Esperanza Leon(完結)
●●●
昼間だというのに遠くの空が黒く、重苦しい。風も強く、木々の枝が大きく揺れている。
──嵐の前兆だ。
海に頻繁に出ていた父から天候の読み方はよく教えられていた。特に嵐は五つ国大陸全体に被害が及ぶ可能性がある為、しっかりと把握しておくようにと言われていた。
──今回の嵐は武国に直撃はしないだろうが、夜頃には大雨になるだろう。
レオは湿気ったパンをかじりつつ、窓のから見える黒い雲を眺めてぼんやりと考えていた。
どんよりとした空は関係ないと言わんばかりに、武国の城はいつもと変わらず、ガヤガヤと騒がしい。
中央の広場からは微かに兵たちを訓練するリザの声が聞こえてくる。
リザは五つ国全体を守る武国の近衛隊長だ。言うならばレオの次に強く、偉い。だから部下を訓練するのも彼女の仕事である。
…本当はレオも行わなければならない仕事なのだが、人に教えるのが下手なので任せている。
それに、兵士達もリザの言う事の方が聞くだろう。
「(私に忠誠を誓う者なんて数えるほどしかいないからな…)」
パンの最後の一口をかじり、リザが訓練を行っている声を改めて聞く。
城内の食堂は他の場所と違い、静寂に包まれている為遠くの声も聴き取れる。
リザの声は快活で、元気よくはっきりとしていて、爽やかだ。聞いているこちらを明るくしてくれる。
自分とは正反対だ。暗くてどんよりした空のような低い声…周りを不幸にする自分を象徴するような声だ。
──リザは落ち着いていて威厳があると褒めてくれたが…今もまだそう思ってくれているだろうか?
何気ない会話で笑ってくれるだろうか?また、傍に来てくれるだろうか?
「(─…仕事をサボって何を考えているのやら…)」
自分にツッコミを入れる。しかし、仕事という仕事もないのだから別に良いだろう。
レオは立ち上がり、軽く体を伸ばした。
最近レオに対して牙を剥く輩が少なく、平和が続いている。
…リザとは相変わらずギクシャクしたままだが…
あれからリーフがワケを話しに来たが、リザは信じようとはしなかった。
その頑なな態度は異様だった…が、今までの彼女に頼ってばかりだったので嫌気がさしたとも受け取れる。
だからレオは黙って、なるべくリザに近付かないようにしていた。
「(…嵐はこれからすぐ農国に直撃するだろう…今のうちに城の窓の補強を──)」
レオが食堂を後にしようとすると、不自然な足音がこちらへと近付いくるのに気付いた。
城の中にも関わらず完全武装し、殺気立っている…普通バレバレな気配は消すはずだが…とにもかくにも、標的は自分に間違いないとレオは身構えた。
「ここに居たのか!!」「見つけたぞ!」「皆!かかれ!」
食堂に男達の怒声が響く。
レオは身構えた拳を崩さず…後方へ跳んだ。
──男達の顔には見覚えがあった。毎日顔を合わせ、自分に忠心を誓ってくれていた兵士達だ。
レオ自身も信頼していた。
「逃げるぞ!」
レオは兵士、今は謀反を起こした男達の声を背中に受けつつ窓から外に出た。
流石に今まで特に近しい仲間だった者を手にかけるのは抵抗がある。
レオは窓の外から塀伝いに走ると、前方からまた別の兵士達が向かってきた。
後ろを振り返っても、同じように追手が来る。
…無理矢理突破しても良いが、今は戦闘用の装備をしていない。
多少の怪我は覚悟した方がいいかもしれない…とレオは勢いを付け、前方へ走り出した。
怯まず向かってくるレオに複数の男達は一瞬驚き、動きを止めた。
その一瞬を見逃さず、レオは脇をすり抜ける。
しかし、流石に全員の隙は揃わないようで軽く足や頬を切られてしまった。
「(…致命傷ではない…このまま城外へ──)」
頬に流れる血を手で拭い、レオは走り続けた。
後ろからは怒声が聞こえてくる。
装備をしていない事が逆に身を軽くしたらしく、追手よりも早く走る事が出来た。
だが、流石に装備がなくては相手を正面から迎え撃つ事が出来ない。
不意打ち等は…あまり好きではない、抵抗がある。
どこかで装備を整えたいが、相手はそれを許してはくれそうにない。
レオの追跡を緩めず、どんどんと距離を詰めてくる。
━城門を過ぎてもそれが続くので、レオの額に冷たい汗が流れた。
もしかしなくとも、城の兵士全員、城下の人々全員が敵になってしまったのかもしれない…
レオは目だけを動かし、辺りを確認するが道には人一人姿がなく、後ろで男達が怒声を上げているのに、城の兵士が誰一人として駆けて来ない。
これは不自然極まりない。
「(━なるほど…)」
レオは状況を察し、目を細めた。
行く手にまるで図ったかのように敵が待ち受けている。
…否…
『謀っている』のだろう。
恐らく自分達の有利な場所にレオを誘い込み、討ち取ろうとしているのだ。
よくある常套手段だ。
だが、分かっていたとしても誘導からなかなか抜け出す事は出来なかった。
相手の意図していない方向へ行った…と思ってもその先に敵は待ち構え、戻って別の道へ行こうともそれは変わらない。
…レオの心理をよく読んだ上手い配置だ。
癖や習性もよく理解している。
「(身近な者が手を貸しているのは間違いないな…)」
レオは隙あらば斬りつけてくる敵をかわしつつ、考えた。
一体誰が…確かに後ろにいる敵の一部は城の兵士…信頼していた者達だ。
だが、ここまでレオの心理を読めるのだろうか?
疑いたくはないが、どうしても脳裏にかする。
──いや、今は目の前で起こっている事をどうにかしなければ。
『誰が』等はコレが終わってから、ゆっくり考えよう…
レオは走る速度を速めた。
昼間だというのに遠くの空が黒く、重苦しい。風も強く、木々の枝が大きく揺れている。
──嵐の前兆だ。
海に頻繁に出ていた父から天候の読み方はよく教えられていた。特に嵐は五つ国大陸全体に被害が及ぶ可能性がある為、しっかりと把握しておくようにと言われていた。
──今回の嵐は武国に直撃はしないだろうが、夜頃には大雨になるだろう。
レオは湿気ったパンをかじりつつ、窓のから見える黒い雲を眺めてぼんやりと考えていた。
どんよりとした空は関係ないと言わんばかりに、武国の城はいつもと変わらず、ガヤガヤと騒がしい。
中央の広場からは微かに兵たちを訓練するリザの声が聞こえてくる。
リザは五つ国全体を守る武国の近衛隊長だ。言うならばレオの次に強く、偉い。だから部下を訓練するのも彼女の仕事である。
…本当はレオも行わなければならない仕事なのだが、人に教えるのが下手なので任せている。
それに、兵士達もリザの言う事の方が聞くだろう。
「(私に忠誠を誓う者なんて数えるほどしかいないからな…)」
パンの最後の一口をかじり、リザが訓練を行っている声を改めて聞く。
城内の食堂は他の場所と違い、静寂に包まれている為遠くの声も聴き取れる。
リザの声は快活で、元気よくはっきりとしていて、爽やかだ。聞いているこちらを明るくしてくれる。
自分とは正反対だ。暗くてどんよりした空のような低い声…周りを不幸にする自分を象徴するような声だ。
──リザは落ち着いていて威厳があると褒めてくれたが…今もまだそう思ってくれているだろうか?
何気ない会話で笑ってくれるだろうか?また、傍に来てくれるだろうか?
「(─…仕事をサボって何を考えているのやら…)」
自分にツッコミを入れる。しかし、仕事という仕事もないのだから別に良いだろう。
レオは立ち上がり、軽く体を伸ばした。
最近レオに対して牙を剥く輩が少なく、平和が続いている。
…リザとは相変わらずギクシャクしたままだが…
あれからリーフがワケを話しに来たが、リザは信じようとはしなかった。
その頑なな態度は異様だった…が、今までの彼女に頼ってばかりだったので嫌気がさしたとも受け取れる。
だからレオは黙って、なるべくリザに近付かないようにしていた。
「(…嵐はこれからすぐ農国に直撃するだろう…今のうちに城の窓の補強を──)」
レオが食堂を後にしようとすると、不自然な足音がこちらへと近付いくるのに気付いた。
城の中にも関わらず完全武装し、殺気立っている…普通バレバレな気配は消すはずだが…とにもかくにも、標的は自分に間違いないとレオは身構えた。
「ここに居たのか!!」「見つけたぞ!」「皆!かかれ!」
食堂に男達の怒声が響く。
レオは身構えた拳を崩さず…後方へ跳んだ。
──男達の顔には見覚えがあった。毎日顔を合わせ、自分に忠心を誓ってくれていた兵士達だ。
レオ自身も信頼していた。
「逃げるぞ!」
レオは兵士、今は謀反を起こした男達の声を背中に受けつつ窓から外に出た。
流石に今まで特に近しい仲間だった者を手にかけるのは抵抗がある。
レオは窓の外から塀伝いに走ると、前方からまた別の兵士達が向かってきた。
後ろを振り返っても、同じように追手が来る。
…無理矢理突破しても良いが、今は戦闘用の装備をしていない。
多少の怪我は覚悟した方がいいかもしれない…とレオは勢いを付け、前方へ走り出した。
怯まず向かってくるレオに複数の男達は一瞬驚き、動きを止めた。
その一瞬を見逃さず、レオは脇をすり抜ける。
しかし、流石に全員の隙は揃わないようで軽く足や頬を切られてしまった。
「(…致命傷ではない…このまま城外へ──)」
頬に流れる血を手で拭い、レオは走り続けた。
後ろからは怒声が聞こえてくる。
装備をしていない事が逆に身を軽くしたらしく、追手よりも早く走る事が出来た。
だが、流石に装備がなくては相手を正面から迎え撃つ事が出来ない。
不意打ち等は…あまり好きではない、抵抗がある。
どこかで装備を整えたいが、相手はそれを許してはくれそうにない。
レオの追跡を緩めず、どんどんと距離を詰めてくる。
━城門を過ぎてもそれが続くので、レオの額に冷たい汗が流れた。
もしかしなくとも、城の兵士全員、城下の人々全員が敵になってしまったのかもしれない…
レオは目だけを動かし、辺りを確認するが道には人一人姿がなく、後ろで男達が怒声を上げているのに、城の兵士が誰一人として駆けて来ない。
これは不自然極まりない。
「(━なるほど…)」
レオは状況を察し、目を細めた。
行く手にまるで図ったかのように敵が待ち受けている。
…否…
『謀っている』のだろう。
恐らく自分達の有利な場所にレオを誘い込み、討ち取ろうとしているのだ。
よくある常套手段だ。
だが、分かっていたとしても誘導からなかなか抜け出す事は出来なかった。
相手の意図していない方向へ行った…と思ってもその先に敵は待ち構え、戻って別の道へ行こうともそれは変わらない。
…レオの心理をよく読んだ上手い配置だ。
癖や習性もよく理解している。
「(身近な者が手を貸しているのは間違いないな…)」
レオは隙あらば斬りつけてくる敵をかわしつつ、考えた。
一体誰が…確かに後ろにいる敵の一部は城の兵士…信頼していた者達だ。
だが、ここまでレオの心理を読めるのだろうか?
疑いたくはないが、どうしても脳裏にかする。
──いや、今は目の前で起こっている事をどうにかしなければ。
『誰が』等はコレが終わってから、ゆっくり考えよう…
レオは走る速度を速めた。
