた木に当たる、というヘマはもちろんせずに軽く避ける。
一瞬で体勢を整えると、続けざまに斬撃が目の前を掠った。
しかしレオは避けようともせず静止している。
前髪を少し刻み、繰り出された先を睨む。
「…今のは挨拶だ」
レオの視線の先に精悍な顔立ちの青年が立っていた。
目は鋭く、レオを睨みつけ、手には装飾のない「居合い刀」と呼ばれる剣を持っている。
恐らく木を切ったのもこの青年だろう。
本来剣とは『斬る』というよりも『叩く』『殴打する』といった攻撃表現が正しい。
だが、『刀』は斬る事を目的として作られている珍しい剣だ。
それだけに扱いや手入れが難しいと聞くが…目の前の男はそれを使いこなしているらしい…
厄介な相手に見つかってしまった…
「…アンタは…カマル前近衛兵長の、息子か」
リザは低く、だが周りにも聞こえるようにはっきり言った。
すると目の前の青年は少し目を細め、微かに頷く。
カマル近衛兵長…レオは記憶にある彼の顔を思い出した。
屈託なく笑う姿はほんの少し父に似ていた。
いつも自由奔放な城の兵士達をたしなめる。
落ち着いた声色で。
…だが、あの時初めて、声を荒げていた。
襲いかかってくる者達。
大声で叫ぶカマル近衛兵長。
そして
「…お前に殺された…」
青年は絞り出すように言う。
「父はお前に殺されたんだ!理由もなく!国王に忠誠を誓っていたのに、最期まで王族であるお前を護っていたのに…お前は!お前は!!」
青年の声が荒くなってくると同時に、レオの体は氷のように冷たくなってきた。
痙攣を起こしたかのように震える。
寒いのではない。
体は冷たいが、内側は熱を持っている。
そして、頭の中は混乱し始めている。
父、カジキ王が死んだと言われ、悲しむ暇もなく周りの戦士達が襲いかかってきた。
最初は逃げていた。抵抗もした。拒否もした。
だが、何かがプツンと切れると同時に意識は奥深く沈んでしまったのだ。
しかし、体は覚えている。
襲いかかってくる者を床に叩きつけた。
逃げる者の足を潰した。
そして、
助けてくれた者を、無関係の者を、命乞いをする者を
味方をしてくれたカマルを
「レオ様、しっかり!」
リザの声でレオは我を取り戻した。
汗は流れ続けているが、足元はしっかりとしている。視界もぶれていない。頭の中は…まだ少しまとまっていない…が問題はない。
「──確かに…レオ様は正当防衛以上の事をしてしまったが、今はもう十分反省と償いをしているんだ!許してくれとは言わない!だが、もう─」
「ふざけるな!!」
リザの言葉を遮り、青年は怒鳴った。
同時に…否、実際は目視出来ない位高速で刀を抜き、レオに向けた。
「反省?償い?…まさか、時間で全てが解決するとでも思っているのか?──そんなわけないだろう?!家族を、父を、大事な者を殺されたんだぞ!?時間なんて、反省なんて関係ない!返せ…父を返せ!」
青年の構えた刀が一瞬ブレた。
その隙を狙おうと、リザはアックスを構え直すが青年は警戒を緩めなかった。
一旦刀を鞘に戻し、身を低くして、右手を柄に乗せる。
…典型的な居合いの構えだ。
「我が名はユエ…父、カマルの敵討たせてもらう!!」
ユエと名乗った青年は目にも止まらぬ速さで刀を抜き、リザに斬りかかった。
リザはそれを手にしたアックスで弾く。
一瞬隙を見せたユエに続けざま攻撃を繰り出──そうとした時、リザは後ろに跳んだ。
…本能的に危険を察したから…
レオもその危険を目視していた。
「御機嫌よう」
「…ちっ…見つかったか」
「ユエが突然姿を消してしまうから、本当に焦りましたのよ」
ユエの隣に立っている娘…薙刀と呼ばれる剣を持った新たな敵に、レオは内心舌打ちを打った。
確かにこれで二対二、傍から見れば互角…だが自分は防具を着けていない。
ユエだけならば何とかなっていたかもしれないが、相手が二人となると話は違う。
相手の狙いは自分。
もちろん防具を着けていないのだから、敵討ちの絶好のチャンスだ。
自分は数に入らない…と言う事は、実質一対二…
「リザ…予備の武器は持っているか?」
「すみません、慌てていたので手持ちはこれだけです」
「…では、隙を見て──」
レオが瞬きをした瞬間、眼前を刀が掠った。
──いつの間にかユエが間合いに入り込んでいた。
ユエは突き刺さるような視線でレオを睨む。
「阿呆…隙など作らせるものか…!!」
「…っ」
「レオさっ…」
「貴女のお相手は私がさせて頂きます」
レオを庇おうとしたリザの前に薙刀の娘が割り込んだ。
ユエは何回か刀を振るい、レオを後ろに移動させる。
リザは目の前の娘に集中せざる負えず、レオとの距離を開かせてしまった。
薙刀の娘は柔らかく微笑んだ。
「これで、正々堂々一対一、ですね」
一対一となり、レオはユエと対峙した。
息をつく間もなく、ユエは再び構え、抜刀すると同時に斬りつける。
その速さは先程よりも増していた。
レオの本領は体術…装備がなくとも己の肉体だけで戦える。
そしてどの武術よりも身軽なのが利点だ。
よって、どんなに相手の剣術が速くとも、レオが相手の懐に入るのは簡単だろう。
…だが、居合いは自分から攻めるのではなく、相手が自身の間合いに入った時に斬りつける剣術。
間合いに飛び込んだが最後。
研ぎ澄まされた反射神経によって切り捨てられてしまうだろう。
…かと言ってこのまま防戦のままでは無駄に傷を負うばかりである。
レオが考え、避けるたびに、体の傷は増えてゆく。
どんなにレオの反射神経が良くても完全に避けるのは難しく、服をかすってしまう。
ユエには隙もなく、踏み込む事も出来ない。
「(どうしたら良い…?)」
レオの焦りは動きを遅くさせ、ユエもそれを察しさらに抜刀を速めた。
一瞬で体勢を整えると、続けざまに斬撃が目の前を掠った。
しかしレオは避けようともせず静止している。
前髪を少し刻み、繰り出された先を睨む。
「…今のは挨拶だ」
レオの視線の先に精悍な顔立ちの青年が立っていた。
目は鋭く、レオを睨みつけ、手には装飾のない「居合い刀」と呼ばれる剣を持っている。
恐らく木を切ったのもこの青年だろう。
本来剣とは『斬る』というよりも『叩く』『殴打する』といった攻撃表現が正しい。
だが、『刀』は斬る事を目的として作られている珍しい剣だ。
それだけに扱いや手入れが難しいと聞くが…目の前の男はそれを使いこなしているらしい…
厄介な相手に見つかってしまった…
「…アンタは…カマル前近衛兵長の、息子か」
リザは低く、だが周りにも聞こえるようにはっきり言った。
すると目の前の青年は少し目を細め、微かに頷く。
カマル近衛兵長…レオは記憶にある彼の顔を思い出した。
屈託なく笑う姿はほんの少し父に似ていた。
いつも自由奔放な城の兵士達をたしなめる。
落ち着いた声色で。
…だが、あの時初めて、声を荒げていた。
襲いかかってくる者達。
大声で叫ぶカマル近衛兵長。
そして
「…お前に殺された…」
青年は絞り出すように言う。
「父はお前に殺されたんだ!理由もなく!国王に忠誠を誓っていたのに、最期まで王族であるお前を護っていたのに…お前は!お前は!!」
青年の声が荒くなってくると同時に、レオの体は氷のように冷たくなってきた。
痙攣を起こしたかのように震える。
寒いのではない。
体は冷たいが、内側は熱を持っている。
そして、頭の中は混乱し始めている。
父、カジキ王が死んだと言われ、悲しむ暇もなく周りの戦士達が襲いかかってきた。
最初は逃げていた。抵抗もした。拒否もした。
だが、何かがプツンと切れると同時に意識は奥深く沈んでしまったのだ。
しかし、体は覚えている。
襲いかかってくる者を床に叩きつけた。
逃げる者の足を潰した。
そして、
助けてくれた者を、無関係の者を、命乞いをする者を
味方をしてくれたカマルを
「レオ様、しっかり!」
リザの声でレオは我を取り戻した。
汗は流れ続けているが、足元はしっかりとしている。視界もぶれていない。頭の中は…まだ少しまとまっていない…が問題はない。
「──確かに…レオ様は正当防衛以上の事をしてしまったが、今はもう十分反省と償いをしているんだ!許してくれとは言わない!だが、もう─」
「ふざけるな!!」
リザの言葉を遮り、青年は怒鳴った。
同時に…否、実際は目視出来ない位高速で刀を抜き、レオに向けた。
「反省?償い?…まさか、時間で全てが解決するとでも思っているのか?──そんなわけないだろう?!家族を、父を、大事な者を殺されたんだぞ!?時間なんて、反省なんて関係ない!返せ…父を返せ!」
青年の構えた刀が一瞬ブレた。
その隙を狙おうと、リザはアックスを構え直すが青年は警戒を緩めなかった。
一旦刀を鞘に戻し、身を低くして、右手を柄に乗せる。
…典型的な居合いの構えだ。
「我が名はユエ…父、カマルの敵討たせてもらう!!」
ユエと名乗った青年は目にも止まらぬ速さで刀を抜き、リザに斬りかかった。
リザはそれを手にしたアックスで弾く。
一瞬隙を見せたユエに続けざま攻撃を繰り出──そうとした時、リザは後ろに跳んだ。
…本能的に危険を察したから…
レオもその危険を目視していた。
「御機嫌よう」
「…ちっ…見つかったか」
「ユエが突然姿を消してしまうから、本当に焦りましたのよ」
ユエの隣に立っている娘…薙刀と呼ばれる剣を持った新たな敵に、レオは内心舌打ちを打った。
確かにこれで二対二、傍から見れば互角…だが自分は防具を着けていない。
ユエだけならば何とかなっていたかもしれないが、相手が二人となると話は違う。
相手の狙いは自分。
もちろん防具を着けていないのだから、敵討ちの絶好のチャンスだ。
自分は数に入らない…と言う事は、実質一対二…
「リザ…予備の武器は持っているか?」
「すみません、慌てていたので手持ちはこれだけです」
「…では、隙を見て──」
レオが瞬きをした瞬間、眼前を刀が掠った。
──いつの間にかユエが間合いに入り込んでいた。
ユエは突き刺さるような視線でレオを睨む。
「阿呆…隙など作らせるものか…!!」
「…っ」
「レオさっ…」
「貴女のお相手は私がさせて頂きます」
レオを庇おうとしたリザの前に薙刀の娘が割り込んだ。
ユエは何回か刀を振るい、レオを後ろに移動させる。
リザは目の前の娘に集中せざる負えず、レオとの距離を開かせてしまった。
薙刀の娘は柔らかく微笑んだ。
「これで、正々堂々一対一、ですね」
一対一となり、レオはユエと対峙した。
息をつく間もなく、ユエは再び構え、抜刀すると同時に斬りつける。
その速さは先程よりも増していた。
レオの本領は体術…装備がなくとも己の肉体だけで戦える。
そしてどの武術よりも身軽なのが利点だ。
よって、どんなに相手の剣術が速くとも、レオが相手の懐に入るのは簡単だろう。
…だが、居合いは自分から攻めるのではなく、相手が自身の間合いに入った時に斬りつける剣術。
間合いに飛び込んだが最後。
研ぎ澄まされた反射神経によって切り捨てられてしまうだろう。
…かと言ってこのまま防戦のままでは無駄に傷を負うばかりである。
レオが考え、避けるたびに、体の傷は増えてゆく。
どんなにレオの反射神経が良くても完全に避けるのは難しく、服をかすってしまう。
ユエには隙もなく、踏み込む事も出来ない。
「(どうしたら良い…?)」
レオの焦りは動きを遅くさせ、ユエもそれを察しさらに抜刀を速めた。
